異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~

なつめ猫

生活魔法(10)




 食器が洗い終わったあとは、布巾で水を拭ったあとに棚に片づける。
 そのあとは中庭に向かう。

「アリエルさん!」

 私は、セバスさんの代わりに水撒きをしていたアリエルさんを見かけて背中越しに話かける。

「シャルロット様? どうかなされたのですか?」
「手伝いにきました!」
「奥様の方は……」
「もう終わりました。あとは食器を洗って瓶の中には水を入れておきました」
「――え?」
「魔法で終わらせました。それで……」
「そういうことです……か……」
「はい、それで水撒きを手伝えばいいですか?」
「はい。お願いできますか?」
「わかりました!」

 私は、周辺の木々や花に水が撒かれていく事をイメージする。
 具体的にはスプリンクラーのイメージをしながら頭上に手の平を向けて。

「水散布!」

 頭上に掲げていた私の手の平から勢いよく天に向けて水の塊が昇っていくと、遥か頭上で爆発し辺りに水が降り注ぐ。

「シャルロット様……」

 もちろん私たちにも、その水は降り注ぐわけでアリエルさん共々、びしょ濡れになってしまった。
 失敗した理由は想像力不足としか言いようがないけど、思ったより広範囲を指定して水を撒くのは難しいぽい。

「ごめんなさい」
「いいですよ。それより風邪を引いたらいけませんので着替えましょう」
「はい……。あっ――!?」

 アリエルと屋敷に戻ろうとしたところで私は足を止める。
 このまま屋敷に戻って着替えたとしても、まだ春になったばかりで水を被って冷えた体が温まるまでは時間がかかる。

 でも、生活魔法でお風呂の水を温められれば……。

 いつも、エルトール伯爵家は少量のお湯で体を拭いて日々を過ごしていた。
 それは、お風呂を沸かす為の薪を節約していたから。
 財政難になってから使われたことがないお風呂場があると聞いたことがある。
 何せ私は転生してから使ったことがないから、聞いたことしかないのだ。

「アリエルさん! お風呂場で体を温めてから着替えませんか?」
「お風呂場を利用されるのですか?」
「はい!」

 やはり転生して10年は経過しているとは言っても根っからの日本人の私としてはお風呂に入りたいと言う欲求があったりするわけで。
 そして、体をお湯で拭いていたとはいえ、それだけでは満足できるわけもなく。

「でも薪が……」
「大丈夫です! 私には、魔法がありますので!」
「魔法ですか? 大丈夫なのですか?」
「――だ、大丈夫です! きっと……、たぶん……」

 アリエルさんが半眼で私を見てきたけど大きく溜息をつく。

「物は試しですね。シャルロット様、こちらへ」

 アリエルさんに案内された場所は、一階の通路突き当りだった。
 扉を開けると少し広めの部屋がある。
 おそらく脱衣場のような物だと思う。
 そして、その奥には日本の露天風呂のような物があった。

「以前は、地中から暖かい湧き水が沸いて出ていてそれを引いていたそうです。数代前のご当主様の時代に湧き水は枯渇してからは薪で沸かしていたお湯を入れてから水で温度を調整しましたが……。
 アリエルさんの言葉を聞きながら日本の一般家庭のお風呂場とは比較にならない程、大きな窪みを見ながら私は頭の中で人肌よりも少し暖かいくらいのお湯が空中から湧き出るイメージをしながら。

「御湯!」

 魔法が発動する。
 空中に大きなお湯の塊が作られていき、そこからダバダバとお湯が浴槽の中に落ちていく。
 するとお風呂場の冷え切っていた室温はあっという間に上昇していくと共に湯気が辺りに漂い始める。

「すごいです! こんな生活魔法を見た事がありません!」

 私はアリエルさんの言葉を聞きながら、魔法行使を絶妙なタイミングで打ち切る。
 すると、体中から力が抜けていくような感覚に襲われてその場に座りこんでしまう。

「シャルロット様!? だ、大丈夫ですか?」
「はぁはぁはぁ……、だ、大丈夫です」

 何故か分からないけど、すごく消耗していた。
 もしかしたら……。
 水を火で温めるイメ―ジか、コストが肉体に負担を掛けたのかも知れない。
 何度か試す必要がありそうだけど……。

「それよりお風呂に……」
「そうですね」

 私の言葉にアリエルさんは同意して。

「あ! アリエルさん。私、お母様も……」
「それなら私がお連れ致します。シャルロット様は、しばらく休んでいてください」
 
 そう言うとアリエルさんは浴室から出ていく。
 彼女の後ろ姿を見送ったあと私は壁に背中を預けながら呆けていると。

「シャルロット!」
 
 お母様が室内に駆け込んでくると私の前で座る。

「お母様?」
「魔法の修行を勧めはしたけれど自分自身の体調管理はしっかりしないとダメよ? 体にどこか異常はない? おかしなところがあったらすぐに言うのよ?」
「大丈夫です。慣れない魔法を使ってしまったので……」

 私の額や腕に手を当てていたお母様はホッとした表情を見せると私を強く抱きしめてきた。

「無理な魔法は使わないで。貴女は私の大事な大事な宝物なのだから。貴女が傷ついたらとっても悲しいわ。だから、何もかも自分一人で抱え込まず必ず私に相談してね」
「……はい」
「約束よ?」
「はい……」

 お母様は、私の手を取って立ち上がらせる。
 すると――。

「それにしてもお風呂なんて久しぶりね。知っている? お風呂は体にとってとってもいいものなのよ?」

 ニコリと微笑みかけてきたお母様の後ろには妹のセリーナを抱いたアリエルさんが立っていた。
 そのあと、皆で転生してから初めてのお風呂会を満喫した。




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