異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~

なつめ猫

心の在り方(2)




「ニャン吉、どうして私のお腹の上で鰹節を削っているの?」

 それでも聞いてしまうあたり私は律儀な性格なのかも知れない。
 ニャン吉は鰹節を削りながら「シャルロットの胸は平だから削るには丁度いいニャ」とか言ってきたから、とりあえず首を掴んでベッドの方へ投げた。
 10歳の幼女な胸が平なのは世界の理であり心理なのは世界共通なのに、人が気にしていることを言ってくるあたりちょっとイラッってしまう。

「そんなに怒ることないニャ」

 ニャン吉は、猫のごとく空中で回転し鰹節を削りながらドヤ顔で話しかけてきたから枕を投げて黙らせておいた。
 まったく……。

「ねえ……」
「なんニャ?」

 ベッドの上で横になったまま、ニャン吉の方へと体の向きをかえる。
 
「間者ってスパイってことよね?」
「そうニャ」
「スパイって、どうなるの?」
「アリエルの事を言っているニャ? それとも一般的なスパイの扱いを聞いているニャ?」

 私としては、アリエルさんが今後、どういう扱いになるのかを知りたい。
 だけど、この世界の常識を身につけないといけないと思っていたから。

「一般的なスパイの事をまず教えてくれる?」
「間者が捕まった場合は、情報を得られるまで拷問されて死ぬ事が多いニャ」
「――そ、それって……。情報を包み隠さず話しても?」
「そうニャ。この世界には人権なんて存在していないニャ。あったとしても、それは多額の身代金が払えて影響力のある人物にしか適用されないニャ」
「……国王とか?」
「貴族や商人と言ったところニャ」
「それじゃ……払えない場合は?」
「高貴な身分の奴隷が欲しい人間に売られることや見せしめに殺されることが多いニャ」
「……ずいぶんと酷いね」
「そうかニャ? シャルロットが――、神無月朱音が居た世界だって大差ないニャ。スパイには拷問を加えて情報を得たり司法取引で2重スパイをさせられたりと良くあることニャ」
「――え? 私が居た世界って地球の事よね? スパイっているの?」
「何を言っているニャ。スパイなんて、どこの世界でも存在しているニャ。企業情報を盗むことだってスパイって言うニャ」
「そう……なのね……」

 日本にずっと暮らしていたのに知らなかった。

「まぁ、シャルロットが知らないのも仕方ないニャ」
「どういうことなの?」
「シャルロットの世界では、日本のマスコミは日本に危害を加える団体に関しては国民に極力流さないように忖度しているからニャ。高校に上がる前の学生が知る訳がないニャ」
「……」

 ニャン吉の説明に私は驚く。

「ニャン吉って、もしかして私より頭いい?」
「シャルロットが、どういう目で吾輩を見ているのか一度きちんと話さないといけない気がしてきたニャ。それよりも本題は、アリエルがどうなるのか聞きたいというところニャ?」
「う、うん……」

 ニャン吉の鋭い指摘に私は頷くことしかできない。
 まるで私の心の中を見透かしているよう。

「結論から言うと、答えは難しいとしか言えないニャ」
「それって、どういうこと?」
「アリエルは、エルトール伯爵家で少なくとも10年以上はメイドとして働いていた事になっているニャ。そして領内で起きた問題の裁定は、基本的に治めている領主が行うことになっているニャ」
「それって、つまりお父様がアリエルさんの今後を決めるってこと?」
「そういうことになるニャ。ただ、ここに一つ問題があるニャ。それは、アリエルがエルトール伯爵邸で勤めていたということニャ。つまり、今回の問題だとエルトール伯爵家を殺しにきたカルロと繋がっていた事になって、それは明らかな領主への反逆になるニャ」
「――そ、それって……。は、反逆罪ってこと?」
「そうニャ。カーレルド王国の騎士も現場を見ているということは隠すことも出来ないニャ。そうなると、他所の領主への体裁も考えた裁定を下す必要があるニャ。そうなると――」
「そ、そうなるとどうなるの?」
「極刑は免れないニャ。あとは、家族や親戚も死罪になる可能性も――」
「そんな……、どうにかならないの?」
「だから難しいと言ったニャ。シャルロットは、この世界に転生してきてから親しい人が死んだ場面を見たことがないニャ。シャルロットの両親だって、それを理解しているはずニャ。でも、最低でも極刑にしないと他所の領主にも示しがつかないニャ」
「……だから難しいって……。で、でも! もしかしたら、仕方ない理由でアリエルさんは、カルロの間者をしていた可能性だってあるかも知れないよね?」
「どんな理由があっても貴族の間者をすることは許されないニャ。それが、この世界の掟ニャ」
「――で、でも! 日本では、少なくとも容疑者側に弁護士がついて何とか容疑者を助けようとするわよね? 情状酌量の余地があれば罪が軽減されることだってあるよね?」
「ここは異世界ニャ」
「ニャン吉の言っている事が正しいことだって分かるけど! カルロがアリエルさんの弱みを握って従わせていた可能性だってあるかもしれないよ! そしたら、お父様だってアリエルさんを極刑にしない可能性だって――」
「もう一度言うニャ。最初に言った通りに、だから答えは難しいニャ」
「……」

 ニャン吉の言葉に私は何も言うことは出来ない。

「それと一言言っておくニャ。アリエルに、どうして間者になったのかと直接話を聞きに行くのはやめておくニャ」




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