悪役令嬢は麗しの貴公子
25. 対峙
 晴天とは程遠い、空一面に薄らと雲が漂っている本日。
 ロンバール学園の敷地内にある鍛錬場では、威勢のいいかけ声と木と木のぶつかる音が響いていた。
 現在、私を含めた男子学生達が木刀片手に剣技の授業を受けている。我が校では、男子学生は剣技、女子学生は裁縫を習うことが義務付けられている。
 それは爵位に関係なく強制であるため、私みたいに将来王国軍や騎士団に入らない、どちらかというと頭脳派の職に就くであろう学生も参加せざるを得ない。
 ダンッ                   カララ……
 「そこまで!」
 私は今、相手をしていた男子学生の木刀を左足で蹴り上げて丸腰になった所に、すかさず己の木刀の先端を彼の首筋に突きつけた。そこで審判の先生から声がかかる。ほぼそれと同時に私達の手合わせを見ていた生徒達から『おぉ…!!』と歓声が上がった。
 私は構えを解き、手合わせをした男子学生と握手をして休憩がてら端の方に向かう。すると、壁に凭れ掛かっているヴィー様が私に向けて『ヒューッ』と称賛の口笛を吹いてくれた。
 「お見事だったよ。流石だ」
 
 「私など、アル様の足元にも及びません」
 私は、手合わせをしているアル様へと視線をやる。どうやら優勢のようで、息一つ乱れていないあたりは流石だと思う。
 「最近、アルと喧嘩でもしたのかい?」
 ヴィー様の問いに意表を突かれ、身体は素直に反応してしまう。
 「やはり、か。主にアルがだけど、ローズも。お互いに避けているね。何かあったのかい?」
 「いえ、何も…」
 嘘ではない。実際に『何か』あった訳では無いことは事実だ。私自身、なぜ避けられているのか全く分からない。
 でもあの日ーーー「お前が……だったら良かったのにな」とアル様が言ったあの日から避けられるようになった。
 もしかして、私がアル様のお気に召す婚約者候補を選定出来なかったから怒っているのかもしれない。
 それならば謝りたいけど、避けられているのだからそれ以前の問題だ。
 「余計な詮索だったかな。…何か困ったら俺を頼るといい」
 
 暗い表情の私に苦笑したヴィー様は大きな手で私の頭を撫でて手合わせの為に壇上へと上がって行った。
 
 その後、手合わせを数度行っていれば授業の終わりを告げる鐘の音が鳴り響き、授業は終了となった。
 そして、今日も私はアル様と一度も目を合わせることはなかった。
……
 「ねぇ。ちょっと、いいかしら」
 放課後。
 授業から解放された生徒達は、それぞれが思い思いに過ごしている。私も寮へ帰ろうと荷物を纏めていれば、後ろから声をかけられた。
 鈴の音よりも幾分か低い、どこか相手を見下したような声の主は本来可愛いであろう大きな瞳で私を射抜かんばかりに睨んでいる。
 「……私に、何か?」
 「あなた、どういうつもりなの?」
 「なんのことを仰っているn…」
 「とぼけないで! ロザリー・ルビリアン、あなた悪役でしょ? なんで私を虐めないの! 物語が進まないでしょ!?」
 捲し立てて私を責める彼女、リディアは興奮気味に叫んだ。
 「自分の役割を全うしなさいよ! 役に立たないわね、あなたバグなの?!」
 キャンキャン喚くリディアに思わず眉間に皺がよってしまう。
 「そもそもなんで男なのよ? 根本的な設定が狂っちゃうじゃないの、こんなの聞いてないわ…」
 私が表情を歪めたのに気づいているのか否か、リディアは独り言のようにブツブツと喋り続けている。
 こうして接触してきたということは、彼女も私が転生者だと確信したからだと思ったのだが、どうやら違うようだ。
 まぁ、同じ転生者だとバレても面倒だし、お腹すいたし帰りたい…。でも、頭を抱えてブツブツ言っているリディアをココを置いていくのもなぁ……。
 「あれ、ローズ? お前まだ帰ってなかったのかよ…って、何してんだ?」
 
 「クランこそ、どうしてここに?」
 『生徒会』のプレートを首からぶら下げたクランは、ルビーの瞳を丸くする。
 「俺は見ての通り見回りしてるんだよ」
 あぁ、そう言えば放課後の見回りも生徒会の役割だったなぁ…ん? あれ?
 え、待って。このシチュエーションなんか知ってるぞ?! 
 (まさかコレ、イベントなんじゃ…)
 
 顔を強ばらせた私にキョトンとした顔を向けてくるクランと視界の端でリディアがニヤリと嗤うのが目に止まった。
 (ま、まさか…これはクランルートのイベントか!)
 
 思わず舌打ちをした私とリディアが動くのはほぼ同時だった。
 「クラン先輩ッ! 助けてくださいぃ!」
 「ぅお?! どうしたリディア」
 いきなり泣きながら抱きついてきたリディアに驚きつつもクランはしっかり彼女を抱きとめた。
 
 「ぅッ…うぅ…ろ、ロザリー君が、いきなり私に悪口を言ってきてぇ…私、怖くってぇ…」
 嘘泣きしながら猫なで声でクランに擦り寄っているリディアにクランは困惑顔で聞いている。
 
 「わ、私ぃ…何も、ヒック…してないのに…」
 「とりあえず落ち着け、リディア」
 流石、主人公なだけあって嘘泣きでも様になってる。
 いや、感心している場合ではないのだが。
 「……リディアはこう言ってるけど、どうなんだローズ?」
 嘘泣き中のリディアから私へとルビーの瞳が移される。その瞳に疑惑や嫌悪の色はない。
  それだけで何故か安心してしまう自分はきっと単純な性格をしていると思う。
 チラリとリディアの方を見やれば、ヒロインではない彼女の本性が仮面の下から覗いていた。
 私を見る表情は怯えて擁護欲を掻き立てるような愛らしいものだけど、抱きついたクランの腕の隙間からは口角を上げた口元が見える。
 (まるで悪魔だな…)
 悪役にとって不利な状況を嘲笑っているのか、それとも予定通りイベントを発生できたことをほくそ笑んでいるのか。
 (まぁ、どちらにせよーーー)
 「どうもこうも、彼女と話すのはこれが初めてだ。悪口を言えるほどの仲でもないんだが?」
 
 私の知ったことではない。
 
 久々の更新で申し訳ありません!
 本日もありがとうございました(´˘`*)
 次回もお楽しみに。
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コメント
カンナ
長らくお待たせして申し訳ございません。
不定期更新となりますが、今後とも温かく見守ってくだされば幸いです。
よろしくお願いします
ノベルバユーザー248828
待ってました( ☆∀☆)