異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~

なつめ猫

婚約話(5)




「クリステル。茶化している場合ではないよ」
「――そ、そうね。ごめんなさい」

 お父様が、窘めるとお母様は素直に頭を下げた。
 
「申し訳ありません。陛下」
「気にすることではない。あまりピリピリとしていても仕方ないからのう。特にシャルロットは、緊張しているようだからな」
「そう言ってもらえると……」
「フレベルト国王陛下、失礼を承知でお願い致しますがカーレルド王国の近衛騎士団が来ている意味を御理解頂きたいのですが?」

 アリストさんの言葉に国王陛下は小さく溜息をつく。
 一瞬、弛緩した室内の空気が張り詰める。

「理解か……、ふむ……」

 国王陛下は一人呟きながら間を開けと口を開く。

「アリスト殿。エルトール伯爵令嬢であるシャルロットは大精霊の寵愛を受けている娘。普通の精霊の加護を受けた人間ですら王家に嫁ぐことが出来るというのに、それを他国に嫁がせる意味こそ理解して欲しいのだが?」
「――うっ」

 強い物言いにアリストさんの表情が引き攣る。
 そして、アリストさんと国王陛下の話し合いをお母様の横に座りながら見ている私は思っていた。
 ……どうして、私の婚約とか結婚とか将来の話をしているのに、私自身に決めさせてくれないのかと。

「お母様」
「どうしたの?」

 私は小さい声で話しかける。
 お母様も私に合わせて小声で返してくる。
 そんな私達の声は、同じ部屋内に居る国王陛下とアリストさんには聞こえているはずだけど、二人の話し合いの方が大事とばかり捨て置かれている。

「あの、私の結婚の話ですよね? 私が誰と将来結婚するのかとか、誰かに決めてもらうのは宜しくないのではないですか?」
「――え?」

 お母様が不思議そうな顔で私を見てくる。
 あれ? 私、おかしな事を言った?

「だって、結婚は好きな人同士でするものですよね?」
「え、ええ……。そうだけれども……」

 答えながらもお母様はお父様の方へと視線を向ける。
 お父様は、お母様の困った顔に溜息をつきながら。

「シャルロット」
「はい」
「貴族家だけでなく大きな家に生まれた子供の結婚と言うのは、基本的に当主が決めるものなのだよ」
「ええ!?」
「シャルロットが住んでいた異世界では好きな人同士の結婚が多かったかも知れないけれど、ここは違うのだよ?」
「……そ、そうなのですか……」
「シャルロットは、誰か好きな人とかいるの?」
「い、いえ――、特にはいません」

 異世界に転生してきてから殆ど家から出なかった私に気になる異性が居る訳がない。
 それでも、自分の意志を無視して将来を決められるのは抵抗がある。



「シャルロット」
「はい!?」

 考えていたところで国王陛下に名前を呼ばれて私は慌てて姿勢を正す。
 
「そう畏まる必要はない。アリスト殿と話をしていたのだが、シャルロットはフレベルト王国とカーレルド王国のどちらが良いのだ?」
「どちらいい?」

 国王陛下の言葉のどちらがいいという言葉が何を差しているのか、話をきちんと聞いていなかったから分からないけど「何がいいのでしょうか?」と、聞ける雰囲気でも無さそう。
 何せ、アリストさんも国王陛下も真剣な面持ちで私の方を見てきているから。

 お父様とお母様の方をチラリと見ると二人とも苦笑いしている。
 どうやら私が国王陛下とアリストさんの話をきちんと聞いていなくて答えに困っていることに気がついていたみたい。
 そんな私に、お母様は手を握ってくると「シャルロットは、フレベルト王国に残って暮らしたいの? それともカーレルド王国に責任を取る形で嫁ぐの?」と、語り掛けてきた。

 ――ああ、なるほど……。

 私は、心の中で呟きながらどうすればいいのか? と考えてしまう。
 正直なところ、どうしたらいいのか分からないけど……。

「あの……、フレベルト王国に残る場合の私の処遇はどうなるのでしょうか?」
「ふむ。そうだな……」

 やはり疑問に答えてきてくれたのは国王陛下。

「まずはフレベルト王国が運営する王都貴族学院に通ってもらうことになる。やはり王家に嫁ぐためには箔が必要だからのう。爵位に関しては伯爵家で問題はないが、大精霊の寵愛を受けている娘が嫁ぐ以上、エルトール伯爵家に関しては中央に官職を与えることになるだろう。それと同時に伯爵家から辺境伯に爵位が上がることになる。将来は他国からの侵略も出てくるであるからな」
「えーと、王都貴族学院ですか?」
「うむ。男爵家以上の子弟が通うことになっている。そこで貴族としての作法や常識を学ぶことになっているのだが……。本来であれば、エルトール伯爵家も通わせる仕来りになっているのだが……」
「――あっ! お金が無いから……」

 私は思わず手をポンと叩きながら呟いてしまう。
 それと同時に気まずい雰囲気が室内に漂う。
 
「シャルロット。駄目よ、あまり本当の事を言っては」
「は、はい……」

 お母様、フォローになっていないです……。


 


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