悪役令嬢は麗しの貴公子
30. 成長
 (※以下、アルバート視点)
 「…………………………正気か?」
 「そう言ってやるなよ。あぁ見えて成績と見目は悪くないんだぜ?」
 「性格の問題だと言っている」
 ヘラヘラしているクランに腹が立ち、下から恨めしく睨みあげた。
  何が可笑しいのか、この赤髪はそんな俺の反応にクツクツと楽しそうに肩を震わせている。
 
 「……それは、学校側の指示か?」
 「いや、生徒会からの推薦だ」
 「だから、何故だ……!」
 いよいよ訳が分からず、天を仰ぐ。
 確かに、これまでも子爵家や男爵家出身の者で優秀な生徒が生徒会に入ったことはある。だからと言って、何故よりによってリディアなんだ。
 「…推薦理由はなんだ?」
 「えー、それはちょっとー…ってうぉ?! 分かった! 言う、言うからそんな睨むなよ!」
 俺に冷めた眼差しを向けられたクランは、慌ててふざけた態度を改めた。
 勘には障るが、危機回避能力は高いし憎めないのがクランという男なのだ。
 「いいか、本当は個人情報云々とかっつぅめんどくせーのがあるから他言無用なんだぜ?」
 クランは背もたれに背中を預けて後頭部をわしゃわしゃと掻いた。
 いいから早く言え、と人差し指でテーブルをトントン叩いて催促する。
 「理由っつっても幾つかあるんだが、大きく分ければ2つだな。1つ目、さっきも言ったけど成績がいい事だ。つっても、すこぶるいいってわけじゃないけどな。あくまで中の上ってとこだ。2つ目、『自由で平等な学び舎』を謳っている手前、生徒会を上流貴族だけで固めるんじゃなくて下流貴族も含ませることで外聞を良くしようってのが学校側の狙いだろう。俺としてはこっちが最大の理由だと思ってる」
 「それなら他に適任者がいただろう」
 「最後まで聞けって。生徒会内の男女比も偏り過ぎちゃならねぇし、自分より身分の高い相手に物怖じせずに意見を言える奴ってのはそういないんだよ」
 クランの言うことにも一理ある。
 成績についてはまぁ良いとしても、リディアは王太子にも堂々と話しかけてくる位には度胸がある。
 
 「そして何より、本人がやる気満々でさ」
 「推薦じゃなかったのか?」
 「アイツ、担任の教師に立候補したらしいぜ。こっちとしても年中忙しいから人手が増えるってのは有難い事だし、やる気がある奴を無下に出来ねぇだろ?」
 「つまり、利害が一致したということか」
 「まとめればそーなるな」
 理屈は通っている。
 悔しいが、このまま駄々をこねても迷惑をかけるだけだ。本当は今すぐにでも王族の権限を振りかざして跳ね除けたい誘いではあるが。
 『責任と義務を全うしてこそ、真に王族を名乗る資格を得るのですから』
 
 初めてロザリーと出会った夜会で言われたことをふと思い出す。
 あの頃、望んで王子に生まれた訳じゃないと子どもであることをいい事にワガママ放題して周囲を散々困らせていた。父上は国王としての仕事が忙しく、母上は父上が離さなかった。
 だから、俺にはヴィヴィアンに出会うまで叱ってくれる存在なんていなかったし、アイツも小姑っぽい所があったから俺は反抗することも多かった。
 そんな時、初めて出会ったロザリーに諭された言葉が俺の中にストンと落ちてきて納得してしまった。
 「責任と義務、か」
 懐かしくなって呟いた俺をクランは不思議そうな顔で眺めてくる。
 気にするな、と首を横に振ってから椅子に座り直す。
 これも王族としての義務だと言うのなら、全うしてみせよう。
 「いいだろう。生徒会からの誘い、受けてやる」
 あの夜、お前に宣言した通りに。
 ……
 (※以下、クラン視点)
 「ではな、クラン」
 「おぅ、時間取らせて悪かったな」
 アルバートが部屋から出て行き扉が閉まっても尚、俺はアルバートが立ち去った方を呆然と見つめていた。
 これまでアルバートとは、そこまで親密な関係じゃなかったが親父の仕事の付き合いだったり俺自身の人脈作りだったりで話す機会は多かった。
 
 初めて会った時の第一印象は、良くも悪くも王族らしいお方だということ。当時の俺は、あんまり好かなかったけど。
 そんなアルバートが変わり始めたのは、ロザリーと出会った後くらいからだ。王宮を抜け出すこともなくなり、以前にも増して社交もしっかりこなすようになった。
 いい意味で成長していくアルバートに俺も好感が持てた。
 それでも、今回は生徒会からの勧誘を蹴るんじゃないかと思っていたが予想が外れてしまった。
 本当はリディアの事を言おうか迷ったが、後々になって愚痴られても面倒だし、生徒会役員は真実を伝える義務がある。勿論、守秘義務で全部言える訳じゃないんだけど。
 
 あんなにリディアを嫌っているアルバートが、割とあっさり承諾してくれるなんて驚いた。
 駄々をこねるアルバートを説得するものだとばかり思っていた分、肩透かしをくらった気分だ。
 連休明けの任命式やら生徒会の引き継ぎやらの説明を一通りして、サインをもらった同意書を見つめる。
 「大きくなったもんだ…」
  「なに年老りじみたこと言ってんのよ、若造が」
 「ルミ姐じゃん、なんか用か?」
 「ルミエール先生とお呼び。アルバート王子殿下の勧誘、上手くいったかしら?」
 
 先程、アルバートが出ていった扉から入ってきた人物を見て目を丸くする。
 「まぁな。拍子抜けするほどあっさり承諾してくれたぜ」
 「あらぁ、良かったじゃない。これで一人確保ね」
 手に持った同意書をピラピラ振ってみせると、黒いシャツに白衣を纏ったテノールボイスの保健医は、片手を頬に添えて妖艶に微笑んだ。
 「ルミ姐の方は? どうだった?」
 「それが全然なのよ〜。ロザリーさんは保健室で寝てるしヴィヴィアン様には上手く躱されちゃうし、もうやんなっちゃうわ」
 可愛らしく唇を尖らせてプリプリと怒る白衣を着た年上の男に寒気を感じた。
 ルミエール・パトラン侯爵令息。
 聖ロンバール学園の保健医で生徒会顧問も務めている男だ。整った顔立ちと女っぽい口調、そして何より親しみやすい性格から生徒達からの信頼が厚く、相談にもよくのっているという。
 パトラン侯爵領には専門分野に特化した職人が多く暮らしている。我が国の文化を次代に伝える役割を長年果たし、質の良い物を作ることから国内外問わず評判が高い。
 家の手伝いで何度か侯爵領に足を運んでいる内にルミエールと知り合った。国の未来について夢物語を一晩中語り合ったのはいい思い出だ。
 
 「そういや、今朝一年護クラスに行った時もローズとヴィヴィアン様の姿が見えなかったけど保健室に行ってたのか」
 「そうよ〜。ロザリーさんなんて顔を真っ青にしてフラフラだったから、アタシびっくりしたわ。ヴィヴィアン様は付き添いだったみたいだし、ロザリーさんを置いてさっさと何処かに行っちゃったわ」
 ルミエールは『釣れないわねぇ…』とそのままため息を零す。
 「ローズの体調は?」
 「ただの寝不足よ、少し寝かせとけば元気になるわ。ロザリーさんには目覚めた時にアタシから生徒会への勧誘しとくから、あんたはヴィヴィアン様をお願い」
 「えーーー。俺、暇じゃないんだけど」
 「アタシだって暇じゃないわよ。それともなぁに、淑女に負担を負わせる気? 紳士さの欠片もないったら」
 「いつから淑女になったんだよ、ったく……。わーったよ、その代わりローズのこと頼むな」
 「あら、やけに過保護じゃない。もしかしてあんた、…ソッチに目覚めちゃったの?」
 「んな訳あるか! お前と一緒にすんな」
 「んまぁ、失礼しちゃう! 冗談くらい笑って受け流せない男はモテないわよ?」
 「余計なお世話だ。とにかく、ローズのこと頼んだぞ」
 「はいはい、念押ししなくても分かってるわよー」
 棚の引き出しから同意書を一枚引き抜いたルミエールは、呆れ顔でそそくさと部屋を後にした。
 扉が閉まる間際、扉の向こうから『あんたのソレって娘を心配する父親みたいでオヤジ臭いのよね〜、絶対将来ハゲるわ』というのが聞こえ、怒りのあまりそちらに向かって叫んだとこは言うまでもない。
 祝✿お気に入り登録者数300超えました!
 本当に感謝です✩°。⋆⸜(*˙꒳˙*  )⸝
 ありがとうございます!
 今後ともよろしくお願いします!
 一部、修正しました。
 本日もありがとうございました(´˘`*)
 次回もお楽しみに。
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コメント
ノベルバユーザー248828
ロザリ―ちゃんヴィ―様と何あったん⁉️クランも王族に物怖じしないっつても意見言えるのと馴れ馴れしいのとは違うじゃん⁉️……性格に難有るのによくアレを誘う気になったもんだわ(((((゜゜;)