異世界薬師~嫁ぎ先は砂漠の王国です~

なつめ猫

褐色肌の少年。




「仕様ニャ! じゃないからね。それにしても、吸い込んだ物を複製できるとか、すごい能力ね。もうチートじゃないの?」
「ハッ! ま、まさか……、吾が輩が、朱音のご主人様だったりするニャ!」
「どうしてサポートでついてきたおまけが私のご主人になるのか疑問に思う点だし、どうして疑問系ではなくて断定しているのかというところも突っ込みたいところなのだけど?」
「朱音、細かいことは気にしたら負けニャ!」
「どうして、いきなり呼び捨て!?」

 作業が終わり部屋に戻り扉を閉める。
 すると頭の上に乗っていたニャン吉が飛び降りたあとベッドの上で毛繕いを始める。
 それを見て私もベッドにダイブした。
 思っていたよりもずっと疲れているのが分かる。

「薬を使って疲労は回復したのに疲れは消えないのね」
「筋肉疲労は回復するニャ。だけど、どんな生物には精神的疲労というのが存在しているニャ」
「なるほど……、つまり体と精神は別ってことなのね」
「そういうことニャ」
「全部回復させるような薬は無いの?」
「そんな便利な薬はないニャ」
「そういえば、魔法とかって使えないの?」
「魔法にゃ? 一応、使えることは使えるニャ」
「本当!?」

 ベッドの上からガバッと立ち上がる。

「本当ニャ」
「それって両手をパンと叩いて地面に手を着いて錬金できちゃうアレとか?」
「そんなのじゃないニャ」

 ニャン吉が、ベッドの上で毛繕いしながら呆れた声色で答えてくる。

「ということは、攻撃魔法とか回復魔法とか防御魔法が使えたりするの?」
「そういうのは、もっと主人公っぽい人間が使える能力ニャ。一般人の朱音が、そんな特殊な力を使える訳がないニャ」
「それじゃ私は、どんな魔法が使えるの?」
「これを見るニャ!」

 ニャン吉が、毛のふさふさしたお腹の辺りから拳銃を取り出すと私に手渡してきた。
 ずっしりと重い。
 たぶん本物だと思う。

「こ、これって……」
「朱音の世界で言うところのリボルバーニャ。警察とかも愛用しているニャ。これで、相手を攻撃できるニャ」
「コレって魔法じゃなくない?」
「大丈夫ニャ。相手の眉間に銃口を向けて引き金を引くだけニャ! それだけで相手が倒せるニャ!」
「物騒すぎる! それに、これって魔法じゃなくて魔法(物理)じゃない? もしかして大地母神メルルって拳銃(物理)でも魔法ってつければ良いと思っていない?」
「そんな事無いニャ!」 
「とりあえず、こんな危険な物は持っていられないから返すね」
「仕方ないニャ」

 しぶしぶと拳銃を受け取ったニャン吉に溜息をつく。
 
「もう疲れたから、少し寝ましょう」



 体を何度も揺すられる。

「……ん? ニャン吉、どうかしたの?」
「そろそろご飯みたいニャ」
「ごはん……」

 日が沈んでいるのか部屋の中は薄暗い。
 何時間寝たか分からないけど、猫の嗅覚を信じて私は食堂に向かった。
 夕食の準備はすでに終わっていて食堂には、お父様が居た。

「シャルロット」
「何でしょうか? お父様」
「あの薬は、本当にお前が作ったのか?」
「はい。そうです……けど、何か問題でもありましたでしょうか?」
「いや……」

 もしかしたら、私が作った傷薬に問題があったとか?
 それか、毒性のある素材を入れたのが問題だったとか?
 
 でも毒性のある素材を入れたのは、ニャン吉の指示であって私は悪くない。
 もしどうしても責任を取る必要があるならニャン吉にリボルバーを借りて攻撃魔法(物理)で、ニャン吉の眉間を打ち抜くくらいしか責任をとる方法が浮かばない。

「お、お父様!」
「どうしたのだ?」
「ごめんなさい! 私の傷薬が駄目だったのですよね?」
「そうではないのだ。効き目がすごかったのだ」
「――へ?」
「先ほど、薬師ギルドで傷薬の確認をしていたのだが擦り傷や小さな切り傷はもちろんのこと、肉体の疲労も回復して腰痛も治って水虫も治った」
「それが何か?」

 私は、お母様が作った傷薬を使ったことはないけど、傷薬ってHPを回復する万能なイメージがあった。

「シャルロットは、傷薬を使ったことはないのかい?」
「はい。お母様が作っていた時はお手伝いをしていましたけど、使ったことはないです」
「なるほど……、普通の傷薬は怪我をした箇所が治るまで痛まないようにコーティングするようなものなのだよ」
「……え?」
「傷薬には、疲労回復や切り傷、擦り傷、肉体疲労回復に腰痛から水虫まで治る性能はないのだよ」
「そ、それって……」
「そうだ。お前が作った物は傷薬ではない。ポーションと呼ばれる物だ」
「――と、言うことは! 高く売れるってことですか!?」
「シャルロット……」

 お父様が呆れた様子で溜息交じりに私の名前を呼んでくる。

「だって、お父様! そんなに性能がいい薬なら高く売れてエルトール伯爵家の借金を早く返せるかも知れません!」
「シャルロット。お前は、まだ子供だから分からないと思うが、弱小貴族に成り下がっているエルトール伯爵家の長女がお金を生み出す木だと国に知られたらどうなると思う?」
「面倒事に巻き込まれる可能性が高いということですか?」
「そうだ」
「もう少し効能を抑えたものを作ることは出来ないのか?」
「たぶん出来ると思います」
「よし、それではそれを作って薬師ギルドに卸すとしよう。シャルロットが作った効果が高い傷薬も販売はしたいが少しずつ効能を上げていった方がいいだろう」

 食事を終えてお父様と話合いが終わったあと、私は自分の部屋に急ぎ戻った。

「ニャン吉!」
「朱音、どうしたニャ」
「お父様が、もう少し効果が弱い薬を作った方がいいって!」
「それは無理ニャ、朱音にはどんなに頑張ってもポーションが出来る呪いじゃなくて祝福が掛かっているニャ」
「そ、そんな!」
「諦めるニャ。人間諦めが肝心ニャ」
「……このサポート精霊使えない」
「ニャ!? 今、聞き捨てならない事を言ったニャ!」
 
 ベッドの上で毛繕いをしていたニャン吉が、俊敏に立ち上がるとボクサーの真似事をして私に近づいてくる。

「シュッ! シュッ! 精霊を馬鹿にした落とし前はつけさせてもらうニャ!」

 ベッドの上で巧みに体を揺らしながら「ニャンプシーロール!」とか、言っているニャン吉のお腹に手を突っ込んでリボルバーを奪いとると撃鉄を親指で引きながら銃口をニャン吉の眉間に当てると、ニャンプシーロールの体勢で停止したまま、「ニャン……だと……」
と、言ってきた。

「あとはトリガーを引けばいいの?」
「待つニャ! 分かったニャ! 取引をするニャ!」
「ふう……」

 良かった。
 本気で打つ気はなかったけど、少し私もストレスがたまっていたみたい。

「えっと……、撃鉄を戻す場合ってトリガーを引けば良かったのよね?」
「――ニャ? ニャアアアアアアアン」

 拳銃の発射音とニャン吉の絶叫音が同時に重なり拳銃の弾は、ニャン吉の体の羽毛部分を貫通し部屋の片隅に小さな穴を開けた。
 すぐにお父様が慌てて見にきたけど、私が無事だと知ると雷かもしれないと、部屋から出ていった。
 拳銃の知識があったら問い詰められるところだった。

「よかったわね。なんの被害もなくて――」
「毛が焦げたニャ」
「それより、さっき言っていた取引って薬というかポーションの効果を減らす方法よね?」
「そうニャ。本当、朱音は乱暴者ニャ」
「仕方ないじゃない。私だって、もっと万能な能力をもらえると思っていたのだから」:
「仕方ないニャ。今日は、もう遅いから明日、やり方を教えるニャ」

 

 翌日の朝。
 私は、ニャン吉を伴だって調合部屋に来ていた。

「綺麗に片付いているわね」
「きっと全部売るために持っていったニャ。朱音が作ったポーションは、ポーションの中でも最弱のポーションだけど人間には高く売れるニャ」
「やっぱり、それって私のポーション作成の能力と関係があるの?」
「あるニャ」
「そう。それじゃ野草を出してもらえる?」
「分かったニャ」

 昨日、薬を大量に作った時点で調合室にストックしてあった野草は綺麗サッパリ無くなってしまっている。
 
「ニャ? ニャン!?」
「どうしたの?」
 
ニャン吉の左手から出てきたのはハマグリに入ったままの傷薬であった。

「どういうことなの?」
「……分かったニャ! 心して聞くニャ。朱音、ニャン達は勘違いしていたニャ。アイテムを吸って吐き出す以外に、一種類のアイテムしかアイテムボックスにはストックできないみたいニャ」
「ええ!? それじゃ、草原まで野草を取りにいかないといけないの?」
「そうなるニャ」
「……アイテムボックスじゃなかったのね」
「メルル様はアイテムボックスと言っていたニャ。メルル様も間違えることがあるという事ニャ」
「間違いだらけな気がするけど、とりあえず草原に野草を摘みにいかないといけないわね」

 部屋から出て、庭の手入れをしているはずのセバスさんを探す。

「セバスさん!」
「シャルロット様、どうかなさったのですか?」
「草原に行きたいのだけど、一人だとお母様やお父様に心配をかけてしまうから着いてきてもらえない?」
「旦那様より、薬草を摘みにいく可能性があると聞いております。その際には同行の指示も受けています」

 すぐに用意をして草原に向かう。
 セバスさんに周囲を警戒してもらっているから、安心して野草を摘むことが出来る。

「あれは……?」

 私は、草原に違和感を覚えて小走りに近づく。
 そこには褐色の肌に整った顔つきをした金髪の少年が倒れていた。

「セバスさん!」
「どうかなさったのですか?」
「人が倒れています! 見たことが無い人です!」

 私の言葉に、セバスさんが慌てて近寄ってくると、動脈などを図っている。

「これは……、かなり拙いかと――」
「すぐに屋敷に連れていって手当てをしましょう!」
「わかりました」

 セバスさんが、10歳くらいと思われる男の子を抱き上げる。
 屋敷に辿りつくと客間に男の子をセバスさんが寝かせた。

「シャルロット様、困りました」
「何か?」
「はい。薬を全て薬師ギルドに一度保管するために朝の内に持ち出してあるのです」
「つまり薬が無いと?」
「はい、分かりました。すぐに作ってきます」

 私は、ニャン吉を伴だって調合部屋へ向かう。

「ニャン吉、傷薬出せるわよね?」
「出せるニャ」

 ニャン吉が、複製した薬を受け取ると客間へ戻る。

「セバスさん、これを」
「わかりました」

 傷薬を受け取ったセバスさんは、傷薬を水で薄めると少年に飲ませた。
 横になっていた少年が咳き込むのが見える。

「セバスさん、大丈夫でしょうか?」
「はい、もう大丈夫かと」
「そうですか……。それにしても、どうして草原で倒れていたのでしょうか?」
「わかりません。それに……、この肌の色は――」
「肌の色は?」
「いえ、何でもありません。考えすぎでしょう」
「そうですか」

 

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