異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~
領地が大変です(5)
「ええ。生活を楽にする為に、過去に存在した魔法師が作ったモノよ」
「普通の魔法とは違うのですか?」
私の言葉に答えながらジェニーさんは、コップの水をテーブルの上に垂らすと指先で文字を描き始めた。
それは見覚えのあるもので――。
「これは水を表す文字よ」
彼女が描いた文字は、日本語でいう所の漢字の【水】。
私は文字を見た瞬間、どうして異世界で日本の文字が使われているのかと考えて固まってしまう。
そんな私を見てジェニーさんは、心配そうに「どうかしたの?」と問いかけてくるけど、私は、なるべく表情に出さずに首を左右に振りながら心の中で考えを巡らす。
「あの……、この文字って昔からあるのですか?」
「私が知っている限り数百年前には生活魔法は存在していたはずだから、その頃からあったはずよ?」
数百年前……。
私が転生してくるかなり前に日本人が居たって事だよね?
でも、異世界転生するときに女神さんは、そんな事を一言も言っていなかった。
何か事情があって話さなかった可能性もありそう。
こんなことなら世界感をきちんと聞いておくべきだった。
「ずいぶんと昔からあるのですね」
「そうね、でも生活魔法や魔法は教わっていないの? 貴族なら魔力の有無も地位に関係があるのに……」
「そうなのですか?」
少なくともお父様やお母様には魔法などを教わったことがない。
「エルトール伯爵家は、貴族の中では稀に見るほど魔法は不得意だと王都で聞いたことがあるわ」
「コルネット、それって王都の薬師ギルドで?」
「ええ。たしか、生活魔法を使うにも最低限の魔力が必要なはずだから……。エルトール伯爵家は、その魔力が足りないと噂されていたわ」
「えっと……、それって――」
「あっ、ごめんなさいね。あくまでも噂ってだけだから……」
私の呟きに、コルネットさんが申し訳なさそうな表情で語りかけてくるけど、彼女の言い分も一つある。
今まで、魔法のことを両親が話さなかった理由も、コルネットさんが語った理由も一つかもしれない。
それよりも、私が異世界転生するときに魔法や薬師の才能もくれると女神さんは言っていたから、もしかしたら私には魔法を使うことが出来るかもしれない。
「それで、生活魔法は文字だけで発動するのですか?」
「起きる現象を頭の中に思い浮かべながら文字を頭の中で連想するのよ? そうしたら魔力が足りていれば魔法が発動するわ」
ジェニーさんの言葉に私は頷きながら頭の中で先ほど、ジェニーさんが水を作りだした時のことを思い出しながら【水】と言う文字を頭の中で思い描く。
「う、うそ……」
私の指先に10センチほどの水の塊が生み出されるのを見てコルネットさんは驚きの声を上げていた。
どうして、ジェニーさんが驚いたのか私には分からない。
「生活魔法って魔力が足りていれば誰でも使うことが出来るのですか?」
「そんなことないわ。だって魔法で使う文字と意味合いを完全に理解していないと生活魔法は発動しないはずよ」
「――え?」
一瞬、彼女の言葉が私には理解出来なかった。
でも、少しずつ理解出来てくるとジェニーさんが驚いた理由が分かってくる。
つまり、生活魔法の漢字は日本語という文字の意味合いを正しく理解していないと使えない。
何の予備知識も無く使えた私は、ジェニーさんにどう考えてもおかしいと思われた。
「もしかして……。貴女……、精霊様から何か習っていたの?」
「――! は、はい。何かの役に立つって……。それより精霊のことを知っているのですか?」
「ええ。商業ギルドの人間がエルトール伯爵家には精霊が居ると噂していたわよ?」
「商業ギルドの方が? それってつい最近ですか?」
私の問いかけに、ジェニーさんは左右に頭を振ると「少し前の話ね」と答えてきた。
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