異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~

なつめ猫

薬師ギルド(4)




「そ、そうか……」

 ケインさんは、コルネットさんの言葉に頷くと空いている椅子に座るようにと促していた。
 
「彼女は?」
「コルネットは、エルトール伯爵領の辺境の出なのです」
「なるほどな」

 お父様は、ケインさんの言葉に得心を得たような表情で頷いていた。

「つまり、薬師ギルドの者が他所の領地に移動しているのに、君が移動しなかったのは……」
「――そういう訳ではないのですが」

 言い難そうにケインさんは言葉を紡いでいた。

「私は、ケインの妻のコルネットと申します」
「妻には、薬師ギルドでの売り子担当をしてもらっているのです」

 ケインさんの説明に、コルネットさんは頷いていた。
 だけど店に売り子さんが見当たらなかったけど……。

 不思議そうな表情で彼女を見ているとコルネットさんは私の視線に気がついたのか「どうかしたのかしら?」と、語りかけてきた。

「いえ、お店には人の姿が見えなかったので……」
「ごめんなさいね。午前中は、殆ど人が来ないから開けておくだけにしているの」
「別に商売を蔑ろにしているわけではないのです。店に置かれている精製前の草花については、草原などで採れる物ですから、そこまで価値はないので――」

 コルネットさんの言葉に、厳しい眼差しをしたお父様に、慌ててケインさんが補足をしている。
 
「なるほど……。――と、言うことは薬師ギルドの方も経営は厳しい状況なのか?」
「はい。これ以上、赤字が続くようならエルトール伯爵領からは撤退も視野に入れなければという話も王国内でも上がっているようで……」
「そうか」

 ケインさんの言葉にお父様は厳しい眼差しをして考えて込んでしまった。
 
「お父様、薬師ギルドは民の私生活を支える薬を提供する場として重要と私は考えています」
「シャルロット?」
「――この際、傷薬を販売しましょう。利益を上げないと薬を販売する場所が無くなるというなら、その方が問題ですし……」
「私は以前から考えていたのだが――」

 お父様は、私の頭に手を乗せたあとに小さく溜息をつくと「一度、領内の薬師ギルドを潰した方がいいのかも知れないな」と、静かに言葉を紡いだ。

「エルトール伯爵様。それは、どういう事でしょうか?」
「薬師ギルドは、王国が出資している組織だと言うのは全員知っていると思うが、利益ばかりを優先して民を見ておらず撤退するというなら、そんな組織を領内に置いておく意味があるだろうか?」
「それは……」

 ケインさんやコルネットさんの顔色が曇るけど、その理由が私には分からない。

「お父様」
「なんだい?」
「薬師ギルドを、領内に置かないという選択肢を取れるのですか? 王国が出資している組織ですよね? 王国主導で行っているのでしたら、王国の貴族が必要ないと言うのは問題なのではないですか?」
「シャルロットの言いたい事も分かる。これが辺境では無いなら、街道の要所であったのなら王国も多少の赤字が出ようと病が広まらないように事前に対処するために無理をしてでも薬師ギルドを置いておくだろう。ただし、エルトール伯爵領は辺境に位置している。そのために、万が一があったら街道を封鎖すればいいだけだ。つまり……」
「何かあれば王国から切り捨てられる位置に領地があるという事ですか?」

 お父様は頷いていたけど、ようやく飢饉以降のエルトール伯爵領復興ペースが遅い理由に何となく得心がいった。
 つまり、王国では重要ではない辺境の地に存在するエルトール伯爵領に関しては、復興はどうでも言いと言うことなのだろう。

「失礼ですが、エルトール伯爵様のご令嬢は10歳と伺っていましたが……」

 コルネットさんは、視線を私に向けながらお父様に問いかけていた。

「そうだが?」
「それにしては……、ずいぶんと難しいことを考えられるのですね」
「妻に色々と教わっているものでな」

 お父様の言葉に、ケインさんもコルネットさんも苦笑いを向けてきた。
 私だって、10歳の子供が色々と突っ込みを入れていたらおかしいと思って突っ込みを入れる。
 それにしても、フレベルト王国は民の生活をあまり考えていないと言うのが、お父様やケインさんの話の節々から分かってしまう。
  
「お父様、薬師ギルドを潰したあとにどうするのですか? さすがに薬を売らないというのは……」
「エルトール伯爵家で、薬師ギルドを立ち上げようと思うのだ」
「えっと……、それって起業されるということですか?」
「「「起業?」」」
「はい。自分で会社を作って商売をすることですけど……」
「本当に、10歳とは思えないほど博識なのね」
「えっと……、お母様からの受け入りなのです」

 とりあえず、お母様から習ったと言うことにしておこうと。
 


 

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