異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~

なつめ猫

暗躍する者達(5)




 扉が内側に開くと、そこにはお母様とアリエルさんが居た。
 いたけど……。
 私は、お母様の様子を見て慌てて椅子から立ち上がると近寄る。
 お母様の洋服には血がついていた。
 
「お母様、大丈夫ですか?」
「ええ。それよりもアリエルが――」

 お母様の言う通りアリエルさんは、お母様に肩を借りて立っているだけで顔色も良くない。
 
「シャルロット。傷薬は残っているかしら?」
「少しなら……」

 問いかけに頷きながら調合室に残っている傷薬の数を頭の中で思い浮かべながら答える。

「すぐに持ってきてくれる?」
「はい」

 部屋の棚の中に置かれていたナイフをお母様は取ると、アリエルさんの上半身の服をナイフで切っていく。
 その様子を横目で見ながら、薬草などを調合している部屋に入る。
 屋敷内は魔法で明るくしていたから、思ったよりも早くお母様がいた部屋に戻ることが出来た。
 
「お母様、傷薬を持ってきました」

 私が調合した傷薬の残りは3個ほど。
 その薬を、アリエルさんが寝かされている絨毯の近くに置く。
 良く見ると、アリエルさんの背中には傷跡があり血が滲みだしてきていた。
  
「ひどい。一体、これは……。どういうことなんですか?」
「今は、それよりも傷口を塞ぐ事が先決。暖炉に火はあるわね。まずは血を洗い流さないといけないからお湯を沸かして」
「――あっ……」
「どうかしたの?」
「お母様。傷口は――」

 私は、傷薬を清潔なタオルに含ませるとアリエルさんの背中の傷口に当てた。

「――それは?」
「これは、湿潤療法と言います。前世で読んだ本に書いてあったので……」
「そんな方法を聞いたことがないけれど……」
「先進的な物なので!」
「そ、そうなの?」

 みるみるタオルが赤く染まっていくけど、しばらくするとアリエルさんの呼吸が安定してきた。その様子を見ていたお母様は「すごいわね。こうも効果があるなんて」と、感心していたけど、チート級の傷薬のおかげであると私は思っていたけど、その事を口に出したりはしない。
 しばらくタオルを抑えていたけど、アリエルさんの容体が安定したところでタオルを傷口から話すと綺麗に傷跡は消えていた。
 本当にチート級の薬だと感心せざるえない。

「何とか助けることが出来たわね」

 そう呟くお母様の言葉に私はようやく質問が出来そうだと口を開く。

「お母様。シャンティアの町に行く途中で何かあったのですか?」 

 私の言葉に、お母様は顔色を曇らせる。
 その表情から何かあったと察するには十分だった。

「シャンティアの町からの報告をしてきた兵士が居たわよね?」
「はい」
「その兵士が私を襲ってきたの。その時にアリエルは私を庇って負傷して、その為に戻ってくるのが遅れたの」
「――え? そ、それって……。その兵士って……、ダニエルさんとドミニクさんで……。それが偽物で襲ってきたのですか?」
「そう。でも彼らは偽物ではないわ。れっきとしたエルトール伯爵家が雇用している兵士。問題は彼らが、私を襲ってきた理由だけれども……」
「――待ってください! それでは、彼らはまた追ってくるのでは? 今、この館には――」

 私は、声を荒げてしまう。
 だって、エルトール伯爵邸には男手が居ないのだから。
 今、館に居てアリエルさんや妹を守るために動けるのは私とお母様だけ。
 対して相手は兵士で……。

「大丈夫よ。催眠香と痺れの薬を撒いて吸わせたから、一日は動けないはずだから――」

 お母様の言葉にホッとしながら絨毯の上に座り込んでしまう。
 立ち上がろうとしても足に力が入らない。
 まるで腰から下に神経が通っていないみたいで……。
 
「大丈夫?」
「安心して腰が抜けてしまったみたいです。でも……、お母様の話から考えると半日くらいは大丈夫?」
「そうね。夜明けと共に、移動した方がいいのだけども……」
「リンガスの町に?」

 セオリーとしては、お父様が居られるリンガスの町に向かうのがベストな選択だけど……。
 
「リンガスの町には私が行くわ。シャルロットは馬の乗り方を知らないわよね? それに、傷口が塞がってもアリエルはすぐには動けないから。セリーナと貴女とアリエルは、エルトール伯爵家が所有している地下室に隠れて助けを待つのがいいわね。地下室なら私とルーズベルト以外は知らないから」
「それって、お母様が一人で行動するということですよね?」
「――ええ。おそらくシャンティアの兵士が私の命を狙ってきたということは、バックには何かしら居るはず。一度、手を出してきた以上、放置しておくことは考えられないわ」

 何故かとても嫌な予感がする。
 何か分からないけど……。




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