異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~

なつめ猫

もう一人の転生者




 エルリード大陸、北方に覇を唱える軍事国家ユークリッド帝国を本拠地とする商業ギルドであるベルンハルト。
 その構成人数は、ユークリッド帝国だけでも2000人を超えており、進出している国に至っては大陸全土に及ぶ。
 元々は小さな商家であったが、30年前から急速に力をつけており現在では、ユークリッド帝国の王城近くに巨大な商家を持つまでになっている。

 魔物が存在するエルリード大陸では、町というのは壁の中に建築される。
 そのため、利用できるスペースは限られており、広大な敷地利用を許されるのは本来であれば王族や、それに連なる公爵に市政を行う建物と決まっていた。
 だが、ベルンハルト商業ギルドの建物は、高さ5階建てであり煉瓦作りの建物。
 建物の一辺の長さに至っては100メートルを超えていた。
 見る物が見れば一目で理解できてしまう。
 商業ギルド【ベルンハルト】は、王室と同等の力を有しているのだと。
 ユークリッド帝国内では、商業ギルドである【ベルンハルト】の力は、王室政策にも及んでいるというのは周知の事実であった。

 そんな商業ギルド【ベルンハルト】の建物の一室に一人の男が椅子に座って届けられた手紙に目を通していた。
 男の風貌は、少なくともユークリッド帝国人では無いのは明らか。
 ユークリッド人の風貌と言うのは、北欧ヨーロッパ人に近い。
 それなのに、男の風貌はそれとは異なっていた。

「これは……」

 男は、手紙と共にカルロと言う男から送られてきた物を手に取り感嘆の声を上げていた。
 
「ゴンドウ様。それが何か?」

 富士山が刺繍されていたハンカチを手に持っていたゴンドウという男に、手紙を持ってきたサラリーマン風の衣服を身に纏った男が語り掛けた。

「これを送ってきたのは、エルトール伯爵領に左遷になったカルロという男という話であったが……」
「そうなります」

 扉近くに控えている男がゴンドウの言葉に即答する。
 ゴンドウは長考すると口を開く。

「俺は、エルトール伯爵領を知らない。どこにある?」
「フレベルト王国の辺境からとベルンハルト商業ギルド南方責任者からの報告です」
「ふむ……。フレベルト王国か……、たしか何の取り得も無い国であったな。そのカルロという男は、どのような男なのだ?」
「元々は、ユークリッド本部に勤めていた商人です。横領が発覚し左遷という形になっています」
「左遷? 普通なら懲戒免職ではないのか?」
「一応は、エルダ伯爵家のご子息ですので左遷がギリギリだったようです」
「なるほどな……」

 男は椅子から立ち上がる。
 そして本棚から大陸地図を取り出すと机の上に広げた。

「マガイン。エルトール伯爵領は、どのあたりになる?」
「ここです」
「……カーレルド王国と国境が隣接しているな」
「はい」
「ふむ……。そういえば、カーレルド王国の例の件はどうなった?」
「アドル・ド・カーレルド王太子の件ですか?」
「そうだ」
「呪術者は失敗したようです。どうやら、呪詛返しをされたようです」
「なるほど……」

 不機嫌になるゴンドウの雰囲気に扉近くに立っていたマガインの顔色が変わる。
 
「――で、ですが。すでに処理してありますので足が付くことはないかと――」
「そんなに怯えることはない。私も年であるからな」

 ゴンドウの言葉にホッとするのも束の間、マガインの体が炎に包まれる。

「ゴンドウ様!? ど、どうじて……」
「失敗するようなゴミはいらん。貴様のようなゴミの痕跡を辿られて私に被害が及んだらどうするつもりだ。まった、そんな簡単な事すら理解出来んから未開の猿共なのだ」

 マガインは断末魔の悲鳴を上げると同時に灰となり床に崩れ落ちる。
 それと見てゴンドウは肩を竦めた。

「使えんゴミだ。まぁ、代えは幾らでもいるがな――。それよりも……、これは間違いなく富士山の絵柄だ。まさか……、俺以外に、日本から転生してきている人間が居るとはな……。やはり、俺と同じで力を与えられていると見るべきだろうな……。もう一人、俺と同等の力を持っているのなら……、この世界の愚民共を支配することも可能だろう。ふむ……、名前はクリステル。年齢は20歳前後か。丁度いいかも知れんな。同じ日本人なら未開の猿共を見て困り果てているはずだからな。手を差し伸べてやるのが日本人としての優しさだろう」

 ゴンドウは、一人呟く。
 そして手紙を畳むと机の引き出しに入れ、机の上のベルを鳴らした。
 すぐに淡い桃色の色合いをしたスーツを着た女性が部屋に入ってくる。

「ゴンドウ様。またですか?」
「あまりにも使えない奴だったからな。今度は、もう少し使える人間を秘書として起きたいものだ。そこの灰は片づけておいてくれ」
「わかりました」

 女性は、灰となった人間の体を片付けながら答えた。

「そうだ。メイゼル、フレベルト王国エルトール伯爵領の事を少し調べてくれ。とくにハンカチを作っている人間の情報が知りたい。カルロと言う者に聞けばすぐに分かることだろう。その際には、その人物の映像を送ってくれ」
「わかりました。映像水晶を後で作って頂けますか?」
「問題ない。今、作る」

 机の引き出しから拳大の石を2個取り出すとゴンドウが握った瞬間に光が収束し光が消えるとゴンドウの手の上には、赤が1個、黄色が1個存在していた。
 
「これを持っていけ」
「こんなにですか?」
「ああ、とても興味があるからな」
「珍しいですね。そんなに興味がある人間が居るなんて……、ハンカチを納入ということは女性ですか? その女性に興味が?」
「そうだな……」

 ゴンドウの言葉に、メイゼルと言う女性の目が鋭くなる。
 ギリッと言う音まで口元から発せられるが、その事をゴンドウは気が付かない。
 
「赤が煉獄の魔法。黄色が映像保管の魔法だ。くれぐれも頼んだぞ?」
「畏まりました」

 メイゼルは、灰を掃除し終えると水晶を手に持って部屋を後にする。
 その後ろ姿を見送ったあと、ゴンドウは「日本の女か。刺繍が出来るってことは家庭的な女なのだろうな」と、一人妄想に耽る。




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