異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~

なつめ猫

生活魔法(1)




 まどろみの中、瞼を開ける。

「私の部屋?」

 首を傾げながら暗い室内を見渡すと自分の部屋だというのが分かる。
 ベッドから降りて窓に近づきカーテンをずらして外を見ると雨脚は弱いけれど雨が降っていた。
 私の生活魔法の雨かどうかは分からない。

「そういえば、今年に入ってから雨が降ったのを見たことがないかも……」

 唇に人差し指を当てながら外を見て考える。
 でも町の人の反応を思い出すと雨が降ってない印象を受けていた。

「どちらにしても情報が足りないかな。それよりも……、生活魔法について両親と話さないと」

 エルトール伯爵家は、魔法を使うための魔力が代々足りずに魔法が使えないとコルネットさんやジェニーさんが言っていたから今後のことも考えて早めに相談しておいた方がいいかもしれないし。
 部屋の扉を開けて通路に出る。
 矢張りと言うか日が落ちたことで無駄に広い伯爵邸の通路は暗い。

「そういえば!」

 流石に転生してきてから10年も経過していると暗闇の中をある程度見通すことはできたけど、暗いことには変わりはない。

「えーっと……。生活魔法を発動させるためには起きる現象を頭の中で明確に思い浮かべて、日本語である漢字を思い描いて口にする……」

 独り言のように呟きながら頭の中で、天井からLEDライトの光が降り注ぐイメージを思い描く。

「光!」

 言葉を紡ぐと同時に周囲が真昼のように明るくなる。
 天井を見上げるとそこには直径10センチほどの光の玉が存在していた。

「照明や光関係も生活魔法なのね。それにしても、生活魔法って思ったより便利かも。それに体感的に魔力を殆ど消費している気もしないし」

 天井に浮かんでいる光は、私が歩くと共に移動して着いてくる。
 自動的に周囲を照らしてくれるのはとても便利でいつもより早くお母さまのお部屋の前に到着することが出来た。
 突然、生活魔法を見せると驚かせるのかも知れない。

「暗!」

 言葉と同時に頭上に浮いていた光が消滅する。
 思ったとおり対義語を使うことで生活魔法を打ち消すことが出来るみたい。
 そうなると雨の対義語は何だろう?
 でも、ずっと雨が降り続けるということは無いと思うし、もし問題になるようならその時に考えよう。

 ――コンコン

「お母さま、シャルロットです」
「あら? 起きたのね。町はどうだったのかしら?」

 お母様は、妹をあやしながら語り掛けてくる。
 
「とても新鮮なことばかりでした。ただ――、何点か気になったことがあって……」
「気になること?」

 少し眉を顰めたお母さまの言葉に私は頷きながら。

「雨が降り始めると町の人が慌ただしくしていたのですが……」
「そういうことね。麦を撒く時期と言うのは貴女は知っているのかしら?」
「たしか春に撒く麦が4月から一か月間で、秋に撒く麦は9月からと習ったことがあります」
「そうね。それよりも……、秋に種を撒く方法もあるのね? それは――」
「はい。異世界の――、学校で習ったことです」

 お母さまの言葉に頷きながら言葉を返すと「そう。異世界では、農業も教えているの?」と、問いかけてくる。

「いいえ。あくまでも基礎教養の一つです。ですから小麦を大量に収穫する方法や農業に関しての知識は皆無です」
「深くは知識を追求しないということかしら?」
「それは……」

 どうなのだろう?
 だって、私は中学までしか卒業していないし高校入学前に転生してしまったし。
 文部科学省がどう言った考えで子供に勉学を教えていたなんて分からない。

「貴女を見ていると、広く浅く知識を教えているように思えるのよね? 多くの事に対応できるように土台を作っているようにしか……」
「土台作り……」
「別に私が感じただけだから、そこまで考え込まなくていいのよ。それにしても貴女が居た世界の教育はとても優れているのね」
  
 優れているかどうかは分からないけど、中学卒業までは土台作りと言われてしまえば確かにそうかも知れないと私は思ってしまう。

「でも、貴女が居た世界の教育は誰でも本当に受けられるものなの?」
「はい。一応は義務教育なので」

 頷きながら言葉を返すと「すばらしい国なのね」と、お母さまは感心したように言葉を紡いでいる。
 ただ、私には素晴らしいかどうかは分からない。
 何故なら、日本で暮らしてきて転生してきたから。

「それよりもお母さま。町の方々が雨が降って慌ただしくしていた原因を教えて欲しいのですが」
「実は、去年から殆ど雨が降っていないの。それで――」

 お母さまの話を聞きながら、どうして町の人達が慌ただしくしていたのか予想がついてしまう。
 つまり渇水状態で雨が降ったから種まきの為に町の人達は慌ただしくしていたのだろう。
 でも、それって――。

「お母さま。私は嫌な予感が……」

 私は、呟きながら最悪の事態を想定してしまう。。
 もしかしたら数年ぶりに飢饉が起きるかも知れない。
 それは領内の経営だけではなく領民の生活にも深刻が問題が生じるということに他ならない。
 それなら……。
 自分の両手を見ながら考え込む。
 私には生活魔法がある。
 それを使えば領内を豊かにすることも可能かもしれない。
 



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