異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~

なつめ猫

生活魔法(3)




「わかりました」
「人前では、魔法は使わないように注意しなさい」

 お父様の言葉に頷こうとしたところで大事な事を思い出した。

「――お、お父様。わ、私……。生活魔法を、食事を提供してくれる店で働くジェニーさんと言う方に教えてもらったのですけれど……」
「どういうことなんだい?」
「はい。コルネットさんに町を案内して頂いていたのですけれど、服飾店から出た後にコルネットさんの知り合いの女性に声をかけられたのです。その際に、私はお酒が飲めないので、水を用意してくださったのですけれど、その際に生活魔法で水を作ってくれたのです」
「それで興味を持ってしまったと?」
「はい。それで、魔法について伺ったところ、生活魔法で水を作る方法を教えてもらったのです」
「……そういうことだったのか」
「はい。その際に、ジェニーさんの魔法を模倣して水を作り出して――、その場面をコルネットさんやジェニーさんに見られました」
「なるほど……」

 お父様は、椅子に座ったまま天井を見て考えごとをすると。

「わかった。見られたのは生活魔法だけなのだね? 天候制御魔法は見られてはいないんだね?」
「はい。それは、大丈夫だと思います」

 ――たぶんだけど……。

「クリステルには、その話はしているのかい?」
「えーっと……、お母さまには話していません」
「そうか。それならクリステルには、魔法の事に関しては言わないようにしなさい。体が復調したと言っても、余計な心労は体に毒だからね」
「はい」
「それでは、私は王族にシャルロットの天候制御魔法についての報告の手紙を書かないといけないから――」
 
 お父様の言葉に私は頷きながら「失礼します」と執務室から出ると自分の部屋に戻り寝間着に着替える。

 ――ベッドの中に入ると色々と思ってしまう部分が沸き上がってくる。
 
 もっと普通の物語だと神様に与えられた力を使って薬を作れば大金が手に入って、魔法が使えれば、領地が簡単に広げられて多くの作物が収穫できたりするのに……。

 すごい薬が作れると分かった時も、人間が使うことが出来ない魔法が使えると判明したさっきのお父様の反応も思っていたのとまったく違う反応だった。

「なんだかなー」

 なんだか納得いかない。
 万能の力には程遠いけど、強い魔法が使えるなら、それを自制するのは違う気がする。
 私はベッドの中で寝がえりを打ちながら、人が使えない天候制御魔法を利用すれば領地を簡単に開墾できるのにと思ってしまう。
 それに本当に天候制御魔法が使えるなら、理想の農業方法もできるし、もしかしたら土壌改良などもできるかもしれない。
 
「どうしてなのかな……」

 町で聞いた限りでは、お父様は領民から殆ど税金を取っていない。
 それなら、他で稼ぐ必要もあるし、貴族という地位が領民を守っているのなら、それを無くす前に税金を取るのは普通だと思う。
 それに……。
 もし、それをしないなら他に収入の伝手を作るのは当たり前のはずなのに……。
 そうすればセバスさんやアリエルさんにも満足いく給料を払えるかもしれないし、お暇を出している人達を雇えるようになるし、領地が豊かになれば町に活気が戻ってきてケインさんやコルネットさんも生活が楽になるかも知れない。

「……やっぱり、おかしい!」
 
 ベッドから出て窓際へと向かい外を見る。
 
「たしか麦撒きは、もうすぐってお母さまが言っていた。それなら、小麦が育ちやすいように土壌に力を与えれば……。土壌に力を与えると言えば、肥料だけれども……」

 たしか生活魔法は、頭の中で起きる現象を正確に思い描くこと。
 そして日本語の漢字を呟くことで魔法は発動する。
 つまり、それは一文字じゃなくてもいいってことで……。
 
 肥料を構成しているのは、窒素・リン酸・カリウム・石灰・マグネシウム。
 それらを含ませた雨が降るように頭の中で起きる事象を思い描く。

「肥料雨!」

 言葉を紡ぐと同時に霧雨が降り始め、しばらく様子見をしたあと「晴」と呟き霧雨を止めた。
 
「一応成功かな……」

 これで、どのくらいの効果があるか分からない。
 だけど、お父様に、話をすると止められそうだから一人でガーデニングでもして実験を繰り返して効果があれば、広範囲に降らせてもいいかもしれない。



 

「異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く