異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~
心の在り方(1)
お父様と、砂漠の王国カーレルドの近衛兵団団長アリストさんが話をしていると、リンガスの町の方向から馬が走ってくる姿が見えた。
目を凝らしてみると馬には鎧を着こんだ男の人が乗っているのが見える。
「あれは……」
「エルトール伯爵領の数少ない兵士ニャ」
エルトール伯爵領にも兵士は居たみたい。
距離があるので正確な数までは分からないけど馬を数えると20以上はいる。
「結構な数がいるのね」
「シャルロットは、少し情勢に疎いニャ」
「うん。私も最近、この世界の社会情勢に疎い事を痛感しているよ」
「あとでクリステルに教えてもらうといいニャ。一応、貴族の令嬢ニャんだから勉強しないと駄目ニャ」
「う、うん……」
猫に諭される私って……。
「ルーズベルト様! ご無事で!」
「ハイネケン。ずいぶんと時間が掛かったな?」
「申し訳ありません! 他の兵士がリンガスの町を巡回していたため、時間が――」
「ふむ……。迅速に動けるようにしておけよ?」
「ハッ!」
到着した兵士――、結構イケメンの金髪の男性ハイネケンさんとお父さんの話を私は眺めながら。
「ねえねえ」
「どうしたニャ?」
抱きかかえているニャン吉に小声で話しかける。
さすがに、ピリピリとした雰囲気の中で普通の声量で話すほど度胸はないから。
「何だか……、いつもと違ってお父様がすごく領主っぽく見えてカッコいいね。働く男って感じ」
「シャルロット。あいつは、エルトール伯爵領の当主ニャ。領主っぽくじゃなくて領主ニャ」
「う、うん――」
ニャン吉と話をしている中、お父様とハイネケンさんの話が終わっていた。
「お前たち、この者達を拘束して伯爵邸の一室に纏めておけ」
ハイネケンさんの言葉に、20人ほどの兵士さんが一斉に動きだしてローブで縛られているカルロ一味が引っ立てられていく。
「――あっ! アリエルさん!」
連れていかれる人達の中にアリエルさんの姿が見えて、私は思わず語り掛けていた。
「シャルロット様……」
「あの……、えっと……」
何て彼女に話かけていいのか言葉が見当たらない。
カルロから、アリエルさんはエルトール伯爵家にスパイ――、間者として潜り込んでいた人だと言われたから。
それと同時に、小さな頃から寝食を一緒に共にしてきた事から、アリエルさんが間者だとは、どうしても私には思えなかった。
心の整理がつかないまま、私は条件反射的に話しかけた事に後悔してしまう。
「シャルロット」
「お父様?」
躊躇していると、お父様が私の肩に手を置いて名前を呼んできた。
「問いかけたいのは分かるが、もう少し冷静になってからでも遅くはない。部屋で休んできなさい。精霊様、お願いできますか?」
「仕方ないニャ。シャルロット、さっさと屋敷に入るニャ」
「――で、でも……」
「でもじゃないニャ。そんな動揺している状態で何を聞くつもりニャ。一回、気持ちを落ち着かせて整理してからでも遅くないニャ」
「……」
私は無言になる。
ニャン吉の言っていることは間違っていないと思う。
だけど、何となくだけど……。
「アリエルさん……。ほ、本当に……、カルロの指示でエルトール伯爵家に仕えていたの?」
「…………聞いてどうするの? 本当の事よ。そうじゃなかったら、こんな貧乏伯爵家で寝食を共にする訳がないじゃないの」
「――ッ!」
彼女は、私にそれだけ言うとエルトール伯爵領の兵士に連れられていった。
そのあとは、よく覚えていない。
気が付けば、私は自室のベッドの上で横になっていた。
「シャルロット、ごはんよ」
「お母様……、ごめんなさい。食欲が無いの」
「――そう」
お母様は、私の言葉に短く言葉を呟くと部屋から出ていった。
扉が閉まると室内に静寂が訪れ――、無かった……。
「ねえ、それって鰹節よね?」
「そうニャ」
ニャン吉が、私のお腹の上で鰹節をシュッシュッと丁寧に薄く削っている。
大工さんが使う鉋をどこから調達したのか不思議に思うところだけど、いつもなら突っ込みを入れているところだけど、今日は突っ込みを入れるような気持ちにはならない。
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