異世界からの略奪者 奴隷から英雄への成り上がり

芽キャベツ

5話〜避難所

 真っ暗闇の意識を覚醒させてくれたのは右腕に柔らかなそして温かい感触だった。

 目を少し開けるとそこは見慣れない天井、薬品などが並べられている部屋に俺は寝かされていた。

 俺は柔らかい感触を感じる右腕に視線を向けると、その先には雪が俺の右腕を抱き枕のように抱きしめて眠っていた。

 俺の思考は何故雪がここにいるのかと考えるより、雪の柔らかさに驚いていた。

 今まで俺は雪の存在を世話のかかる妹のように思っていたが、腕を抱きしめて眠っている雪は女の子の柔らかさがあった。

「雪ってこんなに柔らかかったんだな」

 俺はもう一方の手でぷにぷにしてそうな頬を触ろうと動かすと、左腕に激痛が走り眉を顰める。

「あぁ、そういえばあの化け物に襲われたんだ。俺は気を失って誰かにここに運ばれたのか。ここはどこだ?雪もいるし、少し見覚えがある気がするんだが」

「‥‥‥ん」

 俺の声に反応したのか、雪は瞑っていた瞼をゆっくりと開ける。

「おはよう、雪」

「‥‥‥大地!やっと目を覚ました!」

 雪は飛び上がり、俺に飛びついてくるような勢いで強く抱きしめた。

 さっき右腕で感じた柔らかい感触を全身で感じてしまうのはやばいことになる。

「雪、体のあちこちが痛むやめてくれ!」

 俺が痛むのは左腕だけだが、このまま抱きしめられるとまずいと判断した俺は雪に嘘をつく。

「ごめん!」

 雪は素直に謝り、俺から離れる。

 素直な雪に少し罪悪感を感じてしまう。

「い、いや、気にするな。それより雪、ここはどこだ?少し見覚えがある気がするんだが」

「‥‥‥ここは昔、私たちが通っていた小学校の保健室。今は避難所として使われてる。大地、左腕は大丈夫?」

 なるほど、どおりて見覚えがあるわけだ。

「左腕は多少痛むが問題はない」

 左腕を動かし、雪を安心させる。

「‥‥‥よかった、大地一週間も寝てたから心配した」

「一週間!?そんなに眠ってたのか。雪、いったいこの一週間で何があったんだ?」

 雪から聞いた話の概要はこうだった。

 二人で見た穴から人、怪物が出現、日本に宣戦布告を仕掛けてきた。

 最初は自衛隊がかなり優勢であったが、穴から新たに出現した赤のローブを着た集団、そいつらはフランマと名乗り、フランマの登場により、形勢は逆転した。

 自衛隊の攻撃はすべてと言っていいほど防がれ、一方的に攻撃されるようになり、自衛隊は壊滅状態、そのまま東京はあっという間に占拠され、指揮系統が崩れ、今、この国は国としての機能が失ってるとのことだった。

 ん?何か違和感がある。

「待て、他の国はどうした?日本は他の国に救援とか求めたりしなかったのか?」

「‥‥‥もちろん要請しようとした。でも奴等は日本の周りに大きな結界を張ったの。その結界は内外の侵入を防いで、外にいる人達とも連絡が取れなくなってしまったの。そして穴からは続々と人、怪物が出入りするようになった。奴等は私たちを奴隷として捕まえて、男は労働力として、女は貴族や商人に売られるらしい」

「何で雪は奴隷になった先の話まで知っているんだ?」

「それは僕が敵の兵士を尋問して、洗いざらい吐かせたからさ!」

 俺と雪の二人だけの空間から他の男の声が割り込んできた。

 聞こえてきた声の方に視線を向けると、そこにはどこかでアイドルをやっているかのようなイケメンが立っていた。

 その男は新品のような全く汚れていない服を着こなし、身長も180cmは超えているであろう、そんなイケメンが笑顔で金髪を揺らしながらこちらに近づいてくる。

「やぁ!やっと目が覚めたようだね!僕の名前は一輝!橘一輝たちばないつきだ!よろしく頼む!」

 一輝は俺に握手を求めてきたので、自分も自己紹介をし、一輝の握手に応える。

「僕が君をここに運んだ日から今日まで、雪ちゃんが君の傍を離れずにずっと君の世話をしてくれていたんだ!お礼を言うといい!」

「そうなのか?雪、いつも俺に面倒かけてくれてありがとうな。いつも心配ばっかかけてしまってほんとにすまないと思ってる」

 俺は雪に感謝を述べる。

「‥‥‥大丈夫。これも未来の旦那様のため」

 雪は頰赤く染め、小声で何か呟いていたがあまり聞き取れなかった。

「え?未来のなんだって?」

「‥‥‥気にしないでいい、それより話の続き」

「そうか?雪がいいなら別に構わないが。それより橘、お前が俺を連れてきたってことはお前が俺を助けてくれたのか?」

「うん!そうだよ!僕は幼い頃から弓道や剣道、柔道をしていてね!あの日も僕が弓道場に向かっている最中に偶然君たちと居合わせてね!助けられてよかったよ!」

 一輝は輝く笑顔で微笑む。

「あぁ!あの時はマジで死ぬかと思った!助けてくれてありがとうな!」

「なに、困ってる人を助けるのは当たり前のことさ!」

 一輝はそう言って、金髪を搔き上げる。

「それでここは安全なのか?」

「もちろん安全だ!と言いたいところだが、最近はかなり危険になっているかな。でもここには自衛隊の人たちもいるし、少しは安心してくれ!」

「自衛隊?けど壊滅状態じゃなかったのか?」

「‥‥‥うん。戦いから生き残った人、基地で待機していた残りの人達がここにいる」

「なるほど。だけど自衛隊を壊滅させたフランマとやらが来たら、安全ではないと思うんだが?」

「そこは多分大丈夫だ!フランマの大多数は穴に帰って、残りは東京とか主要都市にしかいない筈だ!オークやミノタウロス級の魔物を連れてくる人は穴の近くを守っているし、襲ってくるのは下級の魔物くらいだよ!」

 よく分からない言葉が次々と出てくる。

「魔物?そのオークやミノタウロスってなんだ?」

「魔物はこの世界には存在しない世界、あの穴の先には違う世界があるんだ!その世界にはこの世界とは違い、魔力というのが存在するらしい!その魔力が暴走して人や動物、植物などをが変身させた物を魔物というんだ!魔物は魔力、力を増幅させ人や動物を脅かす自然の災いらしいんだ!奴らはその魔物を調教し、僕達を襲わせているんだ!オークは鬼が一回りでかい図体で棍棒を持っている。動きは鈍いが、力がかなり強くてね。一振りで家を吹き飛ばすぐらいの力がある。ミノタウロスは君と戦った、こん棒を持った、牛の姿をした魔物さ!まぁこれは全部尋問した兵士の受け売りだけどね!」

「‥‥‥あいつらは魔物は基本的に遠距離の攻撃に弱い。だから自衛隊が遠距離で仕留められる」

「なるほど。今はまだ安全というわけか」

「そうなんだ。でもそろそろ食糧、資源が少なくなっているんだ。このまま立て籠もれるのもあと少しが限度かな」

 一輝が顔を暗くする。

「とりあえず、外の様子でも見に行っても構わないか?」

「‥‥‥ん。行こう。私が案内してあげる」

 雪は俺の手を取り、部屋の外に繰り出した。

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