ACT(アクト)~俺の婚約者はSな毒舌キャラを演じてる…~

うみたけ

下之城さんは予想外

「よし、じゃあ今日のプリント配るぞー」

 勉強合宿2日目。
 今日も昨日同様のスパルタ授業が始まろうというのに、私は一人上の空。言うまでもなく、原因は昨夜の出来事……。

「まさかいきなりプロポーズするなんて……」

 そう小さく呟きながら、私は元凶である彼女の方に視線を向けた。

 下之城優奈――下之城財閥のお嬢様で容姿端麗の人気者。そして……私の目の前で奏太君にプロポーズした少女だ。

『あなたは藤岡君に相応しくない』

 昨日の昼に面と向かって言われた時から何かしてくるだろうとは思ってたけど……。
 まさか当日に、彼女である私の目の前で、おまけにいきなりプロポーズするなんて……。予想外のことの連続で昨日はろくに言い返せなかった。
 奏太君を横取りするなんて許せない!
 お金を使って、しかも奏太君の両親を利用して結婚を迫るなんて最低!!
 お金持ちで、可愛くて、いつも誰かに囲まれてて...そんな何でも持ってるくせに、他に何も持ってない私から奏太君まで奪わないでよ!!――等々。昨日の夜はそんなことばかり考えて、一晩中泣いていた。 だけど……

「本当に奏太君のことを考えたら、下之城さんと結婚した方がいい……、よね」

 お金持ちで心配どころか働く必要すらない、さらには両親や妹まで養ってくれるという経済環境。
 誰もが羨むであろうお人形さんみたいな可愛いお嫁さん。
 奏太君にとっては私と一緒に居るより、彼女と一緒になった方が幸せなんじゃないか、とか、一晩経って冷静になればなるほどいろいろと考えてしまう……。
 奏太君は優しいし絶対に裏切らない。
 だから、きっと私が何もしなくても奏太君は最終的に私を選んでくれるはず。昨日もプロポーズされた後すぐに断ろうとしてくれたし、多分間違いない。
 でも……それが本当に奏太君のためになるのかというと、
 "奏太君と一緒に居続けたい"
 "奏太君にはより幸せな将来を掴んでほしい"
――そんな2つの願いに板挟みに頭を悩ませていると……、

「おい、波志江」
「!!」

 突然近くで名前を呼ばれ、ビクッとして顔を上げると、目の前には腕を組んだまま鋭い眼光で見下ろす監督役の強面先生の姿が……。やってしまった……!!

「教科書も筆記用具も出さずに授業に臨むとは。お前、単位は要らないってことでいいんだよな!? あ!?」
「え、いや……」

 先生の厳しい叱責に思わずフリーズする私。
 このまま落第? いや、そこまでなくても追加で3倍も4倍もの課題を出されて空き時間は全部犠牲になったり? これ、結構ピンチなんじゃ……?
 そんなことを考えていた矢先、私は予想外の人物からの助けに、思わず自分の耳を疑ってしまった。

「波志江、喜べ! 課題追加だ!二度と舐めた態度を取らないように、特別に通常の3倍に――」
「先生、ワタクシ、波志江さんを保健室まで連れていって差し上げてもよろしいですか? 先程からどうも体調が悪そうですので」

 私に助け船を出してくれた人――それはなんと……下之城さんだった。

「ど、どうして……?」

 悩みの元凶であり、私を敵視しているはずの少女から差しのべられた救いの手に私は戸惑いを隠せなかった。
 なんで? どうして助けるの? このまま放っておいて私の補習が長引いた方が奏太君と一緒にいる時間も増えるじゃん。
 それとも何? 私が居たところで、奏太君を振り向かせるのなんて簡単だとでも言いたいの!?
 いろいろな可能性が頭の中を駆け回り、頭の中はグチャグチャ。
 しかし、当然ながら先生はそんな私の変化になど気にも止めず、

「チッ、お前か!」

 恐らく昨日の田中先生から彼女のことを聞かされていたのだろう。
 下之城さんの方を睨み付けて舌打ちしたものの、

「……好きにしろ! ――波志江、今回は体調不良ってことで特別にペナルティ無しにしといてやるが、次は無いからな!」
「は、はい……」

 下之城さんの希望通りであろう言葉を残して私の席から離れていってしまった。
 そして入れ代わりで、私を助けてくれた彼女が優雅にこちらへ近づいてきて、

「下之城さん、立てます?」

 そう言って笑顔で手を差し伸べてきた。

「……べ、別に一人で立てるわ」
「あら、そう」

 差し出された手を軽く払い除け、キッと睨み付けられてもその笑顔が崩れることはなく。

「さぁ、行きましょうか」

 教室中の注目を一身に集めながら私を先導して堂々と教室を出た。
 そして、教室を出てしばらく歩いたところで立ち止まり、

「ちょっと、あなたどういうつもりなのか説明してくれる?」

 舐められないように人前用の強気口調。そして、立ち止まった私に気付いて振り返った下之城さんを鋭く睨み付けた。

「あら、波志江さん。ここには私達以外誰も居ないのだから、素のしゃべり方でよろしいのよ? ――って、そんな雰囲気じゃないみたいですわね」
「あなた、昨日自分がしたことを忘れたわけではないわよね?」
「ええ。藤岡君にワタクシが結婚を申し込んだことですわよね? 勿論覚えて――」
「じゃあ、どうして敵であるはずの私を助けるような真似をしたのか説明してもらえるかしら?」

 まるで動じることなく笑顔を崩さない彼女の言葉を遮り、間髪入れずに畳み掛ける。がしかし、

「あら、そんなのワタクシが波志江さんのことを大好きだからに決まってますわ。好きな人を助けるのは当然でしょ?」

 下之城さんは当たり前のような口調でそう言って、にこやかに笑う。

「ふ、ふざけないで!」
「あら、ふざけてなんていないわ。私は本気ですわよ」

 当然そんな言葉信じられる訳もなく、私は猛反論。
 たけど……

「いい加減に――んんっ!?」

言いかけたその時……、私は何か柔らかくて暖かいもので唇をふさがれた。
 そのまま数秒……。
 突然の出来事に思わず固まってしまったも、ようやく自分の唇を塞いでいるのが下之城さんの唇だということに気付き、ハッとして目の前の彼女を突き飛ばした。
 すると、

「ちょっ! な、何してるの!?」
「――これで本気って分かってくれたかしら?」

 私に突き飛ばされた彼女は、動揺で思わず素に戻った私に向かってそう言うと、悪戯っぽい笑みを返してきた。
 わ、私、今き、キス……された!?  な、なんで!? どういうこと!?
 唇に残っている柔らかくて暖かい感触はこれが夢ではないことを如実に物語っていて、その事実が私の心を激しく乱す。
 でも、なんと衝撃の出来事はこれだけでは終わらなかった。

「お、おい、お前ら何やってんだ……?」

 不意に背後から聞こえた聞き覚えのあり過ぎる声によって、私の頭の脳は完全に思考を停止した。
 だって仕方ないじゃん……。――たった今、大好きな恋人に敵だと思っていた女子とのキスシーンを目撃されたのだから……。

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