悪役令嬢は麗しの貴公子
33. カミングアウト
 第三校舎内、食堂にて。
 「ロザリー様、本日のランチは私達とご一緒にいかがでしょう?」
 「午前授業を欠席されたとお聞きしましたわ。お身体の具合はもうよろしいのですか?」
 「まぁそれは大変だわ! 私、東洋から取り寄せた病に効くという茶葉がありますの。どうぞ、ご一緒なさって?」
 丁度お昼時ということもあり、午前授業を終えた生徒達で食堂は賑わいをみせている。
 そんな中、配膳列に並ぶロザリーの周りを複数の女生徒達がランチメニューを小脇に挟んで囲んでいた。
 「申し訳ない。お誘いは嬉しいが、先約があってね…。皆さんがお許し下さるのなら、後ほど改めて私から誘いに伺わせて頂くよ」
 「そんな、許すも何も…ロザリー様でしたらいつでもお待ちしておりますわ」
 「えぇ、是非にでも!」
 申し訳なさを全面に出した貴公子を囲んでいた令嬢達は、断られた事に気を悪くすることも無く、むしろ嬉しそうに黄色い声を上げて直ぐに引き下がって行った。
 嵐のように去っていった彼女達を見送ったロザリーは、漸く貴公子の仮面を外して肩の力を抜いた。
 好いてくれるのは嬉しいが、こうも積極的過ぎると毎度の対応に困ってしまう。
 ゲームのロザリーであれば自ら配膳列に並ぶことは勿論しないし、取り巻き達に席を取っておけと偉そうに命令してそうなものだが、生憎と私にはそんな事をする勇気なんてない。
 それでも、次第に混雑する食堂を見回して先に席を取っておけばよかったと後悔することはしばしばあるのだが。
 貴族学校なだけあって食堂もそれなりに広いが、さすがに全校生徒が収まるだけの規模はない。その代わり、予約制の個室や庭園に設置されたカフェテラスなど食事やお茶をするスペースはそれなりにあるので、その日の気分で各自思いおもいに好きな場所で過ごすことが出来るという利点もある。
 普段ならば、一緒に食事をするアルバートやヴィヴィアンと共に王族専用の個室を使わせてもらっているので食堂に来ること自体が滅多にない。なので、さっきのように女生徒に囲われる事もないので助かっていたのだが、こうして配膳列に並んで注文した料理を受け取るという行為が前世の給食を受け取る時に似ていて懐かしく感じてもいた。
 (それにしても…)
 徐々に注文カウンターに近づく中、ランチメニューの一覧を開いてペラペラと捲る。そこには、当たり前のようにステーキやらトリュフやらと高級食材を多分に使った贅沢を極めるメニューが並んでいた。
 前世が庶民なだけあって未だにこういうのには慣れない。ついどうしても値段の安いものに目がいってしまう。
 しかも、ただでさえ高級食材を使用している上に調理をしているのが一流シェフのみという徹底ぶり。もはや『食堂』とは名ばかりの高級レストランなのだ。
 そんな一流シェフ達が一品一品に手間をかけて作っているのだから、混雑するのも当然と言えば当然だろう。
 これはテイクアウトした方が良さそうだな…、とぼんやり考えながら空いている席を探していると、背中をトントンと誰かに叩かれた。
 振り返れば、そこに居たのは長い黒髪を後ろで一つに縛っている今世では初めて出会う女生徒。
 「ご機嫌よう、ルビリアン公爵令息殿」
 「ご機嫌麗しゅう、ディルフィーネ伯爵令嬢。……私に、何か?」
 動揺を隠そうと再び貴公子の仮面を被って小首を傾げた私に、ディルフィーネ伯爵令嬢は紙袋を持ち上げて見せた。
 
 「君と昼食を共にしたいと思ってね。誘いに来た次第だ」
 優美に微笑んだ彼女に私は更に驚く。なんせ、私はこれまで彼女とは全く接点がなかったのだから。
 カレン・ディルフィーネ伯爵令嬢。
 我が国が誇る騎士団を代々率いてきた武を司る騎士一家の長女で、我が家同様に歴史ある家柄だ。彼女もまた、ルミエール先生と同じくお助けキャラの一人で、ゲームでは主人公の恋を応援する親友ポジションにある。
 彼女の騎士然とした振る舞いは、幼い頃からの家庭環境が影響しており、令嬢には珍しく紳士な麗人なのだが照れると可愛らしい一面もあり、そのギャップがいいと乙女達から定評のあるキャラクターだ。
 庶民の出である主人公に対してもゲーム開始後すぐに声をかけてくれ、紳士的で優しく接してくれるのだ。
 ゲーム程ではないにしろ、同じクラスのリディアともそれなりに親しくしているのだとか。
 (そんな彼女が何故、私に?)
 不躾にも何か裏があるのでは、と身構える私の手を取った彼女は、そのまま手を引いて列から抜け出した。
 「ディルフィーネ伯爵令嬢、どこへ向かっているんだい?」
 「私のことはカレンで構わないよ。君をとっておきの穴場に招待したくてね」
 慌てる私を余所に、カレンは当たり前のようにエスコートしながら誘導する。
 
 (……普通、逆じゃないか?)
 本来、エスコートは男性がするものであって今の私達は傍から見ればチグハグで違和感を持たれるだろう。
 どうでもいいが、今日は誰かに腕を引かれることが多いな…これで二度目だ。
 保健室まで連れて行かれた後、ヴィヴィアンが何処に行ったかは分からない。ちなみに食堂にはいなかった。
 アルバートに至っては、今朝あんな失礼な態度をとってしまった手前、顔を合わせるのも気まずいから今の状況はある意味では都合がいい。
 いつもあの二人と一緒にいることが多いから自然と食事も一緒に摂るようになったが、別に何かしらの取り決めをしている訳ではないし、他の誰かと食事をするのも問題ないはずだ。
 後でアルバートから何か言われたら無視しよう。よし、そうしよう。
 「ところでカレン嬢、どうして一度も話したことのない私を食事に誘ってくれたんだい?」
 「私は君より下の身分だ」
 だから敬称は不要だ、とカレンは暗に告げる。ならば、と私はサッとカレンの腰に手を当ててエスコート役を交代した。
 少しだけ驚いた顔のカレンに『淑女はエスコートされるものだよ』と微笑む。すると、カレンは嬉しそうに微笑み返してくれた。
 うん、可愛い。
 「お父上から聞いてないか?」
 恥ずかしさを紛らわす為か、下を向いて答えたカレンに『何を?』と目をパチクリする。
 「その……私と君が婚約するという話だ」
 瞬間、顔が引き攣った。
 婚約? 私とカレンが? ゲームではそんな展開なかったぞ…!
 どういうことだ……と視線を彷徨わせる私に、カレンはやはりという顔をした。
 「私も昨日、父から届いた手紙で知った事だ。気にしなくていい」
 「そぅ…、なの、かい?」
 目に見えて動揺している私にカレンがフォローしてくれるが、全く効果はない。
 「と、とにかく。この話は後ほど、私も父に確認をとっておこう」
 「あ…あぁ、そうしてくれると助かる」
 そういえば、この前ニコラスから届いた手紙にお父様が私に話があると書いてあったが、まさかこの事だったのだろうか?
 ニコラスを養子にする時もそうだったが、どうしてお父様はいつも大事なことを話してくれないのか。特に今回は当事者だと言うのに!
 カレンからのカミングアウトで気まずくなってしまった雰囲気のまま、彼女が言う『穴場』までの道を私達はなるべく早足で向かうのだった。
 家に帰ったらお父様の鳩尾に一発入れてやろうと、固い決意を持って。
 一部修正しました。
 本日もありがとうございました(´˘`*)
 次回もお楽しみに。
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コメント
ノベルバユーザー312613
カレン嬢との百合もいいですねー
いちご大福
ぐへへ(^q^)
更新ありがとうございますm(_ _)m
頑張ってくださいo(≧∇≦)o
ノベルバユーザー248828
綺麗で強くギャップ萌えのお姉さん大好きです(///ω///)♪……にしても、ロザリ―パパ
ノベルバユーザー248828
綺麗で強くギャップ萌えのお姉さん大好きです(///ω///)♪……にしても、ロザリ―パパ