悪役令嬢は麗しの貴公子
*番外編 幼馴染の秘密
 ーーリリークラント王国 王城内にて。
 リリークラント王国の建国記念日を明日に控え、準備のため忙しさがピークに達している王城に務める者達は、忙しなく業務に勤しんでいた。
 そんな中、この国で最も地位が高い男は自身の執務室に報告に来た一人の臣下を忌々しく睨んでいた。
 「クラウドはどうしてそんなにケチくさいんだい。君、本当に貴族かい?」
 「これが私の仕事ですから。それに、私が貴族であることは陛下がよくご存知なのでは?」
 目の前で眉間に皺を刻んでいる臣下に『陛下』と呼ばれた彼こそ、現リリークラント王国国王ハロルド・リリークラントである。
 彼は他国とも頻繁に交易を行い、より良好な関係を築いて国を繁栄に導いていることから、民からは賢王として多くの支持を集めている。
 「お前は冗談が通じない臣下で嬉しいよ」
 「褒めても書類は減りませんよ、陛下」
 ハロルドの皮肉を涼しい顔で流して、己の主に暗に仕事しろと催促している彼もまた、この国に欠かせない人物である。
 ーークラウド・ルビリアン。
 現財務長官にして2つしかない公爵家の内の一つ、ルビリアン公爵家の当主だ。
 同じ執務室にいる他の近衛兵や補佐官は皆、ハラハラした様子で2人のやり取りを見ている。
 それもそのはずである。
 この国の頂点にいるハロルドに対して、このような軽口を平気で叩ける者はそういない。
 「はいはい書類ね。分かってるよ」
 「分かってるなら手を動かして下さい」
 やれやれとため息をついたハロルドに同じくため息で返すクラウド。
 「とりあえず、私からの報告は以上です。何か不備がありましたらまた来ます」
 主人がようやく仕事をし始めたのを見て、部屋をあとにしようとしたクラウドの背中にハロルドは『そういえば…』と声をかける。
 「明日の建国記念日は君の子どもも来るんだよね?」
 何か不備でもあったのかと振り返ったクラウドは、ハロルドからの突然の問いに思わず手に持っていた書類を落としそうになった。
 「……は?」
 (※以下、ハロルド視点)
 「は?じゃないよ。今までいくらせがんでも僕にすら教えてくれなかった君の子どもだよ? 興味あるに決まってるじゃないか」
 そう、僕の忠実な臣下で幼馴染のクラウドは貴族や王族だろうと関係なく経理に厳しい男だ。つまり、ケチなのである。
 ……まぁ、だからこそ信頼しているわけだけど。
そんなクラウドには、ずっと詳細を隠し続けている子どもがいる。
 基本的に、侯爵家以上の嫡子は男女を問わず早い内から人脈作りや婚約のために社交界デビューをする。にも関わらずこの男、クラウドは『子どもがいる』という情報以外、歳や性別も全て隠し続けている。
 数年前には養子を引き取ったという噂も流れ、実の子どもがいるのかすら定かではなかった。
 だから、この前唐突に『今年の建国記念日で子どもがデビューする』と言われた時は本当に驚いたものだ。
 建国記念日の前日だし、国王という地位があるから流石に情報を得られるだろうと考えて尋ねてみた。
 
 「明日になれば会えますよ。良かったですね。それより手が止まってますよ」
 
 ……これである。つくづくこの幼馴染は真面目だと思う。
 「えー、いいじゃないか少しくらい教えてくれても。今更出し惜しみかい?」
 「むしろどうしてそんなに聞きたいのか知りたいですね」
 「当たり前じゃないか。アルバートの臣下か婚約者になる子だよ?」
 
「…まだ諦めてなかったんですか、ソレ」
 
 「勿論。で、男の子? 女の子? あ、養子に引き取ったのが男の子だから女の子かな?」
 「煩いですよ、バカ陛下。いいから仕事して下さい。その書類、今日中に終わらなかったら私の子ども達には一生会えないと思って下さい」
 片手で眉間を揉みながら深いため息ついたクラウドは、その足でさっさと逃げるように部屋から出ていってしまった。
 「また逃げられてしまった…」
 座っている椅子の背もたれに寄り掛かって一人ごちる。
 
 彼が頑なに子どもの存在を隠し続けている理由は知っているし、同情もしている。当時、国王として彼に何もしてやれなかった。
 机の上に山積みになっている書類達を見やると軽く目眩がした。
 「まぁいいさ。どうせ明日になれば分かるんだから」
 ペンを握り直して机と向き合う。
 まずはこの書類達を片付けなくては。
 いつもはうんざりして中々進まないこの書類整理も、今日だけは捗った。
 「でもやっぱり、僕は女の子だと思うなぁ…」
 少し願望が混ざった独り言は、誰にも届くことは無かった。
 以上、国王様とお父様のお話でした!
 お父様がロザリーやニコラス以外に対応が違うと面白いなと思って書いてみました。
 本日もありがとうございました(´˘`*)
 次回、本編に戻ります。
 よろしくお願いします。
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