異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~
教育制度です。
「はい。15歳までは学校に通っていました。ですけど……」
「どうかしたのかい?」
「じつは、高校に上がる前に転生してきたので……」
「高校?」
お父様の疑問に私は頷きながら口を開く。
「はい。私が生きていた日本という国では、教育機関や教育課程がいくつか存在していたのです」
「ほほう。それは、王立貴族学院とは違うのかね?」
「王立貴族学院?」
始めて聞いた単語に私は首を傾げる。
「主に貴族子弟が通う学び舎になる。10歳から16歳まで通うことが多いな」
「そうなのですか?」
私、10歳になったのだけど通っていないけど……。
「お父様、私……、一応10歳なのですけど」
「ああ、貴族の子弟と言っても主に通うのは跡を継ぐ男子だからな」
「つまり女は……」
「王族や裕福な伯爵以上なら通わせているが」
「そうなのですか」
つまり、男性優位の国家運営をしていると。
そして、女性には学は必要ないと考えられていると。
「シャルロットも通いたいのかい?」
「無料で通えるのですか!?」
「……いや、かなり高いな。年間、金貨100枚は……」
「――!? な、ならいいです。それなら私には必要ないです」
まさかの鰹節と同じ価格とは思っても見なかった。
年間金貨100枚と言うことは、銀貨1万枚と言うことで、その価格を稼ごうとしたら刺繍入りのハンカチを1万枚作らないといけない。
一日300枚も刺繍入りのハンカチを作らないといけないとか拷問にも程がある。
「それにしても高いのですね」
「そうだな。貴族同士の交流の場でもあるからな」
「そういうことですか」
たしかに上流階級の身分の子弟が集まるのなら、顔を広げるためにも通っておいた方がいいかも知れない。
それに比べて、女性は家を守るのが主な仕事になっている風潮すら感じるから、そこまで見聞を広める必要はないのだろう。
それでも、伯爵家以上の令嬢だと結婚した後も付き合いがあるから、通わせておいた方がいいと言うことかも知れない。
まぁ、私としては、あまり人付き合いは得意じゃないから静かに刺繍して薬を作って平穏に辺境でスローライフしていたいけど。
「でも、そう致しますと私が住んでいた日本とは赴きが異なりますね」
「ほほう」
「私が住んでいた国は大きく分けて二つの教育機関が存在していました。一つは私立と言いまして私財を投じた上で、国の認可を受けたあとに国からの補助を受けて運営をしている機関。もう一つは、公立や県立と言った全てを国が補助している教育機関です」
「ふむ……、そのような教育機関は聞いたことがないな。公立や県立と言った教育機関が王立貴族学院に近いか?」
私は、お父様の言葉に頭を左右に振って否定を示した。
何故なら日本の国公立の教育機関は、この世界の王立貴族学院とは、まったく異なるから。
「お父様、私が転生前に暮らしていた日本という国では、義務教育制度というものがありました」
「義務教育? なんだそれは?」
「簡単に申しますと、貴族だけではなく平民もある一定の年齢に達したら教育機関に通わせないといけないと国の法律で決まっているのです」
「――なん……だと……!? そ、それはお金が払えない平民でもか?」
「はい。むしろ国が国民の税金を使って学び舎を建てて教育者を雇って勉学を教えているのです」
「それは冗談では……ないようだな」
まっすぐにお父様を見ながら説明をしていると、本当のことだと理解してくれたのかお父様は、大きく溜息をついた。
「そうか……。ずいぶんと気前がいい国なのだな」
「気前が良いというか、勉強と言うのは子供たちの義務でした。教育機関も年齢に分かれておりまして小学校が6歳から12歳まで、12歳から15歳までが中学校、15歳から18歳までが高校、18歳から22歳までが大学、22歳から26歳までが大学院と言った感じです」
「まてまて、26歳まで勉強をするのか? 仕事はしなくて国は回るものなのか? 税金と言ったが、そこまで国は面倒を見ているのか?」
お父様が慌てて私に問いかけてくる。
何を慌てているのか私には分からない。
「はい。私立でも国の援助は入りますので――」
「……理解し難いな。そんな教育政策を取っている国を私は聞いたことが無いぞ」
「異世界ですから」
「そうであったな……」
お父様は、額に手を当てながら何度も「異世界とは恐ろしいものだな」と、呟いている。
教育制度だけで、そんなに恐ろしいものだと私には思えないけど、やっぱり領主目線だと感じ方が違うのかもしれない。
「…………シャルロット」
「はい」
「それで学校では、どのようなことを教えてもらっていたのだ?」
「えーと……、数学、国語、英語、歴史、地理、理科とかでしょうか?」
「数学と言うのは、商人や税務官が扱う数字の計算などか?」
「商人の方や税務官の方がどのような計算方式を使っているかは存じませんが、基本的に関数や図形や円周率や物体の重量計算などですね!」
「え、円周率? 重量計算? なんだ……、そ、それは……」
「たとえば、円い円を書くとします。その円の直径が10センチとした場合外周部である円の長さを求めるために使うのが円周率になるのですが、その円周率を学校で教えたり、それを使った上での物体の重量計算式や公式を学んだりしていました」
「…………」
「お父様?」
「い、いや――。なんでもない。それで国語というのは?」
「はい。国語は主に漢字、ひらがな、カタカナを使った読み書きや文章構成の勉強ですね。派生と致しまして古典というのもありましたが、私には良くわからなかったので覚えていません」
「そ、そうか……」
私の答えにお父様はホッとした表情を見せてくる。
そんなお父様を見ながら私は窓に息を吹きかけて漢字で薔薇と書く。
「そ、それは?」
「はい。これは薔薇と読みます。そして、こっちが「ばら」、さらにこっちが「バラ」です。全部、同じ意味を持ちますが文字が違うだけです」
「それは分ける意味があるのか?」
「さあ? どうでしょうか? あまり意識したことはありませんでしたけど」
「その複雑な文字は?」
「これが漢字と呼ばれる文字ですね。文字数は10万文字を超えていると授業で教えてもらったことがあります。たしか最初に古代中国から漢字が入ってきたのは2000年以上前だと……、お父様? 大丈夫ですか?」
話の途中からお父様が呆然としてしまっていた。
何かショックなことを、話したのかと思ったけどまったく覚えがない。
しばらく放心していたお父様が「シャルロットが住んでいた国は、どのような国だったのだ?」と、唐突に聞いてきた。
いきなりの質問に私は内心首を傾げる。
どのような国だったのかと聞かれても正直困ってしまう。
でも一言で表すなら。
「えーと、小さな島国でした。とくに資源も何もない輸入に頼っている国です」
「そ、そう……なのか? 何か特別な財宝が眠っていたりとかは?」
「そういうのは聞いたことはありませんけど……」
「だ、だが……、2000年以上前に文字が入ってきた記録が存在するんだよな?」
「はい」
「念のために言っておくが、フレベルト王国は建国300年。北方の最古のラフリア帝国に至っては建国1000年だが……、シャルロットが暮らしていた日本という国は……」
「詳しくは私も分かりませんが建国から2000年以上は経過しているそうです」
「に、にせん、2000年以上!?」
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