ACT(アクト)~俺の婚約者はSな毒舌キャラを演じてる…~
お兄ちゃんへの想い…
屋上から出てから、一旦教室に荷物を取りに戻りそのまま並んで昇降口の方へと歩いていく私達。
どちらも何も喋らず、ずっと続いていたが無言だったが、学校を出てしばらく歩いたところで、ついに沈黙は破られた。
「しーちゃん、本当に良かったの…?」
「いいんだよ、これで」
屋上を出てからずっと言いた気にしていたことを、意を決した様子でようやく言葉に出したミナちゃんの声は、とても心配そうな声色をしていた。
そんな彼女に、私は『心配いらないよ』という意味を込めて笑顔を返した。
「でも…本当は好きだったんでしょ?お兄さんだけじゃなくて、あの先輩のことも…」
「うん、好きだよ…いや、好き“だった”かな…」
昔はお兄ちゃんとなごみちゃんによく遊んでもらっていた。
勿論、今と変わらずお兄ちゃんのことは好きだけど、私はなごみちゃんも同じくらいに大好きだった。
可愛くて、正直過ぎて嘘が吐けなくて、優しくて、人見知りで、憶病だけどいつも誰かのために一生懸命で…そんななごみちゃんが大好きで、私は密かに憧れていた。
そして、今朝。
なごみちゃんがまたこっちの学校に転校してきたって聞いて本当にうれしかった。
あの奥手な二人が既に付き合っていると聞いた時はさすがに驚いたけど、同時に『あの二人で良かった』とも思えた。
まぁ、そんな偉そうなこと言っておいて、今朝は急にお兄ちゃんに彼女ができたって言われて『これからはお兄ちゃんも帰ってくるのが遅くなったりして、私と遊んだりしてくれなくなっちゃうのかな…』とか勝手に想像して少し泣いちゃったんだけど…。あ、そういえばお兄ちゃんに今朝のことちゃんと説明するの忘れてたような…。お兄ちゃんのことだし、ちゃんと説明しとかないと、『栞、もしかして恋愛対象として俺のこと…』とか勘違いしちゃうかも…。でも、なごみちゃんの件が片付くまでお兄ちゃんと口聞かないって言っちゃったし…どうしよう…。
……まぁいいや。全部片付いてからちゃんと説明しよう。
――と、一人でいろいろ考えながらも二人のことを祝福していたのがつい1時間前までのこと…。
「ごめんね…私が余計な噂教えちゃったから…」
「ううん!違うよ!ミナちゃんは心配して教えてくれただけじゃん!」
放課後。ミナちゃんからなごみちゃんの悪評を聞いた私は、『そんなことあるわけない!』と思いつつも、その真偽を確かめるべく二人を探し回った。
その結果…
「結局、ミナちゃんが教えてくれた情報は正しかったみたいだし…逆に早めに知れてよかったよ」
なごみちゃんは変わっていた…。二人の反応を見るに、噂はほとんど全部が本当らしかった。
「で、でも…お兄さんもあれには事情があったって言ってたし…対立するにしてもせめて事情を聞いてからでもいいんじゃない…?」
多分、事情があるのは本当なんだろう。もしかしたら私なんかでは想像もできない酷い出来事があって、それをきっかけになごみちゃんの性格は変わってしまったのかもしれない…。でも…
「多分、前の学校とかで何か性格が変わっちゃう程の事情があったんじゃないかと思う」
「それなら――」
「でも、それは私の好きだった…お兄ちゃんの好きな、なごみちゃんじゃないんだよ…」
私は知っている…お兄ちゃんは心を許した相手は絶対に見捨てないってこと…。
私は知っている…お兄ちゃんは一度好きになった人を簡単には嫌いになれないってこと…。
私は知ってる…お兄ちゃんがどれだけなごみちゃんのことを好きだったか…。
「今のお兄ちゃんはきっと、昔のなごみちゃんを想いつつ、『いつか昔のなごみに戻ってくれるんじゃないか…』と思って今のなごみちゃんのことも受け入れてるんじゃないかと思う…!――でも!それじゃあ、お兄ちゃんはいつまで経っても“本当に好きな人”とは過ごせないじゃん!!」
「しーちゃん…」
徐々に感情が溢れてきて、気付けばここが通学路だということを忘れて、私は立ち止まって声を震わせていた。たまたま追い越して行った自転車のおばさんが、ビックリしてこちらを振り返っていたのも気にならないくらい、私は感情的になっていた。
「私、お兄ちゃんにはずっと迷惑かけてきた…」
小学校の頃クラスの男子に意地悪されて泣く私の代わりに仕返しして先生から怒られたり、中学校の時私をかばって交通事故に巻き込まれたり、高校入試の時受験票忘れて泣きそうになってる私のために自分のお小遣い全部使ってタクシーで届けてくれたり…数えだしたらキリがないくらい、お兄ちゃんには迷惑をかけてきた。
だから…
「その恩返しとして、私はお兄ちゃんに少しでも楽しい高校生活を送らせてあげたい!――だから、お兄ちゃんには“本当に好きな人”と付き合って、楽しく過ごしてほしいの!!」
お兄ちゃんに“本当に好きな人”と一緒に過ごしてもらう方法は二つだけ…。
昔のなごみちゃんに戻ってもらうか、お兄ちゃんになごみちゃんと別れてもらい、新しく“本当に好きな人”を見つけてもらうか…。
「もしかしたらこれは私のエゴで、お兄ちゃんにとっては有難迷惑なのかもしれない…。でも、それでも!私はお兄ちゃんのために何かしたいの!!」
私の自己満足なのかもしれない…。それは自分でもわかってる…。それでも、私の気持ちは変わらない!
「昔のなごみちゃんに戻ってもらうか、無理なら別れてもらう!解決するまで、私はお兄ちゃんとは一切喋らない!!――私の気持ちは変わらないから!!」
私は改めてミナちゃんに向かって宣言した。
すると…
「そっか。しーちゃんがそこまで言うなら、私はもう何も言わない」
ミナちゃんはそう言ってほほ笑んだ。
「何か私にできることとか、相談したいことあったら言ってね?私はしーちゃんの味方だから」
「うん!ありがとう!」
そして、笑いあった私達は再び歩き出そうと、前を向いた。
が、しかし…
「ねぇねぇ、君たち二人とも何話してんの?俺たちも混ぜてよー」
「この二人、結構可愛くね?」
振り向くとそこには見知らぬ男二人組が…。
「…なんですか?私達急いでるんですけど」
「まぁまぁ、固いこと言わずにさー俺たちと遊ぼうぜ?」
「きゃっ!」
「そうだ!カラオケ行こうぜ!カラオケ!俺たちが奢るからさ!!」
「ちょ、ちょっと!やめてください!!」
チャラい男達に肩を抱き寄せられ、強引に連れて行かれそうになる私達…。
怖い…!!誰か…誰か、助けて!!…お兄ちゃん!!
と、心の中で叫んだその時。
「あなた達、待ちなさい!!」
振り返ると、そこにはよく知る人物が肩で息をしながら立っていた。
どちらも何も喋らず、ずっと続いていたが無言だったが、学校を出てしばらく歩いたところで、ついに沈黙は破られた。
「しーちゃん、本当に良かったの…?」
「いいんだよ、これで」
屋上を出てからずっと言いた気にしていたことを、意を決した様子でようやく言葉に出したミナちゃんの声は、とても心配そうな声色をしていた。
そんな彼女に、私は『心配いらないよ』という意味を込めて笑顔を返した。
「でも…本当は好きだったんでしょ?お兄さんだけじゃなくて、あの先輩のことも…」
「うん、好きだよ…いや、好き“だった”かな…」
昔はお兄ちゃんとなごみちゃんによく遊んでもらっていた。
勿論、今と変わらずお兄ちゃんのことは好きだけど、私はなごみちゃんも同じくらいに大好きだった。
可愛くて、正直過ぎて嘘が吐けなくて、優しくて、人見知りで、憶病だけどいつも誰かのために一生懸命で…そんななごみちゃんが大好きで、私は密かに憧れていた。
そして、今朝。
なごみちゃんがまたこっちの学校に転校してきたって聞いて本当にうれしかった。
あの奥手な二人が既に付き合っていると聞いた時はさすがに驚いたけど、同時に『あの二人で良かった』とも思えた。
まぁ、そんな偉そうなこと言っておいて、今朝は急にお兄ちゃんに彼女ができたって言われて『これからはお兄ちゃんも帰ってくるのが遅くなったりして、私と遊んだりしてくれなくなっちゃうのかな…』とか勝手に想像して少し泣いちゃったんだけど…。あ、そういえばお兄ちゃんに今朝のことちゃんと説明するの忘れてたような…。お兄ちゃんのことだし、ちゃんと説明しとかないと、『栞、もしかして恋愛対象として俺のこと…』とか勘違いしちゃうかも…。でも、なごみちゃんの件が片付くまでお兄ちゃんと口聞かないって言っちゃったし…どうしよう…。
……まぁいいや。全部片付いてからちゃんと説明しよう。
――と、一人でいろいろ考えながらも二人のことを祝福していたのがつい1時間前までのこと…。
「ごめんね…私が余計な噂教えちゃったから…」
「ううん!違うよ!ミナちゃんは心配して教えてくれただけじゃん!」
放課後。ミナちゃんからなごみちゃんの悪評を聞いた私は、『そんなことあるわけない!』と思いつつも、その真偽を確かめるべく二人を探し回った。
その結果…
「結局、ミナちゃんが教えてくれた情報は正しかったみたいだし…逆に早めに知れてよかったよ」
なごみちゃんは変わっていた…。二人の反応を見るに、噂はほとんど全部が本当らしかった。
「で、でも…お兄さんもあれには事情があったって言ってたし…対立するにしてもせめて事情を聞いてからでもいいんじゃない…?」
多分、事情があるのは本当なんだろう。もしかしたら私なんかでは想像もできない酷い出来事があって、それをきっかけになごみちゃんの性格は変わってしまったのかもしれない…。でも…
「多分、前の学校とかで何か性格が変わっちゃう程の事情があったんじゃないかと思う」
「それなら――」
「でも、それは私の好きだった…お兄ちゃんの好きな、なごみちゃんじゃないんだよ…」
私は知っている…お兄ちゃんは心を許した相手は絶対に見捨てないってこと…。
私は知っている…お兄ちゃんは一度好きになった人を簡単には嫌いになれないってこと…。
私は知ってる…お兄ちゃんがどれだけなごみちゃんのことを好きだったか…。
「今のお兄ちゃんはきっと、昔のなごみちゃんを想いつつ、『いつか昔のなごみに戻ってくれるんじゃないか…』と思って今のなごみちゃんのことも受け入れてるんじゃないかと思う…!――でも!それじゃあ、お兄ちゃんはいつまで経っても“本当に好きな人”とは過ごせないじゃん!!」
「しーちゃん…」
徐々に感情が溢れてきて、気付けばここが通学路だということを忘れて、私は立ち止まって声を震わせていた。たまたま追い越して行った自転車のおばさんが、ビックリしてこちらを振り返っていたのも気にならないくらい、私は感情的になっていた。
「私、お兄ちゃんにはずっと迷惑かけてきた…」
小学校の頃クラスの男子に意地悪されて泣く私の代わりに仕返しして先生から怒られたり、中学校の時私をかばって交通事故に巻き込まれたり、高校入試の時受験票忘れて泣きそうになってる私のために自分のお小遣い全部使ってタクシーで届けてくれたり…数えだしたらキリがないくらい、お兄ちゃんには迷惑をかけてきた。
だから…
「その恩返しとして、私はお兄ちゃんに少しでも楽しい高校生活を送らせてあげたい!――だから、お兄ちゃんには“本当に好きな人”と付き合って、楽しく過ごしてほしいの!!」
お兄ちゃんに“本当に好きな人”と一緒に過ごしてもらう方法は二つだけ…。
昔のなごみちゃんに戻ってもらうか、お兄ちゃんになごみちゃんと別れてもらい、新しく“本当に好きな人”を見つけてもらうか…。
「もしかしたらこれは私のエゴで、お兄ちゃんにとっては有難迷惑なのかもしれない…。でも、それでも!私はお兄ちゃんのために何かしたいの!!」
私の自己満足なのかもしれない…。それは自分でもわかってる…。それでも、私の気持ちは変わらない!
「昔のなごみちゃんに戻ってもらうか、無理なら別れてもらう!解決するまで、私はお兄ちゃんとは一切喋らない!!――私の気持ちは変わらないから!!」
私は改めてミナちゃんに向かって宣言した。
すると…
「そっか。しーちゃんがそこまで言うなら、私はもう何も言わない」
ミナちゃんはそう言ってほほ笑んだ。
「何か私にできることとか、相談したいことあったら言ってね?私はしーちゃんの味方だから」
「うん!ありがとう!」
そして、笑いあった私達は再び歩き出そうと、前を向いた。
が、しかし…
「ねぇねぇ、君たち二人とも何話してんの?俺たちも混ぜてよー」
「この二人、結構可愛くね?」
振り向くとそこには見知らぬ男二人組が…。
「…なんですか?私達急いでるんですけど」
「まぁまぁ、固いこと言わずにさー俺たちと遊ぼうぜ?」
「きゃっ!」
「そうだ!カラオケ行こうぜ!カラオケ!俺たちが奢るからさ!!」
「ちょ、ちょっと!やめてください!!」
チャラい男達に肩を抱き寄せられ、強引に連れて行かれそうになる私達…。
怖い…!!誰か…誰か、助けて!!…お兄ちゃん!!
と、心の中で叫んだその時。
「あなた達、待ちなさい!!」
振り返ると、そこにはよく知る人物が肩で息をしながら立っていた。
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