異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~

なつめ猫

親子の気持ち




「――で、でも……」

 無意識だった。
 私は、「地下室を先に見せると言って」歩き出したお母様の服袖を掴んでいた。
 
「シ、シャルロット?」
「――あっ……」

 意外だったのか……、驚いた顔でお母様は私を見てきた。
 そして――。
 何よりも、きっと誰よりも自分のとった行動が理解できなかったのは自分自身――、つまり私自身だった。
 お母様の服袖を掴んでいた事に気がついて、名前を呼ばれて初めて自分が何をしたのかおぼろげだけど分かってしまう。
 
「……ごめんなさい」

 服袖から手を離しながら言葉を紡ぎながら顔を伏せた。
 この体の産みの親はお母様。
 だけど、前世の記憶がある私と両親が実の親子なのかと問われれば違うような気がする。
 ニャン吉は、私と両親が実の子であると言ってくれたけど、やっぱり私にはそうは思えない。
 だから……、両親の決定に逆らうのは……。

「いいのよ。私のことを心配してくれたのね」

 室内の絨毯の上で膝をつくと私のことをお母様はギュッと抱きしめてくる。
 異世界に転生してきてから何度もスキンシップして嗅ぎ慣れた匂いに落ち着きながら素直に頷くと私の頭を撫でてきた。

「でも……良かったわ。貴女が自分の感情を無意識の内でも見せてくれて――」
「――え?」
「だって、私がどんなに貴女を愛していると大事な娘だと言っても、いつも一歩引いた感じを受けたもの。私は貴女のお母さんなのよ? もっと自分の意見をハッキリと言っていいのよ?」
「でも……、それって我儘なんじゃ……」
「シャルロット。自分の親に意見を言う事が我儘なら全ての事が同じ事になってしまうわ。私は貴女の何?」
「……」

 問いかけられた言葉は、私にとってすごく重い言葉で……。
 気軽に即答できるような内容ではなくて。
 
 ――だから。
 お母様から、顔を背けてしまう。
 でも、抱きしめられている私には答えを留保できるものではなくて。

「この体の産みの親……」

 そうとしか答えられない。
 記憶や人格は前世の日本で形成されたもので、この世界で形成されたものではないわけで。
 そんな私の答えを聞いたお母様は小さく溜息をつく。

「貴女は、セリーナが嫌い?」
「そんなことないです! 実の妹のように大事に思っています!」
「そうよね。それじゃ、もしセリーナが別の世界の記憶や人格を持っていたら? そしたらシャルロットは、妹の事を他人だと言うの?」
「そ、それは……」

 私は小さく言葉を紡ぎながら左右に頭を振る。

「そうよね。セリーナが、どんな存在であっても大事な家族には変わりないもの。そして、それはね……。シャルロット、貴女にも言えるのよ? 貴女は私がお腹を痛めて産んだ娘だし一緒に暮らしてきた大事な大切な宝物なの。それなのに、貴女自身が私達とは本当の家族ではないからと考えて距離を保とうとしているのはとても悲しいことだわ」
「……」
「だからね、もっと自分の意見を言ってもいいし、子供の我儘を聞いてくれるのなんて親くらいなのよ? だからね――」

 お母様の、私の体を抱きしめる力が一段と強くなる。
 何となくだけど……。
 聞こえてくる声が震えているような気がする。

「もっと甘えてほしいわ」
「……お母様」
「そうよね? 私は、貴女のお母さんなの」

 ギュウウと抱きしめてくる母親の微かに香る匂いを感じながら、私は自分がどれだけ転生してきた先――、産んでくれた母親が私の事を大事に思ってくれているのか実感する。
 何度も何度も私のことを大事だと宝物だと娘だと言ってくれていたのに、どうしても自分が、この世界では異端であると思っていた。
 
 ――思ってしまっていた。
 
 だから、いつもどこか一歩下がったところで物事を見ていた。
 傍観者の眼差しで見ていた。
 でも、それは私を愛してくれている人だけじゃなくて自分自身も不幸にしていることに、遅いけど気が付いてしまった。

「ごめんなさい。私、ずっと独りよがりの思い込みをしていて、お母様やお父様に対して、どこか後ろめたい気持ちを持っていました。だって、私は前世の記憶を持って生まれてきたから。本当のシャルロットじゃないんじゃかも知れないって、心のどこかで思っていて……。ニャン吉にも言われたのに……。私は、シャルロットだって。でも、どこか信じ切れずにいて――。それで……」
「いいの。ごめんなさいね。私こそ、貴女の気持ちを――、一人で抱えて苦しんでいた娘の気持ちを分からなくて」
「ううん。私が悪いの。私が意固地になっていたから」

 顔を上げるとお母様の顔が見えた。
 瞳からは大粒の涙が溢れている。
 
「シャルロットは、本当に泣き虫ね」
「――え?」

 気が付けば、頬に涙が伝っていた。
 日本に居た時には涙なんて殆ど見せたことがなかったのに、体が小さくなった影響からなのか本当に感情の抑制が効かない。
 
「お母様こそ泣いています……」
「いいの。だって、やっと家族になれた気がするもの。嬉し涙なの。シャルロットは、どうなのかしら?」
「わ、私も! お母様の娘として産まれてきて本当に良かったです」
「そう。よかったわ」

 問題は山積み。
 だけど――、今までで一番大きな問題を解決出来た気がする。

「シャルロットは、私にルーズベルトの元へは行って欲しくないのよね?」

 お母様の言葉に私は頷く。

「それなら襲ってくるかも知れない兵士達をどうやって凌ぐの?」
「――いい案があります!」
「いい案?」
「はい! 無駄に広い屋敷を利用して、生活魔法を活用して侵入者を撃退する方法です! その名も【お化け屋敷で兵士を撃退しちゃう作戦です!】」





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