ACT(アクト)~俺の婚約者はSな毒舌キャラを演じてる…~
お嬢様にはお見通しだったんですね……
「ちょ、ちょっと! こんなところにいきなり連れてきて、どういうつもり?」
校舎の外まで連行されたところで、私はようやくその手を振り払った。
「あら、ごめんなさい。痛かったかしら?」
「別に痛かったわけではないけど、同意もなしに強引に引っ張りまわされれば腕を振り払いたくもなるのは当然でしょ?」
なんとか冷静さを取り戻し、“毒舌モード”で応対する私。
「ごめんなさい。もしかして迷惑だったかしら?」
「べ、別に迷惑という程のことでもないけれど……」
「そう。それならよかったわ」
先程の先生に対する強気な態度とは一変して、少し不安げな目でこちらを見つめてきたかと思えば、今度は私の返答を聞いて安心したような顔で微笑んでくる。
この子、いつも高圧的な性格ではないんだな……。と、そんなことを考えつつ、最も気になっていることを聞いてみる。
「それよりも、どうして私をこんなところに連れてきたのか、理由を教えてもらいたいのだけど」
「ああ。別に大した意味はないわ。実はワタクシ、以前からあなたには興味があってたまに観察していて、ずっとお話したいと思ってたのですが……丁度いいタイミングかと思いまして」
私に話したいこと? ていうか、私に興味があって観察してたって……、この人もしかしてスト――
「あ、ちなみに断じてストーカーなどではありませんので」
「そ、そう……」
とりあえず今は彼女の言葉を信じよう。それよりも……
「それより、私に話したいことっていうのは何かしら? もし、文句が言いたいのなら別に構わないけれど、数倍にして返される覚悟はできているかしら?」
初対面で、しかも好意的に接してきてくれている相手に若干心は痛むけど、私はとりあえず普段学校で振る舞う“ドS毒舌キャラ”で切り返してみた。すると、
「ふふっ」
「!?」
それを受けた目の前の少女は突然噴出した。そして……
「一体何を笑っているのかわからないけれど、あなたが私に喧嘩を売っているのはよく――」
「うふふふっ! ――ごめんなさい、どうしても可笑しくって」
「だから何が――」
「とりあえずあなたに言いたいことの一つ目――波志江さん、あなたキャラ作ってるのバレバレですわよ?」
「!!!!」
目の前のお嬢様は笑うのを必死に堪えながら、私のキャラ作りを言い当てた。
「わ、私は別に――」
「まずその表情と挙動。かなり頑張って抑えているつもりなんでしょうけど……、見る人が見ればすぐわかりますわ」
「!!」
「ほら、また顔に出た。本当に素直な人なんですね。ふふっ」
頭が真っ白になるとはこういう感覚のことを言うのだろうか。
私はあまりの出来事に頭が回らず、何も言い返すことはできなかった。
これはかまをかけているとかじゃない。確実に見破ってる……。それはもう確実だった……。
どうして? 今まで誰にもバレてなかったのに……。いや、もしかして皆指摘しないだけで既に私がキャラを作ってるってバレてた……? いや、でもそんなはずは……
「大丈夫よ。多分この学校で気付いてるのなんてあなたの恋人とその周囲以外だとワタクシくらいだと思うから。ワタクシからしてみれば、どうしてこれに気付かないのか不思議なのだけどね」
よ、よかったぁ……。とりあえず他の人にはバレてないみたいで……。
でも、安心なんてしてられない。ここで彼女の口止めをしなくちゃ。
「それで、あなたの要求は何? このことを他の人にバラそうというなら――」
「あら、もう無理なキャラで話さなくていいんですのよ? 素のまま話してみてはどうかしら?」
意を決して、必死に強気の姿勢で本題を切り出したものの、それは目の前のお嬢様によって妨害されてしまい、
「このことを他の人にバラそうと――」
「素の喋り方じゃないと聞いてあげないわよ」
「……このこと、他の人にバラすつもりなの?」
「ふふっ、やっぱり素の喋り方の方が可愛らしいわね。顔、赤くなってるわよ?」
「う、うるさい!!」
結局、彼女に根競べでも負けた私は素の状態で話すことになってしまった……。
「うふっ、ごめんなさい。ちょっと意地悪しちゃったかしら。――それで、ワタクシが『波志江さんは普段強気なキャラを演じてるけど、実は内気な性格だ』って学校の人にバラすのかが気になるんですの?」
「う、うん……」
ここでバラされたら今までの苦労は台無し。いや、もしかしたら面白がった人がイジメに来たり、今までに酷いこと言っちゃった人が仕返しに来たりするかも……。
もしそんなことになったら、昔以上に奏太君に迷惑かけちゃうかもしれない……。
それはダメ! それは……、それだけはどんな手を使ってでも阻止しないと……!! ――と、私は悲壮な覚悟をしていたのだが……
「そんなの、ワタクシが言いふらすわけないじゃないですの。失礼してしまいますわ」
「……え?」
「ワタクシを誰だと思っていますの? 天下の下之城財閥が令嬢、下之城優奈ですわよ? か弱い女の子の秘密を言いふらすなんてこと、ワタクシがするわけありませんわ。それに、キャラ作りなんて人間大なり小なり誰でもしてるものですし、わざわざ言いふらすようなことでもないでしょう?」
「し、下之城財閥!?」
知ってる。下之城財閥――衣料品、スーパー、精密機器、医療等々様々な分野の経営を行っていて、現在の日本で5本の指に入るって言われてる超大財閥。
喋り方とか発言からお金持ちなんだとは思ってたけど……、まさか大財閥の御令嬢だったなんて……。
「あら、ワタクシのこと知らなかったんですの? ワタクシもまだまだってことですわね――まぁいいですわ。とりあえず、ワタクシはあなたにキャラ作りを知っていると教えてあげたかっただけ。ワタクシがあなたの秘密を言いふらすってことはないから安心なさい」
「あ、ありがとうございます!」
彼女が嘘を吐いているようには到底思えなかった。
とりあえず、何はともあれ、私は学校中に秘密が漏れるという最悪な展開は避けることができたらしい……。ホントに良かった。
「そ、そういえば、さっき“私に言いたいことの一つ目”って言ったような気がするんだけど、他にも何か言いたいこと、あるの?」
でも、安心しきるにはまだ早かった。
「あぁ! そうそう、忘れてましたわ。ワタクシとしたことが、あなたに一番言いたかったことを言うのを忘れてましたわ」
私の指摘に対して、下之城さんは思い出したように手を叩く。
「波志江さん、あなた藤岡君と交際をしているみたいだけど」
「う、うん」
奏太君と付き合ってることも知ってるんだ。まぁ、そうだよね。たまに私のこと観察していたって言ってたし……。と、そんな呑気なことを考えていた私の耳に、次の瞬間、衝撃的な言葉が届けられた。
「波志江さんは藤岡君のパートナーとして相応しくないわ」
「……え?」
「だから、早々に彼とは別れることをお勧めするわ。あなたのためにも、そしてワタクシのためにも」
聞き違いじゃない。
そして、そう告げた彼女の顔に先程までの上品でにこやかな表情はなく、その目は真剣そのもの。
とても冗談を言っているようには見えなかった。
「ちょ、ちょっと! どういうこと!?」
「言葉通りの意味ですわ。――それじゃあ、言いたいことも言えましたし、ワタクシはそろそろ失礼させていただきますわ」
「ちょっと! 下之城さん!?」
彼女――下之城優奈は私に一方的に告げると、軽くお辞儀をしてそのまま去って行ってしまった。
しかし、この時の私はまだ彼女の言葉をそう重く受け止めてはいなかった。――この後、この合宿で大事件が起きようとしているとは知らずに……。
校舎の外まで連行されたところで、私はようやくその手を振り払った。
「あら、ごめんなさい。痛かったかしら?」
「別に痛かったわけではないけど、同意もなしに強引に引っ張りまわされれば腕を振り払いたくもなるのは当然でしょ?」
なんとか冷静さを取り戻し、“毒舌モード”で応対する私。
「ごめんなさい。もしかして迷惑だったかしら?」
「べ、別に迷惑という程のことでもないけれど……」
「そう。それならよかったわ」
先程の先生に対する強気な態度とは一変して、少し不安げな目でこちらを見つめてきたかと思えば、今度は私の返答を聞いて安心したような顔で微笑んでくる。
この子、いつも高圧的な性格ではないんだな……。と、そんなことを考えつつ、最も気になっていることを聞いてみる。
「それよりも、どうして私をこんなところに連れてきたのか、理由を教えてもらいたいのだけど」
「ああ。別に大した意味はないわ。実はワタクシ、以前からあなたには興味があってたまに観察していて、ずっとお話したいと思ってたのですが……丁度いいタイミングかと思いまして」
私に話したいこと? ていうか、私に興味があって観察してたって……、この人もしかしてスト――
「あ、ちなみに断じてストーカーなどではありませんので」
「そ、そう……」
とりあえず今は彼女の言葉を信じよう。それよりも……
「それより、私に話したいことっていうのは何かしら? もし、文句が言いたいのなら別に構わないけれど、数倍にして返される覚悟はできているかしら?」
初対面で、しかも好意的に接してきてくれている相手に若干心は痛むけど、私はとりあえず普段学校で振る舞う“ドS毒舌キャラ”で切り返してみた。すると、
「ふふっ」
「!?」
それを受けた目の前の少女は突然噴出した。そして……
「一体何を笑っているのかわからないけれど、あなたが私に喧嘩を売っているのはよく――」
「うふふふっ! ――ごめんなさい、どうしても可笑しくって」
「だから何が――」
「とりあえずあなたに言いたいことの一つ目――波志江さん、あなたキャラ作ってるのバレバレですわよ?」
「!!!!」
目の前のお嬢様は笑うのを必死に堪えながら、私のキャラ作りを言い当てた。
「わ、私は別に――」
「まずその表情と挙動。かなり頑張って抑えているつもりなんでしょうけど……、見る人が見ればすぐわかりますわ」
「!!」
「ほら、また顔に出た。本当に素直な人なんですね。ふふっ」
頭が真っ白になるとはこういう感覚のことを言うのだろうか。
私はあまりの出来事に頭が回らず、何も言い返すことはできなかった。
これはかまをかけているとかじゃない。確実に見破ってる……。それはもう確実だった……。
どうして? 今まで誰にもバレてなかったのに……。いや、もしかして皆指摘しないだけで既に私がキャラを作ってるってバレてた……? いや、でもそんなはずは……
「大丈夫よ。多分この学校で気付いてるのなんてあなたの恋人とその周囲以外だとワタクシくらいだと思うから。ワタクシからしてみれば、どうしてこれに気付かないのか不思議なのだけどね」
よ、よかったぁ……。とりあえず他の人にはバレてないみたいで……。
でも、安心なんてしてられない。ここで彼女の口止めをしなくちゃ。
「それで、あなたの要求は何? このことを他の人にバラそうというなら――」
「あら、もう無理なキャラで話さなくていいんですのよ? 素のまま話してみてはどうかしら?」
意を決して、必死に強気の姿勢で本題を切り出したものの、それは目の前のお嬢様によって妨害されてしまい、
「このことを他の人にバラそうと――」
「素の喋り方じゃないと聞いてあげないわよ」
「……このこと、他の人にバラすつもりなの?」
「ふふっ、やっぱり素の喋り方の方が可愛らしいわね。顔、赤くなってるわよ?」
「う、うるさい!!」
結局、彼女に根競べでも負けた私は素の状態で話すことになってしまった……。
「うふっ、ごめんなさい。ちょっと意地悪しちゃったかしら。――それで、ワタクシが『波志江さんは普段強気なキャラを演じてるけど、実は内気な性格だ』って学校の人にバラすのかが気になるんですの?」
「う、うん……」
ここでバラされたら今までの苦労は台無し。いや、もしかしたら面白がった人がイジメに来たり、今までに酷いこと言っちゃった人が仕返しに来たりするかも……。
もしそんなことになったら、昔以上に奏太君に迷惑かけちゃうかもしれない……。
それはダメ! それは……、それだけはどんな手を使ってでも阻止しないと……!! ――と、私は悲壮な覚悟をしていたのだが……
「そんなの、ワタクシが言いふらすわけないじゃないですの。失礼してしまいますわ」
「……え?」
「ワタクシを誰だと思っていますの? 天下の下之城財閥が令嬢、下之城優奈ですわよ? か弱い女の子の秘密を言いふらすなんてこと、ワタクシがするわけありませんわ。それに、キャラ作りなんて人間大なり小なり誰でもしてるものですし、わざわざ言いふらすようなことでもないでしょう?」
「し、下之城財閥!?」
知ってる。下之城財閥――衣料品、スーパー、精密機器、医療等々様々な分野の経営を行っていて、現在の日本で5本の指に入るって言われてる超大財閥。
喋り方とか発言からお金持ちなんだとは思ってたけど……、まさか大財閥の御令嬢だったなんて……。
「あら、ワタクシのこと知らなかったんですの? ワタクシもまだまだってことですわね――まぁいいですわ。とりあえず、ワタクシはあなたにキャラ作りを知っていると教えてあげたかっただけ。ワタクシがあなたの秘密を言いふらすってことはないから安心なさい」
「あ、ありがとうございます!」
彼女が嘘を吐いているようには到底思えなかった。
とりあえず、何はともあれ、私は学校中に秘密が漏れるという最悪な展開は避けることができたらしい……。ホントに良かった。
「そ、そういえば、さっき“私に言いたいことの一つ目”って言ったような気がするんだけど、他にも何か言いたいこと、あるの?」
でも、安心しきるにはまだ早かった。
「あぁ! そうそう、忘れてましたわ。ワタクシとしたことが、あなたに一番言いたかったことを言うのを忘れてましたわ」
私の指摘に対して、下之城さんは思い出したように手を叩く。
「波志江さん、あなた藤岡君と交際をしているみたいだけど」
「う、うん」
奏太君と付き合ってることも知ってるんだ。まぁ、そうだよね。たまに私のこと観察していたって言ってたし……。と、そんな呑気なことを考えていた私の耳に、次の瞬間、衝撃的な言葉が届けられた。
「波志江さんは藤岡君のパートナーとして相応しくないわ」
「……え?」
「だから、早々に彼とは別れることをお勧めするわ。あなたのためにも、そしてワタクシのためにも」
聞き違いじゃない。
そして、そう告げた彼女の顔に先程までの上品でにこやかな表情はなく、その目は真剣そのもの。
とても冗談を言っているようには見えなかった。
「ちょ、ちょっと! どういうこと!?」
「言葉通りの意味ですわ。――それじゃあ、言いたいことも言えましたし、ワタクシはそろそろ失礼させていただきますわ」
「ちょっと! 下之城さん!?」
彼女――下之城優奈は私に一方的に告げると、軽くお辞儀をしてそのまま去って行ってしまった。
しかし、この時の私はまだ彼女の言葉をそう重く受け止めてはいなかった。――この後、この合宿で大事件が起きようとしているとは知らずに……。
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