異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~

なつめ猫

心の在り方(4)




 アリエルさんやカルロ達が閉じ込められている部屋は分かる。
 お父様が兵士に指示していたから。

「あれは……」

 思わず声が出てしまっていた。
 何から話せばいいのかと考えて通路を歩いていた私は、いつの間にか客間の扉が見える位置にまで移動してきていた。
 扉の前には、エルトール伯爵領の兵士さんが二人立っている。

「シャルロット様?」

 気が付いた兵士の一人が私に語り掛けてきた。

「どうして、このような場所に?」
「少し中に居る人に話がありまして」
「ご当主様の許可は得ていらっしゃるのですか?」
「…………はい」

 お母様の許可は得たけど、お父様の許可は得ていない。
 たぶん、お父様は接見することを良しとしないと思う。
 兵士さんからの問いかけに、すぐに答えることは出来なかったから、たぶん通してくれないかも知れない。

「どうする?」
「エルトール伯爵様からは、シャルロット様が来たら見て見ぬふりをしろと言っていたような……」

 もう一人の兵士さんが顎に手を当てている。
 その兵士さんは、「アリエルに会いに来たんですよね?」と問いかけてきた。

「はい。でも、どうして……」
「伯爵様は、シャルロット様が訪ねて来られることを予測していました。シャルロット様はアリエルに会いに来ると」
「そう……、なのですか?」
「そうです。それで、アリエルに会いに来たと言う事でいいんですね?」
「はい」
「分かりました。アリエルだけを、応接室に連れていきますのでお待ち頂けますか?」

 兵士さんの言葉に私は頷く。
 それにしても……、私って……、そんなに分かりやすいのかな……?

 客間の隣の部屋――、応接室に入る。
 室内で待っていると隣の部屋に通じる扉が開くと兵士さんは連れられてアリエルさんが部屋に入ってきた。

「アリエルさん?」
「どうして!?」

 名前を呼ぶとアリエルさんが驚いた表情を見せた。

「わ、わたし……」
「私と話をしてどうしようと言うのですか? 私は、カルロの間者でした。いまさら貴女と語り合う必要性を感じませんが?」

 あまりにも突き放した言い方に私は逆に違和感を抱いてしまう。
 
「ひ、必要性とか……、そんな言い方しなくても……」
「そもそも、当主でも無い方が私のような者と話して何になるのですか? 何度も申しますが私は罪人です。貴女の情報を売ったのは私なのですよ?」
「それは、何か仕方ない事情とかあったとか……」
「…………」

 アリエルさんが深く溜息をつくと部屋に入ってから目を逸らしていた彼女は私の方を見てきた。
 その表情は、どこまでも無表情で瞳には感情が篭っていないように見えて。

「ハッキリ言います。私は、伯爵家に産まれただけで何の苦労もせずに毎日を暮らしていた貴女が嫌いです」
「――ッ!?」
「私に会いに来たのは自分が納得できないからですか? 一緒に暮らしてきたから裏切るのはおかしいと思っていたからですか? 裏切るには何かしらの理由があるはず……、そうやって現実を見ずに自分が納得するために他人に同意を得たいがためですか?」
「そんなこと……」

 アリエルさんの言っていることは間違っていないように思える。
 
「――で、でも! 私も、ハンカチを縫ったり……」
「フレベルト国内では、毎日を糧を得ることが出来ない子供たちが居るのですよ? 貴女は、それを知っていますか? 貴族だからという理由だけで毎日、何不自由なく食事を得られるというのが、どれだけ恵まれているということを理解しているのですか? まったく、世の中の子供たちは仕事の自由すら与えられず泥水を啜るようにして辛うじて生きているというのに」
「……」
「もういいでしょう? 私と貴女では生きている世界が違うのですよ。貴女と話をしているだけで虫唾が走ります。目障りです」

 何も言い返すことが出来ない。
 本当は、こんな話をしに来た訳ではないのに。
  
「兵士さん。私は話すことが無いので隣の部屋に戻ってもいいですよね?」
「あ、ああ……」

 兵士さんは、アリエルさんの言葉に頷くと彼女を連れて隣の部屋に戻っていった。
 扉が閉まると室内は静まり返る。
 何もアリエルさんに言えなかった。
 だって彼女の言っていることは間違っていなかったから。
 私は何も知らない子供で……、この世界のことも人々がどうやって暮らしているのかという事すらまったく知らなくて……無知で――。

「ううっ……」

 私は馬鹿だ。
 現実を認めたくなかった。
 一緒に寝食を共にしてきた人が裏切るなんて考えたくなかった。
 だから希望的観測に縋って彼女に否定されて……。
 瞳か涙が止めどなく溢れてくる。
 どうして、こんなことになったのだろう。
 どうして、こんなことに……。
 私は、どうしたらいいのだろう。
 心が痛い。
 心が痛いよ……。

  


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