異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~

なつめ猫

ニャン吉がいない。




「お父様、虫下しの価格ですが銅貨5枚でどうでしょうか?」
「銅貨5枚の根拠は?」
「一般の方が食事をされる際に、銅貨5枚ほどとセバスさんから話を聞いておりますので」
「ふむ……」

 お父様は顎に当てながら執務室の椅子に深く腰かけてしまう。

「シャルロット。一度、町に出てみないか?」
「町にですか?」
「そうだ。庶民が、どのような生活をしているのか見て見るのもいいだろう」

 たしかに、お父様の言う言葉にも一理ある。
 薬というのは、本来手短にあってこそ意味があると私は思っている。
 それなら薬の価格も、一般人の手が届きやすい値段にするべきだと思う。
 なら町にいくのも一つの手かも知れない。
 実際に現場を見た方が分かることもあるだろうし。

「わかりました。それでは、何時頃に行かれますか?」
「そうだな。鰹節の返却を含めると早い内の方がいいだろう。明日など、どうだ?」
「分かりました。お母様にも伝えておきます」

 執務室から出た私は、数歩歩いて足を止める。

「そういえば、ニャン吉に鰹節をくれた人に鰹節を返さないと行けないから、ニャン吉も連れて行った方がいいよね?」

 自分の部屋に向かい扉を開ける。

「ニャン吉! ……あれ……、いない?」

 何時もなら、私の部屋のベッドの上で毛繕いをしているのに、ニャン吉の様子が見当たらない。

「もう、どこに行ったのかな」

 本当、いつも勝手なことばかりしているんだから。
 鰹節を勝手に貰ってきたり、世界のバランスがどうとか言って私のお願いを聞いてくれなかったり。
 唯一、ニャン吉がしてくれたことって家族との蟠りを解消してくれたことくらい。
 ニャン吉を探すために私は、エルトール伯爵邸内を歩き回るけど、どこにもニャン吉の姿が見当たらない。

「もう、どこにいるの! いつも、自分勝手なんだから!」

 大体、ポーションの作成方法とか魔法の才能とかメルルさんがくれたけど、両方とも全然役に立っていない。
 魔法なんて拳銃(物理)で物騒で使い物にならないし、ポーション作成なんて自分で素材を調べて目利きして自分の手で調合して作らないといけない。
 面倒な事、この上ない。
 
「あと、調べていないのはお母様がいる部屋だけだよね」

 無駄に広い屋敷を歩いたことで少し疲れていたけど、お母様の部屋の扉をノックしてから開ける。

「シャルロット、どうかしたの?」
「明日、お父様と町に行くことになったので伝えにきました」
「そうなの? 分かったわ」

 お母様と会話をしながら室内を見渡すけど、ニャン吉の姿は見えない。

「お母様、ニャン吉は見ませんでしたか?」
「精霊様?」

 神妙な表情をお母様は見せてきた。
 何か問題でもあったのかと勘ぐってしまう。

「お母様? ニャン吉がどこにいるのかご存知なのですか?」
「…………精霊様なら、鰹節を探す旅に出ると言っていたわよ?」
「ええ!?」

 正直に驚いた。
 出会った時は「メルル様からサポートで遣わされたニャ!」とか、言っていた癖に鰹節を取り上げたら、あっさりと職務放棄するとかありえない。
 
「お母様、止めなかったのですか?」
「精霊様は、自由だから」
「自由にも程があります! もう少し仕事に自覚を持ってほしいです! まったく、メルルさんは、あんないい加減な精霊を遣わせて何を考えているのか……」
「シャルロット!」
「は、はい?」
「精霊様は、いつも貴女のことを思って行動しているのよ? そういう言い方は、私は嫌いだわ」
「ごめんなさい」

 お母様に始めて怒られた。
 でも、ニャン吉が職務放棄したのは事実だし、責められるのは私じゃなくてニャン吉のはずなのに……。
 なんか納得いかない。

 

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