異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~

なつめ猫

暗躍する者達(2)




「……少し待っていてもらえますか?」

 心臓は早鐘のごとく律動していて痛いほどだ。
 だけど……。
 お父様が屋敷に居ない以上、エルトール伯爵家で備蓄されていた小麦が燃えてしまった事に対処できるのは私とお母様くらいで、それを配下の兵士さんに悟られる訳にはいかない。
 何か起きた時に上司が慌てれば、それだけ部下に動揺を与えてしまうから。

「分かりました」

 私と話をしていた兵士さんが頷くのを見た後、彼を客間に通して水の入った器を2人分、テーブルの上に置く。

「あの……、これは?」
「シャンティアの町から来られたのですよね?」
「はい。そうですが……」
「馬車でも数時間の距離を走っていたのは存じておりますので、馬で来られても疲れていらっしゃると思ったので飲み物を用意しました。お水でも飲んでお待ちください」

 2人の兵士さんは頷く。
 もちろん飲み物を勧める際に名前は聞いておく。
 二人とも金髪碧眼の美男子だったので、体の大きさで判別することにした。
 体の大きい方がダニエルさん。
 一回り体格が小さい方がドミニクさんと言うらしい。
 二人は、小麦を備蓄している倉庫の警備に当たっていて、他の兵士さんと交代で倉庫を警備していたと。
 
「なるほど……」

 私はテーブルを挟んで二人の話を聞きながら思考を巡らせていた。
 本来ならば、お母様に報告するべき案件なのだけれども、今は妹のセリーナをお風呂に入れているし、こういう領地の問題に関して報告するにも、断片的な情報よりも第三者が客観的に聞いて分かるように物事を整理してから話をした方がいいと思い二人の兵士さんから話を聞くことを優先にしただけで。

「ところで、小麦を備蓄していた倉庫ですが、炎上した時に火元の確認は済んでいるのですか?」
「いいえ。それが……」
 
 ダニエルさんが、目を伏せて言いにくそうにしている。
 
「何か問題でもあったのですか?」
「エルトール伯爵様にお伝えした方がいいと思っているのですが……」

 私は、ダニエルさんの言葉に首を横に振る。
 
「お父様は、しばらく国境の町リンガスからは戻っては来られないと思います」

 断定した口調で私は自分の意志を彼らに伝える。
 日本であれば電話などを使えば一瞬で現状を伝え指示を仰ぐことが可能だけど、この世界では、それが出来ない。
 つまり、その場で最善の手を考えて行動しなければいけない。
 正直、前世の記憶があっても高校入学程度の知識しか無い私が最善手を打つのは無理だとは思う。
だけど、いくつか疑問点はあった。

 それは――。

「お母様にお伝えする前に、少し話を精査したいと考えているのですが、備蓄庫で延焼が起きた際の火元は分かっていないのですよね?」

 二人の兵士さんは、私の再度の問いかけに顔を見合わせると間を開けて頷いてきた。

「それで、倉庫をお二人の前に警護していた兵士の方も火元が分からないと言っているのですか?」
「それが……、私たちが交代に赴いた時には警備の者は居なかったのです」

 ――とダニエルさんが答えてきた。

「交代前に持ち場を離れる事があるのですか?」
「今まではありませんでした」

 ドミニクさんが否定してくる。
 
「つまり、今回に限ってと言うことでしょうか?」
「はい。それで……、私たちの前に警備をしていた兵士が備蓄庫が燃えてから行方不明になっておりまして――」
「そうですか……」

 小麦の備蓄庫が延焼し、尚且つ警備をしていた兵士さんの足取りも負えないとなると、兵士さんが何かの事件に巻き込まれたか、もしくは容疑者の可能性もありそう。
 だけど……、兵士さんから得られた情報だけでは何とも言えない。

 ――あとは。

「ところで小麦を備蓄した倉庫ですが、完全に延焼してしまったということですか?」
「はい……」
「どのくらいの量を損失したと考えられますか? それと、その小麦を失った状態ですとシャンティアの町への影響はどうなりますか?」

 私の問いかけに二人が思案顔を見せたあとダニエルさんが口を開く。

「小麦は、町の北側の倉庫と南側の倉庫に備蓄されています。今回は、北側の倉庫が完全に延焼しています。ただ、北側の倉庫はフレベルト王国に治める小麦ですので領民にすぐに被害が及ぶということはありません」
「そうですか……。ちなみに南の倉庫と分けられているのは何か理由があるのですか?」
「南側は、商業ギルドの倉庫です」

 ダニエルさんの言葉に頷きながら私は、領民にはすぐに被害が及ぶ事がないことに心の中で小さく溜息をついた。
 それと同時に、シャンティアの町へ視察に行く必要性も感じてしまう。




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