異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~

なつめ猫

領地が大変です(7)

「やっぱり本当の事なんですか?」

 薬師ギルドの前で集まっていた人達がケインさんの様子を見て薬師ギルドが閉鎖するということに確信を持ったみたいで、一斉に不安そうな表情を見せる。

「コルネットさん、これは……」
「ええ。エルトール伯爵様と話し合いがどこまで決まったか分からないけど……、あの人は薬師ギルドではそんなに役職は高くないの。本部からは、エルトール伯爵領から撤退するような話で進んでいると来ているから……。でも……」
「でも? でもって何ですか?」
「えっとね、王都の薬師ギルド本部で決まっているかも知れないことを支店ギルドの責任者でも無い職員が勝手に話すことはできないの」
「話すことができないって……」
「私たち薬師ギルドは、王国が出資しているとは言っても有力な貴族が資金を出しているのには変わりないの。つまりね、慈善事業で薬師ギルドを各地に作っているわけではないのよ? だから、雇われている以上、迂闊なことは言えないの」
「そんな……、それじゃケインさんは……」

 道の真ん中。樽の中に二人で小声で話しながら外の様子を伺っているとケインさんがスキンヘッドの男に襟首を掴まれて持ち上げられていく。

「は、離しなさい」
「俺たちは、本当に薬師ギルドがエルトール伯爵領から撤退するのかどうかを聞いているんだよ! さっさと答えろ!」

 ケインさんを掴みあげた男が怒鳴ると周りに集まっていた町の人間たちも、それに続くようにケインさんに今後の薬師ギルドの在り方について問いただしていた。
 だけど、それはとてもじゃないけど平和的な話し合いで解決するような雰囲気には見えない。

「コルネットさん。ケインさんが、大変なことになってしまうかも知れないです」
「わかっているわ。でも……、下手に介入したら余計に……」

 そこで私はようやく気がついた。
 コルネットさんの手が震えていることに。
 彼女も、旦那であるケインさんに暴力が振るわれるかも知れない現場を見ているのだ。
 助けたいと言う気持ちは私以上にあるのかもしれない。
 だけど、それをしたら余計に集まっている町の人を刺激してしまうかも知れないし、数日後には、彼女の子供も町に来る。
 下手に手出しができないというのが現状なのだろう。
 それなら……、この場を何とか治めるためには薬師ギルド所属の職員よりも説得力のある人間が姿を現して説明をするしかない。
 それができるのは、今この場にいる私だけ!
 でも、私も屈強な男性達の前に出て発言をするのは正直怖い。
 だけど!

「シャルロットちゃん! 何をするつもりなの!?」

 私が無言で樽を持ち上げて外に出ようとしたらコルネットさんが私の手を掴んできた。

「私が、エルトール伯爵家令嬢として説明します」
「何を説明するの? 薬は伯爵家が提供すると説明するつもりなの? そんな話を貴女がしていいの? エルトール伯爵様の許可は取ったの?」
「それは……」
「シャルロットちゃんは、静かにしていなさい。きちんとした答えが無い説得や説明は相手を混乱させて大事になりやすいの。大丈夫よ、ケインなら……、1発や2発殴られるくらい……」

 コルネットさんは、そう話しかけてきてくれたけど、声は震えている。
 彼女こそ大丈夫そうに見えない。
 でも、たしかにコルネットさんの言うとおり私には、薬を提供することなどの決定をする権限なんてない。
 下手に発言するものなら、お父様の政策にまで問題が波及してしまう。

「ごめんなさい……」
「いいのよ、シャルロットちゃんはまだ10歳だもの。これから覚えていけばいいのよ?」
 
 彼女は、そう言って私を元気づけてくれるけど自分の無力さに苛立ちを覚えずにはいられない。
 せめて、何か人ではない現象で一時的に町の人の考えを別方向へ誘導させることが出来れば……。

「――あ!」
「どうしたの?」

 コルネットさんが突然、声を上げた私に対して怪訝な表情を向けてくるけど、たった今!自分の中で閃いたアイデアが、この場を収めることが出来るかどうかを頭の中でシミュレーションしていた私には気にならないことだった。

「なんでもないです」

 本当に出来るかどうか分からないし、生活魔法ではないかも知れない。
 でも! 魔法の基礎が似ているなら発動する可能性だってある。
 やってみる価値はあるし、できない可能性だってゼロじゃない。

 頭の中で雨が降る現象を思い浮かべながら雨と言う漢字を頭の中で思い浮かべる。
 すると、先ほどまで晴れていた空が突然暗くなると同時に雨が降り始めた。

「な、なんだ!? さっきまで晴れていたのに雨だと!?」

 ケインさんを掴んでいたスキンヘッドの男性は雨が降り始めたことに驚くと彼を地面の上に下すと空を見上げていた。
 すると一人の男性が「――お、おい。雨なんて一か月ぶりじゃないのか? こんなことをしている場合じゃないぞ!」と、呟くと薬師ギルドの建物前から離れていくとそれを皮切りに次々と集まっていた町の人達の姿が居なくなっていく。

「くそが!」

 ケインさんを掴んでいたスキンヘッドの男性も最後に言葉を吐き捨てると、その場を去っていった。「何とか大事にならずに済みましたね」と、ため息をつきながらコルネットさんに語りかけようとすると、コルネットさんは樽から出るとケインさんに近づき、彼の体を心配しているのか色々と聞いている。
 そんなコルネットさんを見ながら私は「雨って生活魔法なんだ」と、首を傾げながら一人納得していた。




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