異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~

なつめ猫

薬師ギルド(3)




「よ、余裕ですか?」
「はい。ご存知無いかと思いますが、私の家にはそんな余裕は無いですよね? お父様!」
「……そ、そんなこと……」
「たしかに……」

 お父様は言い淀んでいるけどケインさんは察してくれたのか相槌を打ってくれていた。
 どうやら、薬師ギルドの方もエルトール伯爵家の経済状態を把握しているようで、そこから来る配慮からなのか「分かりました。それでは入金や代わりに納入して頂くような薬は必要ありません」と、提案してきたけど私は首を横に振った。

「お父様、少し発言してもよろしいでしょうか?」
「構わないが――」
「ありがとうございます。あの……ケインさん。お母様から契約に関しては、きちんと調べた上でするようにと私は教えられているのです」

 契約について私が話すとは思っていなかったのかケインさんが一瞬だけ驚いた表情を見せてきた。
 それでも、一人で薬師ギルドを切り盛りしている方だけあって「それで?」と、すぐに気持ちを切り替えて話を進めるように催促してきた。

「契約と言うのは、収入と生活に直結してくると教えられました。そのため、先ほど金貨3枚分の対価を払って薬師ギルドに登録することを勧めてきましたが、私が断ると同時に必要ないと仰られておられましたが……。その点に関して幾分か思うような部分がありました。そのため、薬師ギルドに登録するのは時期早々と私は考えております」
「そ、そうですか……」

 ケインさんは、お父様の方へ期待の眼差しを向けていた。
 きっと、お父様に仲介を頼もうなどと考えているのかも知れない。

「ケインさん、私は薬を卸すのはあくまでも苦しんでいる方のためですので、そこまでお金に執着はしていませんので」
「エルトール伯爵様!」
「私に言われても困る。薬の作り方の伝授をしているのは、あくまでも妻であり薬を作っているのは娘なのだ。一般の貴族であるなら当主の一存で決めることが出来るが、エルトール伯爵家は、自主性を重んじているからな」
「そ、そうですか……」

 取り付く島もないお父様の言葉にケインさんは項垂れてしまう。
 まぁ最初から、登録費用がありませんよと言ってくれたのなら、私も登録したかも知れないけど、最初から不利な条件を提示してきたのだから、心象が悪くなってしまって契約を逃す羽目になったのだし、とくに罪悪感は浮かんでこない。

「そういえば、傷薬の価格はどうするのだ?」

 意気消沈しているケインさんに、お父様が語りかける。
 
「その事でしたら、薄めて通常の効能まで下げた薬を銀貨1枚で販売しようかと考えています」
「ふむ……」

 銀貨1枚と言えばエルトール伯爵家の一日分の食費に値するので、そこまで高いとは私は思わないけど、お父様はテーブルを何度か人差し指で叩くと「半銀貨で出来ないか?」とケインさんに語りかけていた。

「半銀貨……銅貨5枚ですか。かなり難しいと思いますが? 他所の領地では同じ効果の薬で銀貨2枚から3枚が適正ですよ?」
「領民には苦労を掛けているからな。それに、いままで薬の供給が無かったのだ。しばらくは手元に残そうとしてストックする者も出てくるだろう? それなら多少は金額を安くしても薄利多売で設けて領地の健康改善を前提に動いた方がいいのではないか?」
「それでしたら銀貨1枚で販売すればかなり儲かるのでは?」

 ケインさんの言葉にお父様は首を横に振って見せる。

「それは、許容できないな」
「何故ですか?」
「私としては、まずは領内の深刻な薬不足に関して梃入れをしたいと思っているからだ」
「……」
「それに、領内で病が蔓延などしたら、それこそ手に負えないからな」
「ですが銅貨5枚ですと、委託料として2割を頂いたとしても薬師ギルドとしては、あまり儲からないのですが? それに潜在顧客数は多いと言っても客単価が低ければ、意味は無いのはご理解して頂きたいのですが……」
「分かっている。その事に関してもいくつか案を考えている」
「そうなのですか?」

 ケインさんの疑問にお父様は頷いていた。
 私は二人の話を聞きながらお茶を飲みつつ、早く町の様子を見ておきたいなと思っていると、扉を開けて一人の女性が姿を現した。
 その女性は20代後半の金髪碧眼の女性で。

「コルネット、どうかしたのか?」

 ケインさんが慌てて部屋に入ってきた女性に語りかけていた。
 
「伯爵様が来られていると伺ったもので――」

 薬師ギルドには一人しか居ないと思っていた。
 まさか女性が居るとは……。


 

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