異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~
交差する思い(1)
廊下をしばらく歩く。
行先は、妹のセリーナが寝ているお部屋。
セリーナがいる部屋の扉を開けると、部屋の中は暖炉で温められていた。
「セリーナ」
妹が寝かされているベッドまで近づいて語り掛けたけど寝ていた。
「お母様、まだ寝ているようです」
「起こしたらダメよ?」
「はい」
頷きながらセリーナの頬を軽くつつく。
起こしたらダメと言われても、幼い子供の頬には触りたくなるのは人間の本能なのだ。
「シャルロット」
「はい……」
怒られてしまった。
どうやら私をずっと見ていたようで、きっと私が悪戯するのも予測していたのかも知れない。
「そういえば、国王陛下とお父様のお話は大丈夫でしょうか?」
「ルーズベルトに任せておけば大丈夫よ。それより問題は貴女でしょう? 隣国に嫁ぐのだから、それなりの準備をしないといけないわよ?」
「準備って……、何時頃に嫁ぐことになるのでしょうか?」
「そうね。私も貴族の婚姻に関してはよくは知らないのだけれど、相手方に嫁ぐのは15歳からとなっているわね」
「そうなのですか……」
つまり、この世界では成人が15歳と言う事なのかもしれない。
日本ではたしか女性は16歳から結婚出来る。
でも私が転生してくる前には、18歳に上限が引き上げられるようなニュースがあった気がするけど……、そのあたりは、いまはどうでもいい。
「そうすると、嫁ぐまでは5年もあると言う事ですか?」
私の質問にお母様は人差し指を立てながら。
「違うわよ。5年しかないのよ? 5年しかないの!」
「……えっと……、どういう……?」
「シャルロット。貴女、この世界のことを殆ど知らないわよね?」
お母様の問いかけに私は素直に頷く。
「でも、それが何か問題でも?」
「国王陛下も仰っておられたでしょう? 王家に嫁ぐためには貴族学院に通わないといけないって」
「――で、でも! そ、それって……、フレベルト王国に嫁ぐから必要なのでは?」
「えっとね。王家に嫁ぐということは、嫁いでくる人間がどういう身分の人間なのか、教養があるのかどうかを逐一見られてしまうのよ?」
「――え!?」
「貴女の場合は、家柄は伯爵家だから貴族の位としては上の方ね。それにエルトール伯爵家は、フレベルト王国建国時から続く家柄だから問題ないわ。でも……、それ以外がね」
「……」
つまり、就職でいう所の学歴と職歴も王家に嫁ぐ場合は必要になってくると言う事なのね。
でも、学歴って……。
日本に在学していた頃なら市が運営している小学校と中学校に通って卒業したから問題ないと思うけど……、それを言ったところで理解してもらえるとは思えないし……。
――あっ!? そうか。それで国王陛下は箔をつけるために貴族学院に通うように私に言ったのね。
ただ単に箔をつけるとしか思っていなかった。
あれ? でも、そうすると……、今の私ってかなりやばくない?
「お母様! もしかして、今の私ってかなり不味い状況ですか!?」
「ええ。隣国の王家に嫁ぐのだから、自国の王家に嫁ぐよりも頑張らないといけないわね」
 その言葉に私は頬に両手を当てる。
「シャルロット。それは何の真似なの?」
「ショックを受けたので、ムンクの叫びの真似をしてみました」
「――? 良く知らないけど、これからはきちんと勉強をしないといけないわね。少なくとも、この世界の地理や一般常識は学ばないといけないわ」
「……」
正直、思わずメンドクサイと言いそうになってしまったけれど、自分が決めた事だからここで何かを言ったらお母様に怒られそうな気がしたので心の中で思いとどめる。
「――さて、シャルロットの今後の事は、陛下とルーズベルト、それにアリスト様との話し合いの結果決めるとして、貴女はすることがあるでしょう?」
「――え?」
「もう忘れたの? アリエルのことよ。彼女の処遇は、シャルロットに委ねられたのだから頑張ってきなさい」
「は、はい!」
婚約話と、これからの用意の話で私の頭のキャパシティはいっぱいになっていた。
「私、アリエルさんを必ず連れてきます!」
「頑張りなさい」
「はい!」
私は、アリエルさんが収容されている部屋へと向かう。
どうやって説得していいか分からない。
だけど、相手からの言葉だけを受け身で受けていたら思いは伝わらない。
――ハッキリと自分の気持ちを伝えよう。
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