異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~

なつめ猫

商業ギルド(1)




 エルトール伯爵邸から、踏み固められた地面の上を馬車は走り続けること体感的に2時間くらい経過したと思う。
 私達の目の前には3階建ての煉瓦作りの建物が存在していた。
 御者さんの話だと、今、目の前に見えている立派な建物が商業ギルドの建物らしい。

「お父様、ここが商業ギルドの建物なのですか?」
「ああ、そうだよ」

 私の問いかけにお父様は答えてきてくれているけど視線は建物の入り口の方へと向けられている。
 私達を迎えに来た御者の方が、「しばらくお待ちください」と、私達を連れてきたことを商業ギルドの偉い人へと報告にいったから。

「お父様、商業ギルドは規模的に大きいのですか?」

 馬車の中で待たされているだけでは、時間がもったいないと思いギルドの関してのお話をお父様に伺うことにした。
 エルトール伯爵領における薬師ギルドの規模は縮小気味なのは、お父様の話を聞いていて知っていたけど、商業ギルドに関しては私も刺繍入りのハンカチを卸しているけど、実際の取引をしてもらっているのはセバスさんだから、詳しいことを知らないのだ。
 そう考えてしまうと、異世界に関しての知識が殆どないことに私は気がつく。
 あまりにも異世界に対して無知すぎる。
 一度、誰かに異世界について教えてもらったほうがいいかも知れない。

「規模か……。エルリード大陸で、いくつかの国に拠点を構えているよ」
「……いくつかの国?」
「エルリード大陸には、全部で7つの国が存在しているのだよ? 商業ギルドの大元は北方のフレンツ帝国にあるが、全部で5つの国に拠点を持っているのだよ」
「5つ……」
 
 ずいぶんと大きな組織らしいというのが漠然だけど分かった。
 
「エルトール伯爵様、お待たせしました。ご案内致します」

 お父様と会話していると馬車の扉をノックして顔を見せた御者さんんが、語りかけてきた。
 御者の方に案内されて、建物の中に入ると日本の区役所のような空間が広がっていた。
 広い空間は二つに分かれていて、一方が商業ギルドの方が仕事をするスペース。
 もう一方が30席近くの椅子が置かれている事から、商業ギルドに用件がある方用だと思うけど、今は朝が早いのか誰も座ってはいない。

「そちらの方が?」
「ええ、カルロ氏の部屋まで案内をお願いします」
「わかりましたわ」

 室内を見渡していると、近づいてきた物腰のやわらかそうな女性が御者の方とやりとりを始める。

「エルトール伯爵様。私は、カルロの秘書を務めるエレナと申します。グアンの代わりにご案内致しますので、よろしくお願い致します」
「わかった。よろしく頼む」

 エレナさんが、お父様に頭を下げながら自己紹介をしているけど、御者の方ってグアンって名前なのねと私は心の中で突っ込みを入れていた。

 それにしても……。

 エレナという女性もそうだけど、ホールを見渡す限り従業員が女性しか見当たらないのはどうしてだろう?
 それに服装も白のワイシャツに上下同じ紺色のベストとタイトスカートと言うのも気になる。
 まるで、制服のように感じられてしまう。
 でも、10歳の私が余計なことを聞くわけにもいかないから黙ってエレナさんの後を、お父様を追いかけるようにして着いていく。

「エルトール伯爵様をお連れ致しました」

 ホールを出て通路を歩いた先の突き当たりに当たる扉の前で、エレナさんは扉をノックすると扉を開けた。
 室内に通されると、室内の四隅には観葉植物のような物に中央には黒い石で作られた重厚感あるテーブルに、革張りの椅子が4つ置かれていた。
 
「これはお待ちしておりました。わたくし、エルトール伯爵領の商業ギルドマスターをしておりますカルロと申します」

 革張りの椅子に座っていた50歳くらいの男性が立ち上がると、握手のためなのか右手を差し出しながら、お父様に語りかけてくる。

「今回は、どのようなご用件で?」

 お父様は、カルロという男性と握手をした後に椅子を勧められて座ると早々に話を切り出した。
 本来なら今日は、薬師ギルドに行く予定だったから話しを急ぐのは分からなくも無いけど……。

「はい。用件はいくつかあるのですが……、伯爵邸からは、遠かったでしょう。まずは――」
「すぐに御用意いたします」

 カルロさんに視線を向けられたエレナさんは一礼すると部屋から出ていく。
 


 
 

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