ACT(アクト)~俺の婚約者はSな毒舌キャラを演じてる…~

うみたけ

彼女を持つにはカネも必要なんですね…

波志江なごみ波乱の転入から数日が経ち、彼女が同じクラスにいることが日常となりつつある今日この頃。

「陽平!今週末の映画の約束、忘れてないでしょうね?」
「大丈夫だって。ちゃんと覚えてるよ」
「陽くん!来週の私との約束は?」
「覚えてるよ。来週の日曜日に映画だろ?」
「先輩先輩!勿論、明日の部活終わりにクレープを奢ってくれるって約束の方も大丈夫ですよね?」
「うん、それは完全に初耳だな…」
「えー!?いいじゃないですか!私だけのけ者なんてズルいですよー!!」
「いや、そう言われても俺にも金銭的な問題があってだな…」
「そうですか。お金が無いのなら仕方ないですね…。まさか先輩にとって私が数百円程の価値もないとは思いませんでした…」
「…わかったよ。明日部活終わりにな」
「やったぁ!!さすが先輩!!私先輩のそういうところ好きですよ?」
「それはありがとう。できればお金を持っていない先輩も好きになってくれると嬉しいんだけどな…」

 今日も今日とて、すぐ前の席は騒がしく、美少女達によるハーレム王の休日スケジュール合わせが実施されていた。
 陽平、ご愁傷様。やはりハーレム王の休日に自由時間なんて無いんだな…。
 自分の意志とは関係なく週末の予定を埋められていく親友の背中に同情していると、

「奏太…すまん、親友のお前に折り入って頼みが――」
「言っとくが金なら貸さんぞ」
「即答!?せめて最後まで聞けよ!!」

 悪いな、陽平。最後まで聞いたところで俺の答えは変わらんよ。なぜなら俺も絶賛金欠中だからな!

「クソ…仕方ない!こうなりゃあ日雇いでバイトだ!!――よし、俺、先生にバイトの許可もらってくる!!」
「え!?ちょっ、先輩!?」
「ちょっと!陽平!?どこ行くの!?」
「よ、陽君!?」

 …さすが真のモテ男は発想も行動力も桁違いだな。
俺はガタッと勢いよく立ちあがり、教室を飛び出していった陽平の背中を素直に関心しながら見送った。
 が、しかし…

「奏太君、私も負けていられないわ」

俺は、最近自分も同情する側からされる側へとポジションチェンジしていたことをすっかり失念していた。

「言っておくが俺も陽平に負けず劣らずの金欠で――」
「今週末のデートは映画とクレープ、それから豪華なディナーを所望するわ。――勿論、全部奏太君の奢りで」
「…あの、俺の話聞いてた?っていうか、豪華なディナーとか普通に無理だから。一般的な男子高校生が奢れるのなんてマッ●とかサ●ゼくらいだから」

 むしろ●ックやサイ●すら奢れる余裕のある奴なんて少数だ。
 というより、なぜ女同士というのはこうも張り合おうとするのだろう。
彼女達はご存じだろうか。バイトをしていない男子高校生の収入などたかが知れているということを。

「まったく甲斐性無しを好きになっちゃうと苦労するわ」

 いや、苦労してるのは高校生にして社会人並の甲斐性を求められている俺の方だと思うんですが…。

「仕方ないわね。それじゃあ別のプランを考えましょう。――どこか希望はある?」
「う~ん…そう言われてもなぁ…」

 顎に手をやり思考を巡らす俺。
 今現在の俺の所持金は2千円強。これで今月残り1週間を過ごさなければいけないと思うと、正直映画やらカラオケやらボーリングといった高校生における人気デートスポットは難しい。さすがに彼女に奢ってもらうというのは男として残念過ぎるし…。金がかからず楽しめるデートスポットとなると…

「俺の家とか?」
「…え?」

 なごみは俺の回答を聞いてフリーズ。
 え?俺、何かおかしなこと言った?
 最悪間が持たなくなっても家ならDVDやテレビを観たり、ゲームやったりして時間はつぶせるんだぞ?なごみの家はまだ引っ越したばっかりで悪いし…まぁ、互いの家が無難だろ?――と思ったのだが…

「あ、あの…そ、奏太君?さ、さすがにそういうのはまだ早いというか…」

 俺の意見を聞いた途端、なごみは急に中学生時代に戻ったかのように顔を赤らめ小声でモジモジしはじめ…。
 さらに周りからは男子からの舌打ちやら女子からの『結局男ってそういうことしか考えてないよね~』とか『っていうか普通こんな人前でそういうこと言う?』『最低~』といった心ない言葉と冷ややかな視線が降り注ぐ。

「べ、別に嫌なわけじゃないんだよ…?でも、その、心の準備というか…」

 そして目の前では先程まで高圧的な言動で毒を吐きまくっていた少女が別人のように頬を染め、目を泳がせながら、あたふたあたふた。

「いやいや、何が――」

 そして、言いかけた瞬間、俺は自分が置かれた状況を理解した。

「た、確かに奏太君ももう高校生でそういうことに興味あることは分かってるし――」
「いやいや!別に“そういう”目的で自分の家指定したわけじゃないから!!」

 絶対に下心満載で家に連れ込もうとしてると思われてんじゃん!!
 自分の全身から嫌な汗が湧き出すのが分かった。

「ほ、ほら!家ならゲームとかDVDとかいろいろあるし!なごみの家は引っ越したばっかりだから迷惑だろ!?だから――」

 懸命に弁解するが、一度ついたイメージを払拭するのは難しく…

「完全に家に連れ込む口実だよね…」
「っていうか言い訳が必死過ぎ…」
「クソっ!藤岡め…!!」

 引き続き冷ややかな目を向ける女子共と嫉妬心からか殺意にも似た嫉妬を向けてくる男共に抗議をすべく口を開くが、

「いや、だからそういうのじゃ――」
「わかった。奏太君…」

 その言葉はすっかりこの学校でのキャラを忘れ、完全に中学時代に戻った幼馴染によって遮られた。

「私、奏太君の婚約者なんだもんね…。大丈夫!“そういう”覚悟はできてるから!!」

 顔を赤らめながらも先程までのオドオドした様子は一切なく、しっかりこちらを向いて意気込むなごみ。しかし…

「いや、だから――」
「だ、大丈夫!私、明日までにちゃんと勉強しておくから!」
「いやいや、いいから!ここでそんな学習意欲発揮しなくていいから!!」
「じゃ、じゃあ、今日は先に帰るね!」

 ガチガチに緊張し、完全に昔の喋り方に戻っていることにも気付かない彼女に俺の言葉を聞く余裕などあるはずもなく…。
なごみは一方的に言うことを言い終えると、鞄を持ち、一人走って教室を飛び出していってしまった。

「…いや、まだ6時間目残ってるんだが」

 この後、冷ややかな目は激減したものの、クラス中から一斉に好奇と嫉妬を向けられることになったのは言うまでもない。
 そして、そんな状況に俺は…

「クソ―!こうなりゃ本当にヤッてやらぁ!!」

 どうせここから何を言っても今後俺は“そういう目”で周りから見られることだろう。
 それならいっそ、男の欲求をさらけ出してやる!!藤岡奏太、16歳…これを機に大人の階段を上ってやるぜ!!――と、最早ヤケクソで一人決意を固めた。
 が、しかし…結局この週末、その決意は不発に終わった。
なぜならその日、なごみが俺の家を訪れることはなかったのだから…。

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