異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~

なつめ猫

内職をしましょう。




 借金返済のためにお父様に虫下しの薬を渡してから一週間後、薬師ギルドから手紙が届いた。
 何でも、急ぎの話があるらしかった。
 そのために私はお母様の代わりに妹セリーナのおむつを交換していた。
 
 エルトール伯爵家はお金がないために乳母を雇う余裕がない。
 お年を召した男性であり執事であり家令であるセバスさんは、庭の手入れや領地から上がってくる収入に関しての計算を、お父様が忙しいときに代行している。
 そしてメイドであるアリエルさんは、無駄に広いエルトール伯爵家の掃除や家事を一手に引き受けてくれている。
 
 ちなみにお父様は、あっちこっちから借金があるので頭を下げて回っているらしい。
 伯爵家領主なのに世知辛いです。
 そして、体が弱かったお母様は基本的に屋敷に居ることが多く妹を育てていた。
 ちなみに私と言えばアリエルさんとお母様の連絡係りをして、空いた時間を洋服などの繕いに当てていた。

「よし、これでよしと!」

 オムツの交換を終えた妹をベビーベットに寝かせる。
 まだ春に入ったばかりなので、セリーナが寒がらないように暖炉から遠くない位置にベビーベットの位置を調節した。
 そのあとは椅子に腰を下ろしたあと無地の布地を取り出すと一辺20センチほどの正方形にハンカチを鋏で切っていく。

「よし、25枚と」

 私は、布の端を2センチ程に折り曲げてから縫った後に、縫い戻しをする。
 全ての布地をハンカチに出来た頃には2時間ほど経過していた。

 ――コンコン

 扉をノックして入ってきたアリエルさんは、トレイの上に離乳食を乗せていた。

「シャルロット様。お持ち致しましたけど、普段はされてはいないのですよね?」
「大丈夫です。お任せください」
「そうですか……、それでは仕事に戻りますね」

 アリエルさんから離乳食を受け取った私は、妹が起きてから食べさせようと思い、椅子に座ったあと、先ほど作った無地のハンカチに刺繍をしていく。
 刺繍の絵柄は、この世界には存在していない富士山で太陽が背後から昇っていく構図になっている。
 この世界には無い斬新なデザインということで、お母様に許可をもらって卸している商業ギルドで人気商品になっている。
 しかも一枚で売れるだけでエルトール伯爵家の一日分の6人分の食費を賄えたりするのだ。
 思えば私のメインの収入源は、刺繍入りのハンカチかも知れない。
 しばらく刺繍をしていると妹が起きたので離乳食を食べさせてから寝かせた。

 ――コンコン

「今、戻ったわよ」
「お母様、おかえりなさい」

 お母様が戻ってきた頃には刺繍の作業は終わっていた。
 
「今日もずいぶんと作ったのね」
「はい。時間がありましたから」
「そう。あとでセバスに商業ギルドに持っていって貰わないといけないわね。それとシャルロット。少し面倒ごとになったの。ルーズベルトが執務室で待っているわ」
「お父様が?」
「ええ、何でも虫下しの件でお話をしたいことがあるそうよ」

 私、何か失敗したのかな?
 そういえば飲んだときにやけに苦かったような気がしたけど、味について言われても私には改善の手段が思いつかない。


「薬に何か問題でもあったのでしょうか?」
「そういう話は聞いていないわね」

 お母様の言葉に、私は胸を撫で下ろす。
 それなら問題なさそうだ。

「それでは、お父様に会ってきます」
「ええ、行っていらっしゃい」

 部屋から出ると、少し寒かったのでストールを羽織った。
 暖炉で暖められていた部屋の中とは違うということだろう。

 ――コンコン

「お父様、シャルロットです」
「入りなさい」

 扉を開けて中に入ると執務室内には鰹節が10個ほど転がっていた。
 
「お父様、これは一体?」
「精霊様が、商業ギルドのギルドマスターから貰ったらしいのだが、さすがに精霊様に献上されたものを突き返す訳にもいかなくてな」
「そうですか。でも精霊にくれたということは、見返りをやはり期待していますよね?」
「そうだな……」

 まぁ、差し入れなら1個くらい料理の調味料としてもらってもいいかもしれない。
 
「ニャン吉、1個もらうわね」
「駄目ニャ! これは全部、吾が輩の物ニャ!」
「別に10個もあるのだから、1個くらいいいじゃない」
「駄目ニャ!」
「分かったわよ。心が狭いわね」

 私は溜息をつきながら掴んだ鰹節をニャン吉に返すと同時にあることを思い出した。

「ニャン吉!」
「何ニャ?」
「アイテムボックスを通せば無限に鰹節を作り出せるんじゃないの?」
「――!? シャルロットは天才ニャ!」

 ニャン吉は、器用に椅子の上に立つと鰹節に向かって右手を向ける。
 だけど! 床の上に転がっている鰹節を右手が吸い込まない!

「――!? す、吸えないニャ!」
「ど、どういうことなの?」

 まさかのアイテムボックスが使えないという事に私は驚いてしまう。
 アイテムボックスの機能が消滅したら、ニャン吉は鰹節を食べて話せるだけの猫になってしまう。
 
「分からないニャ!」
「薬を出すことは出来るの?」
「薬も出ないニャ!」
「どうかしたのか?」
「お父様、大変なの! ニャン吉が、ただの生産性の無い普通の猫になってしまったの!」
「ちょっと待つニャ! 悪意が感じられるような言い方は止めて欲しいニャ! まだ、何も出来なくなったと決まった訳じゃないニャ!」

 ニャン吉が、自身のお腹の辺りからリボルバーを取り出すとホッとした表情で私を見てくる。

「魔法は使えるみたいニャ」
「私、前から思っていたのだけど……。リボルバーって拳銃よね? 拳銃って魔法って言うの?」
「魔法(物理)は、世界の常識ニャ」

 私は、ニャン吉の言い訳に溜息をつきながらも本当にアイテムボックスが使えないか確認することにした。

「ニャン吉、とりあえず、最初にアイテムボックスが使えた時のように、同じ条件で試してみましょう」
「そうニャ!」

 急いで調合部屋に戻って薬の原材料を取って執務室まで戻ってくると、薬の原材料をニャン吉の右手から吸えるか確認する。
 ヨモギの葉のような物は吸えるし、左手から出すことも出来た。
 ただ、鰹節や家具などは吸うことが出来ない。
 そこから考えられることは……。

「ニャン吉のアイテムボックスって薬関係の物しか吸えないのかな? つまり薬関係の特化型アイテムボックスなのかな?」
「そうみたいニャ。鰹節が増産できなくてガッカリニャ」
「そうね」

 私とニャン吉が、アイテムボックスに関して話し合っていると、お父様が神妙そうな表情で「残念だな。鰹節は沿岸部から遠いこの地では1本金貨10枚はするのだが……」と呟いてきた。

「金貨10枚ですか! 金貨10枚って銀貨1000枚分ですよね!? 刺繍したハンカチ1000枚分が、鰹節の塊1個と同等とか……ゴクリ。つまり10個で金貨100枚……」
「シャルロット、何を考えているニャ! これは商業ギルドのギルドマスターが吾が輩とお近づきになりたいとくれたものニャ!」





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コメント

  • 時雨

    生産性のないただの猫になってしまうわってw吹きましたw

    0
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