異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~

なつめ猫

生活魔法(9)




 ――コンコン

「シャルロット?」
「はい」

 私は扉を開けて中に入る。

「セリーナは、もうご飯を食べたのですか?」
「そうよ」

 トレイの上には空になったお皿が置かれていて、たしかに食事を摂ったのが分かった。
 エリクサーでお母様の体調が良くなるまでは、いつも食事を残す事が多かったけど、ここ数日は、ハーフポーションであっても料理を完食していて。

「それでは、お母様。トレイを下げますね」
「アリエルはどうしたのかしら?」
「庭の手入れをするとのことです」
「そういえば、セバスが居ないのよね」
「はい。それにお父様もリンガスの町に出かけているそうです」
「そうなの?」
「はい。お父様からは、お話を聞いていないのですか?」
「ええ。何かあったのかしら……。大事な用なら私に話をしてから出かけると思うのだけどもね」
「そういえば……」

 お父様は、お母様に心配をかけると思った時以外は、基本的にお母様に話をしてから出かけてきた。
 しかも今回は、屋敷を開けるのだからお母様に話をしないほうがおかしい。

「それだと、しばらく屋敷には男手は無いということになるわね」
「はい……」

 しばらくお母様は無言になり何か考え事をすると。

「それなら魔法の練習も兼ねてアリエルの手伝いをしてみたらどうかしら?」
「――え? で、でも……。アリエルさんからも教えてもらいました。魔法が使えるとエルトール伯爵家としては有益だと……、それに光の魔法が使えると王族に嫁がないといけないとも魔法書にも書いてありました」
「ふふっ、それは昔の話よ? たしかに魔法が使える事は貴族にとってとても重要な事だけども、勇者や聖女なんて昔の話だから王家に嫁ぐ可能性はとても低いと思うわよ?」
「――そ、そうなのですか?」

 ホッと胸を撫で下ろす。
 それにしても昔の話で良かった。
 よく物語だと勇者や聖女というのは魔王や邪神とセットで登場しているから昔の話なら、そんなこともなさそう。

「それなら私が魔法を使える事は大丈夫なのでしょうか? 光の魔法もそうですけど、お父様が王家に知らせないといけないみたいな事を言っていたのですけど……」
「たしかに光の魔法は、昔は有益だったけれどもね。今は、そうでもないから一応報告しておくくらいではないかしら? それよりトレイを持ってくるのをアリエルは待っているのではなくて?」
「――あ、はい!」

 私はトレイの上にお皿やスプーンやカップを乗せるとトレイを両手で持って部屋を出たあと、調理場に向かって歩く。
 エルトール伯爵邸は無駄に広い。
 何も持っていなければ、歩くのにそんなに苦労はしないけど――。

「ずっと持っていると疲れそう。そうだ! 何か魔法を……」

 この世界の魔法は文字の意味と起きる事象をしっかりと想像さえすれば発動する。
 それなら重さが軽くなるように考えて。

「……重力軽減!」

 手に持っていたトレイから重さが殆ど消えた。
魔法が発現したのが分かる。
 どうやら、私が予想していた通り魔法は日本語の漢字の意味を知っていて起きる事象を思い浮かべることさえ出来れば発動は出来るみたい。
 人差し指でトレイを支えたまま私は自分自身にも「重力軽減」の魔法を掛けて調理場まで歩く。
 調理場の扉を開けて中に入ると案の定、アリエルさんはいなかった。
 流しにトレイを置いてから水瓶を見る。

「水!」

 半分ほど減っていた瓶の中に水が貯まっていくのを見ながら満杯になるところで水が出るのが止まるイメージを頭の中で行う。
 それと同時に指先で発生していた水の塊が消える。

「うん。思っていたよりも魔法が簡単に使える。もしかして!」
 
 私は流しに置かれているお皿を見ながら頭の中で想像する。
 考えることは、食器洗い機みたいなもの。
 それと魔法で出来るように事象を考えながら。

「洗浄」

 力ある言葉と同時に、十数枚の食器にいくつものコップが空中に浮きあがる。
 それと同時に空中に無数の水の球と空気の気泡が作り出されて空中で水流が生まれると同時に食器やコップを洗っていくと、ほんの数分で洗浄が完了した。

「すごい……。でも、どうして日本の言語が魔法に関与しているのかな?」

 少し不思議でならない。
 でも、いまは魔法で何が出来るのかよりも、私生活が少しでも楽になるように魔法を使えるようにしようっと。




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