ACT(アクト)~俺の婚約者はSな毒舌キャラを演じてる…~

うみたけ

寝る前には必ずスマホの充電をしておきましょう……

私にとっての決戦当日。

「あ~緊張する……」

 まだ午前中だというのに容赦のない日差しが照りつける中、待ち合わせ場所である駅前で、そわそわしながら下之城さんが来るのを待つ私。
 手にはいつでもアドバイスを求められるよう、しっかりとスマホを握りしめている。

「10時43分……あと15分くらいか……」

 待ち合わせ時間が近付くとともに、私の緊張感もどんどん高まっていく。
 奏太君以外では初めてできた同級生の友達との初めてのお出かけ…絶対に失敗は許されない……!!もし失敗したり、つまらないって思われたら、下之城さんも愛想尽かしちゃうかも……。
 ……ダメだ……失敗できないって考えたら余計に緊張してきた……。
 変なこと言っちゃったらどうしよう……。
 一緒に居てつまらないと思われたらどうしよう……。
 会話止まっちゃったらどうしよう……。
 もし、嫌われちゃったら……。
 頭の中がどんどんマイナス思考で埋め尽くされていく……。

「あ~どうしよう……どうしよう……」

 最早不安を口に出さずにはいられないくらい、不安と緊張と焦りが最高潮に達しようとしたその時、

ブーブーブー

「!!」

 力いっぱい握っていたスマホが振動し、ラインの受信を知らせてきた。
 何気なく画面を確認してみると、そこには

『とりあえず深呼吸でもして落ち着け』

という、奏太君からの簡素なアドバイスが。
 そ、そうだ。今更慌てても仕方ない。とにかく一旦落ち着かなきゃ!

「す~、は~、す~、は~」

 気持ちを落ち着けようと、周りの目があることも忘れ、体も思いっきり使って大きく深呼吸。すると、

「ねぇねぇ、お母さん。あそこに深呼吸してる人いる」
「太郎ちゃん、見ちゃいけません!」
「これからデートで緊張してるのかな?」
「え~、何それ。可愛い!!」

……人生最大級の恥ずかしさで逃げ出したくなった。

「大丈夫。全部空耳。全部空耳」

 とりあえず我ながら幼稚な自己暗示をかけて、恥ずかしさを紛らわせることに。あ、でもなんかちょっと落ち着いてきたかも。

 だ、大丈夫! 栞ちゃんからのアドバイスも全部覚えたし、自分でも会話に困らないように昨日は夜遅くまでネットを駆使していろいろな話題をかき集めた。大丈夫! 準備は万端だ!! 私は今日、下之城さんともっと仲良くなって、奏太君と太田君、栞ちゃんと日野さんみたいな親友になるんだ!!

「よし!」

 やってやる! ――と心の中で意気込みながら小さくガッツポーズを作ると、自然と気持ちが奮い立ってきた。

「あ、そうだ! 奏太君にお礼言って――え……?」

 しかし、平常心を取り戻せたのも束の間。奏太君にラインの返信をしようと再び携帯を操作しようとしたところで、私の目に信じられないものが飛び込んできた。

「で、電池が……」

 不意に目に入った電池の残量は、なんと3%。そ、そういえば昨日充電してなかったかも!! 昨日の夜、話題になるようなものをネットで探しながら寝落ちしてしまったような……。

「や、ヤバい!!」

 ど、どうしよう! 携帯がなきゃ栞ちゃんや奏太君からアドバイスしてもらうっていう計画が……。
携帯用の充電器なんて持ってないし…携帯ショップも近くにはないし……。

「あ、そうだ! 栞ちゃんか奏太君の携帯を借りればいいんだ!!」

 起死回生の作戦を閃いた私は、すぐにこのことを知らせようと近くにいるであろう二人の姿を探す。
どこ? どこにいるの!? 奏太君!? 栞ちゃん!? 焦りながら必死に辺りを見渡すこと数十秒。

「あ! いた!!」

 少し離れた改札付近に、サングラスにマスク、真夏だというのにロングコートという漫画でしか見たことのないような変装を施している男の人と一緒にいるメガネをかけた栞ちゃんの姿が。
 あの怪し過ぎる男の人もきっと奏太君だ!
『なんでその服装チョイス!?』とか『逆に悪目立ちしちゃってるよ!!』とか『栞ちゃん頭抱えちゃってるじゃん!!』とかいろいろ言いたいことはあるけど、それはとりあえず後回し!
 まずはこのピンチを打破しなきゃ!! 急げ! 早くしないと下之城さんが来ちゃう!!
 しかし、二人の下へと駈け出そうとしたその時、

「あら、なごちゃん! もう来てましたの!?」
「し、下之城さん!?」

 なんというタイミングだろうか。ちょうど下之城さんがやってきてしまった……。そして、

「ごめんなさい! ワタクシとしたことが、せっかくのデートだというのになごちゃんを待たせるなんて……。下之城優奈、一生の不覚ですわ」
「そ、そんな大げさだよ! ほ、ほら!まだ約束の時間にも――あ……」

 直後、無常にも私のスマホは最後の振動音を残してシャットダウン。
 試合開始前に唯一の武器であり頼みの綱を失った私は、改めて現実の厳しさというものを思い知らされた……。

※※※※

 一方、その頃アドバイザーの二人はというと……

「君、ちょっと身分証明できるもの見せてくれるかな? 通行人から『怪しい奴がいる』と通報を受けてね」
「え? いや、え!?」
「あ、あの! すみません!! この人、私の兄なんです!! この恰好には訳があって――」
「君、この男と知り合いなのかい? 悪いけど君も一緒に話聞かせてもらっていいかな?」
「え!? わ、私も!? ――もう! だからその恰好はダメだって言ったのに!! お兄ちゃんのバカ~!!」

 奏太のあからさま過ぎる変装のせいで、兄妹仲良く警察から職務質問を受けていて。
 私がピンチに陥っていることなど知る由もなかった……。

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