異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~

なつめ猫

薬師ギルド(1)




 商業ギルドから、しばらく歩いたところで私は息を切らせながら目の前の建物を見上げる。

「すいぶんと立派な建物ですね……」
「そうだな、薬師ギルドは庶民の生活には無くてはならないものだからな」

 お父様の言葉に頷きながら考えていた。
 たしかに医療は、人が生活を営んでいく上で必要不可欠な物であり、誰もがお世話になるものでもある。
 それにしても従業員が一人しかいないと聞いていたから、そこまで規模の大きい建物では無かったと予想していたけど、普通に日本の標準のコンビニエンスストアの倍くらいの敷地があることに私は驚いていた。

 お父様に連れられて建物の中に入ると、そこは商品が置かれていたと思わしき棚が並んではいるけど殆どの棚は空になっている。

 私は、お父様の後を着いて行きながら棚を見ていく。
 一部の棚には加工前の草などが並んでいるのが見えるけど、やはり加工後の商品は置かれてはいないみたいで――。

「店側から入ったことは無かったが、これは思ったよりも深刻なようだな」
「お父様は、以前に打ち合わせで来られたのではなかったのですか?」
「クリステルと来たときは、裏口を通ってきたからな」
「そうなのですか?」
「ああ、クリステルも元々は、薬師ギルドに所属していた薬師であったからな」
「お母様は、薬師ギルドに所属していたのですか?」

 私の問いかけにお父様は頷いてくるけど、そこで私はふと疑問に思った。

「お母様も貴族の身分で薬師をしていたのですか?」
「クリステルは、平民の身分であったよ」
「――!? そうなのですか?」

 お父様の言葉に驚きつつも、私はお父様やお母様の成り初めをまったく知らない事にいまさら気がつく。
 
「クリステルは腕の良い薬師であったからな。先代の当主、私の父が病に臥せった時に看病のためにと薬師ギルドに依頼して来たのが、シャルロットの母親であるクリステルなのだよ」
「そこで、お父様とお母様は出会ったということですか?」

 お父様は、私の言葉に「そうだよ」と、苦笑いを向けてくる。
 だから何となく察してしまう。
 何かあったのではないのか? と。

「話声が聞こえたと思いましたらエルトール伯爵様ではありませんか?」
「ケイン。店に誰も居なくていいのか?」

 お父様は閑古鳥が鳴いている店舗を見渡しながら、語りかけてきた金髪の男性――ケインさんに言葉を返していたけど、彼は両手を広げると。

「さすがに草のままですと誰も買っていきませんよ。それに調合するのにも道具が必要ですし薬草に関しての知識も必要ですからね。ですから、店頭には誰も居なくても問題ないのですよ」
「そうか……」

 お父様は小さな溜息をついたあと、口を開く。

「それにしても、もう話は纏まったのですか?」
「纏まったと言っていい。ただ、虫下しの薬は、エルトール伯爵領では始めて販売するものになる。だから値段を決めようにもな……」
「そういうことでしたか」

 ケインさんは、頷くと私とお父様を奥の部屋に通してくれた。
 奥の部屋を抜けると、通路の先には階段があり裏口と思われる扉が視界に入った。
 その横には二つ扉があったけど、ケインさんとお父様は階段を上っていってしまったので、二人の後を着いていくと、階段を上がった真正面に扉があり中に通された。

「ここが薬師ギルドの応接室になります」
「分かっている。すぐに話を進めてくれるか?」
「私は、シャルロット様に説明したつもりだったのですが」
「今日は、娘のシャルロットも町に着いて行きたいと言ったので社会見学も含めて連れてきたのだ」
「そうでしたか。それでは、お好きな席にお座りください。今、お茶を入れますので」

 ケインさんに勧められるままに私とお父様は椅子に座った。
 しばらくするとケインさんが部屋に戻ってくると私とお父様の前に飲み物を置いてから、テーブルを挟んだ向かい側の席に座ると、飲み物を勧めてきた。
 色合いからして、緑茶に近い気がする。
 お父様が口につけたのを確認した後、私も口に含む。
 やはり味は緑茶には近いけど、あまり美味しいとは言えない。
 
「さて、虫下しの薬の価格の前に実験結果ですが、かなり有用性の高いことが証明されました」

 ケインさんは、そう言いながら丸められた羊皮紙をお父様に渡してきた。





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