異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~

なつめ猫

暗躍する者達(1)



 お父様がリンガスの町に行かれてからすでに3日。
 エルトール伯爵邸は、男手が無くても平和であった。
 そして現在の私と言えば昼食の手伝いの為に調理場に向かっている途中で――。

「お母様?」

 通路でお母様と出会うことはすごく稀。
お母様に会う時は、自分たちで会いにいくことが普通だったのだけども。

「あら?」

 お母様は、妹セリーナを抱いていて「こんなところでどうかしたの?」と、語り掛けてきた。
 こんな場所でどうかしたのか? と言う疑問を持ったのは私の方だったのだけれども……。

「昼食の準備の手伝いで調理場に向かっていたところです。それよりもお母様は?」
「お風呂に浸かろうと思ってね」
「お風呂ですか?」
 
 今のエルトール伯爵家のお風呂は、朝に私が魔法の練習と言うことで掃除からお湯の張替えまで全て魔法で行っているので殆ど労力は掛かっていない。
 まぁ……、魔力は消費していると思うけど……。
 ただ、2回目以降はお湯を入れても貧血のような症状にはなっていないので、もしかしたら少しは魔力が増えたのかも。

「ええ――、せっかくお風呂があるのだもの。セリーナの体調管理も含めて清潔に保っておきたいから」
「そうですね」

 お母様の言葉に私も同意する。
 前世で、赤ん坊は少しの事で病気になると聞いたことがあるし、何より大人よりも遥かに新陳代謝が高くて汗を良くかくと本に書かれていた。
 
「あっ、お母様! 前世の知識ですけど赤ちゃんや子供は朝と晩にお風呂に入れた方がいいと本で読んだことがあります」
「そうね。よく汗をかくものね」

 やっぱりお母様は、子供のことを良く見ているなと感心してしまう。
 私の心の機微にもすぐに反応してくるし。

「はい。昼食が出来たらお部屋に持っていきますか?」
「大丈夫よ。久しぶりに食堂でみんな揃って食べてみたいわ」
「わかりました。アリエルさんにも伝えておきますね」
「ええ、お願いね」
「はい」

 お母様と別れた私は調理場の扉を開く。

「アリエルさん、手伝いにきました」
「お願いしますね」

 私は、魔法で薪に火をつけたあと瓶の中に水を足す。

「今日は食堂で昼食を摂るって言っていました」
「奥様が?」

 アリエルさんの言葉に私は頷く。
 何せ食堂で食事をしたことなんてセリーナが生まれてからと言うもの数えるほどだったから。

「はい。ですから妹とお母様の分の食器を用意しておきますね」

 彼女が頷くのを確認した私は食器類を手に持ちなら「重力軽減」の魔法を使い食堂に運び用意を終える。
 今までは何往復もしないといけなかったから、魔法が使えるようになってとっても便利になった。
 
 ――なったけど……。

「どうしよう……」

 いつもは、用意に時間が掛かっていたから料理が出来る時間を含めて丁度良かったけど、いまは手持ち無沙汰になってしまった。
 効率的に仕事を進めることが出来るのはいいんだけど、効率すぎるのも問題かも知れない。
 贅沢な話だけど……。

 私は食堂の椅子を引いたあと座る。
 食事を作るのは火などが危ないという理由でアリエルさんは手伝いをさせてくれない。
 つまり、これ以上手伝うことがないのだ。

 ――コンコン

「――ん?」

 屋敷の玄関の方から扉をノックする音が聞こえてきた。
 いつもならセバスさんが対応してくれていたけど、生憎セバスさんは王都に行っていて不在。
 アリエルさんは昼食の準備中で手が離せない。
 そしてお母様と妹はお風呂。
 対応できるのが私しかいない……、まあ暇だから丁度いいけど……。
 椅子から降りた私は玄関の方へ小走りで向かう。
 向かっている間も何度か扉がノックされている。
 何度もノックする人に私は心当たりがないけど……、

「どちらさまですか?」

 つい日本の感覚で扉の外に居ると思われる来客に声をかけてしまった。

「シャンティアの兵士です。大至急、エルトール伯爵様にお伝えしたい事がありまして」

 切羽詰まった様子なのが扉を挟んでも感じ取れる。
 扉を開けると、鎧を着た二人の兵士さんが立っていた。
 二人とも鎧は黒ずんでいる。
 血という訳では無さそうだけど……。

「どうかしたのですか?」
「エルトール伯爵様は?」
「お父様は、リンガスの町に行かれています」
「――あ、貴女は?」
「私は、シャルロットと言います。エルトール伯爵家長女ですけれど、何やらただ事では無いようですけれど、どうかなさったのですか?」
「それでは奥方様にお伝えください。シャンティアの小麦を備蓄していた倉庫で火災が発生していると」
「――そ、それって!?」

 兵士さんの言葉に私は驚くと同時に兵士さんの鎧がどうして黒くなっているのか理由が分かった。
 彼の鎧は煤が何かで黒く変色しているのだろう。
 それよりも問題なのが小麦を備蓄していた倉庫で火災が発生していることだ。
 倉庫を私は見た事がないけど、エルトール伯爵邸からシャンティアまでは馬車でも移動に数時間を有する。

「そ、それで! どのくらいの小麦が被害にあったのですか?」
「……そ、それは……」
 
 兵士さんの表情が曇る。
 それだけで私は察してしまう。
 
「備蓄していた小麦は全て燃えてしまい……」

 兵士さんの言葉に私は最悪の予感が的中したことに青ざめた。
 

 

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