ACT(アクト)~俺の婚約者はSな毒舌キャラを演じてる…~
やはり彼女の想いは本物のようで…
「はい、あ~ん」
「……おい、これはなんだ?」
時間は経過し、現在は昼休み。他には誰もいないこの屋上で、俺となごみは二人で仲良く弁当を食べているのだが…
「何って、“あ~ん”に決まっているでしょ?このくらい婚約者なら当然だと思うけど?」
「OK、その行為自体は分かってる」
人前ならともかく、今は他に誰もいない状況。恥ずかしがる必要なんてないし、むしろ健全なる男子高校生ならば“可愛い彼女に手作り弁当をあ~んしてもらう”なんて夢のようなシチュエーションだろう。
だがしかし、俺は知っている…。
「お前、さっきから自分の嫌いな物押し付けてるだけだろ!」
コイツがさっきから自分の苦手なトマトばかりを俺に食べさせているということを。
「……気のせいよ」
完全に目が泳いでいらっしゃる。喋り方は変わっても、この動揺がすぐに顔に出るところは変わっていないらしい。
「おい、今の間はなんだ?」
「別にいいでしょ?嫌いなものが一つくらいあった方が可愛いと思わない?」
「コイツ、開き直りやがった!」
「そもそもこんな可愛い女の子に食べさせてもらって文句をつけるなんて贅沢よ。ありがたく食べなさい」
そう言って、再度俺の方にミニトマトを押し付けている。だが…
「いや、俺もトマト嫌いなんだけど…」
嫌いなのは俺も同じ。なごみの腕をガッチリ掴み、必死の抵抗を見せる。
「好き嫌いしていては体に良くないわよ」
「それは自分自身に言い聞かせてるんですよね?そうですよね?」
「知ってる?緑黄色野菜は長生きするためには必須なのよ?」
「知ってるよ!それはお前も同じだろ?ちょっとリコピン接種した方がいいんじゃね?」
「笑止。私にはトマトもリコピンも不要よ。――私には奏太君さえいれば、それでいいの(ハート)」
「おい、満面の笑顔でさらに力加えてんじゃねぇ!」
と、絶対に負けられない戦いが白熱する中、
ガチャ
「お~さすが婚約者。二人とも仲良いな」
振り返ると、そこには学年屈指のモテ男・太田陽平が扉を開けて入ってきた。
「ええ。見ての通り夫婦仲は良好よ」
「どこが――ごわっ!」
一瞬の油断が命取り。目の前の婚約者様は、ほんの一瞬力を緩めたのを見逃すことなく、一気にトマトを俺の口の中に押し込んできた。
「水!水!」
「喜んでくれてうれしいわ」
必死に水を探しあて、一気に口の中に入ったトマトを流し込む俺…。これをどう解釈すれば喜んでいるように見えるのだろうか…。
「ははっ、楽しそうだな」
「ゴホッ、ゴホッ…どこがだよ!――っていうか、今日は随分早かったな」
俺はまだ口の中に残る独特の酸味に涙目になりながら、いつもよりも15分くらい早く到着した友に話を振った。
普段のコイツなら今頃自らのハーレムに引っ張りまわされてる時間。こんなに早く彼女達がこの男を解放するとは思えないんだが…。
「ああ。それなら波志江さんのおかげかな」
「私?」
何の前触れもなく突然名を出され、首をかしげるなごみ。
「うちの教室の前に“可愛い転校生”見たさに人だかりができててさ。今日はそれを利用させてもらったんだよ」
そう言って、イケメンは格好良くウインクしながら親指を立ててきた。
まぁつまりは、俺の目の前にいるドSな婚約者様のおかげでできた人ごみに紛れ、こっそり教室を抜け出してきた、ということらしい。
「ハーレム王、お前も苦労してるんだな…」
「いや、だから別にハーレム王じゃないんだが…」
そうまでしないと落ち着いて昼飯も食えないなんて…ハーレムの主も意外と大変なんだな…
と、モテる男もつらいんだなぁと同情していると、
「それで、奏太君。この人は誰なの?」
そりゃあそうか。ここには昔の中学の連中もあんまりいないし、なごみのことを知っているのはごく少数。勿論陽平がコイツのことを知ってるわけないよな。
「そういえば自己紹介まだだったな」
陽平にアイコンタクトで自己紹介を促した。
「俺は大田陽平。同じクラスで君の旦那さんとは仲良くさせてもらってる」
「おい、まだ旦那じゃねぇから」
「いいだろ?どうせ時間の問題なんだし」
いつもと同じようにイケメンスマイルを携えながら俺と和気藹藹とふざけるハーレム王だったが…
「なるほど。奏太君の友達だったのね。てっきり多少顔がいいだけで勘違いして調子に乗ってるチャラ男とばかり思ってたわ。ごめんなさい」
「あ、ああ…大丈夫。よろしく…」
まさか初対面で遠慮なく毒を吐かれるとは思わなかったらしく、その笑顔は引きつっていた。
「まぁ、この通り誰に対しても遠慮なく毒を吐くみたいだから常に心の準備は怠らない方がいいぞ?」
「失礼ね。誰に対しても変わらぬ態度で接することができて、物事をハッキリ言えると言い換えてもらっていいかしら」
「なるほど。ものは言いようだはぁっ!」
”口は災いの素”…俺はかなり強い力でつねられた二の腕を押さえながら、一つ教訓を学んだ。
「まぁ、でも一部の人からはこういうハッキリ物が言えるところも良いって言われてるらしいし、波志江さん結構人気あるらしいぞ?」
そんな悶絶中の友達を放置し、持ってきた菓子パンを取り出す陽平。
ふっ…結局友情なんてこんなもんさ…。
「へぇ、そうなの?まぁ、好いてくれる分には構わないわ。残念ながら私が好きになることはありえないけど」
「凄まじい程の上から目線だな…」
「しょうがないでしょ?奏太君より魅力的な人なんて見つかりっこないんだから」
「お、おう…」
…不意を突かれ、自分でも顔にどんどん血液が集まってくるのが良くわかった。
あの…なごみさん、急にツンデレのデレの部分披露するのやめてくれません…?実は俺も割と思ってることが顔に出やすいタイプなのはあなたもご存じでしょう?
「あの…惚気てるところ悪いんだけど」
「惚気てねぇから!断じて惚気てませんから!!」
「そんな必死にならなくても…」
そんな俺に苦笑いを残しつつ、続きを話す陽平。
「ただ、やっぱり波志江さんみたいな性格は敵を作ることも多いからな。もう少しオブラートに包んでもいいんじゃないか?」
遠回しに自分も協力するから喧嘩腰の物言いを控えるように、と注意を促す陽平。
このイケメンも今朝のなごみと新町エリカとの一件を見て注意しておかないと、と思ったのだろう。ナイスアドバイスだ!もっと言ってやってくれ!
実際に口には出せないが、心の中で我が親友を応援する俺。しかし…
「俺も奏太も波志江さんの味方するし、今朝みたいな喧嘩腰にならなくても――」
「味方してくれる必要はないわ」
俺の時同様、手助けは一切不要と一刀両断。
「奏太君にも言ったけど、あなたも私が誰かに絡まれても手助けする必要はないわ」
「いや、でも――」
「大丈夫よ。自分の事は自分で解決できるから」
そして、やはりそこには強く頑なな意思があり、その後も俺や陽平がなんとか説得を試みるが効果はなし。
「それに――もう昔の私じゃないんだから」
「は?どういう意味――」
「なんでもないわ。忘れて」
どうやらそれなりの事情があるらしい。
しかし、彼女の口からその事情が語られることはなく、何やら意味ありげなセリフを残してこの話題は再び強制終了となった。
「……おい、これはなんだ?」
時間は経過し、現在は昼休み。他には誰もいないこの屋上で、俺となごみは二人で仲良く弁当を食べているのだが…
「何って、“あ~ん”に決まっているでしょ?このくらい婚約者なら当然だと思うけど?」
「OK、その行為自体は分かってる」
人前ならともかく、今は他に誰もいない状況。恥ずかしがる必要なんてないし、むしろ健全なる男子高校生ならば“可愛い彼女に手作り弁当をあ~んしてもらう”なんて夢のようなシチュエーションだろう。
だがしかし、俺は知っている…。
「お前、さっきから自分の嫌いな物押し付けてるだけだろ!」
コイツがさっきから自分の苦手なトマトばかりを俺に食べさせているということを。
「……気のせいよ」
完全に目が泳いでいらっしゃる。喋り方は変わっても、この動揺がすぐに顔に出るところは変わっていないらしい。
「おい、今の間はなんだ?」
「別にいいでしょ?嫌いなものが一つくらいあった方が可愛いと思わない?」
「コイツ、開き直りやがった!」
「そもそもこんな可愛い女の子に食べさせてもらって文句をつけるなんて贅沢よ。ありがたく食べなさい」
そう言って、再度俺の方にミニトマトを押し付けている。だが…
「いや、俺もトマト嫌いなんだけど…」
嫌いなのは俺も同じ。なごみの腕をガッチリ掴み、必死の抵抗を見せる。
「好き嫌いしていては体に良くないわよ」
「それは自分自身に言い聞かせてるんですよね?そうですよね?」
「知ってる?緑黄色野菜は長生きするためには必須なのよ?」
「知ってるよ!それはお前も同じだろ?ちょっとリコピン接種した方がいいんじゃね?」
「笑止。私にはトマトもリコピンも不要よ。――私には奏太君さえいれば、それでいいの(ハート)」
「おい、満面の笑顔でさらに力加えてんじゃねぇ!」
と、絶対に負けられない戦いが白熱する中、
ガチャ
「お~さすが婚約者。二人とも仲良いな」
振り返ると、そこには学年屈指のモテ男・太田陽平が扉を開けて入ってきた。
「ええ。見ての通り夫婦仲は良好よ」
「どこが――ごわっ!」
一瞬の油断が命取り。目の前の婚約者様は、ほんの一瞬力を緩めたのを見逃すことなく、一気にトマトを俺の口の中に押し込んできた。
「水!水!」
「喜んでくれてうれしいわ」
必死に水を探しあて、一気に口の中に入ったトマトを流し込む俺…。これをどう解釈すれば喜んでいるように見えるのだろうか…。
「ははっ、楽しそうだな」
「ゴホッ、ゴホッ…どこがだよ!――っていうか、今日は随分早かったな」
俺はまだ口の中に残る独特の酸味に涙目になりながら、いつもよりも15分くらい早く到着した友に話を振った。
普段のコイツなら今頃自らのハーレムに引っ張りまわされてる時間。こんなに早く彼女達がこの男を解放するとは思えないんだが…。
「ああ。それなら波志江さんのおかげかな」
「私?」
何の前触れもなく突然名を出され、首をかしげるなごみ。
「うちの教室の前に“可愛い転校生”見たさに人だかりができててさ。今日はそれを利用させてもらったんだよ」
そう言って、イケメンは格好良くウインクしながら親指を立ててきた。
まぁつまりは、俺の目の前にいるドSな婚約者様のおかげでできた人ごみに紛れ、こっそり教室を抜け出してきた、ということらしい。
「ハーレム王、お前も苦労してるんだな…」
「いや、だから別にハーレム王じゃないんだが…」
そうまでしないと落ち着いて昼飯も食えないなんて…ハーレムの主も意外と大変なんだな…
と、モテる男もつらいんだなぁと同情していると、
「それで、奏太君。この人は誰なの?」
そりゃあそうか。ここには昔の中学の連中もあんまりいないし、なごみのことを知っているのはごく少数。勿論陽平がコイツのことを知ってるわけないよな。
「そういえば自己紹介まだだったな」
陽平にアイコンタクトで自己紹介を促した。
「俺は大田陽平。同じクラスで君の旦那さんとは仲良くさせてもらってる」
「おい、まだ旦那じゃねぇから」
「いいだろ?どうせ時間の問題なんだし」
いつもと同じようにイケメンスマイルを携えながら俺と和気藹藹とふざけるハーレム王だったが…
「なるほど。奏太君の友達だったのね。てっきり多少顔がいいだけで勘違いして調子に乗ってるチャラ男とばかり思ってたわ。ごめんなさい」
「あ、ああ…大丈夫。よろしく…」
まさか初対面で遠慮なく毒を吐かれるとは思わなかったらしく、その笑顔は引きつっていた。
「まぁ、この通り誰に対しても遠慮なく毒を吐くみたいだから常に心の準備は怠らない方がいいぞ?」
「失礼ね。誰に対しても変わらぬ態度で接することができて、物事をハッキリ言えると言い換えてもらっていいかしら」
「なるほど。ものは言いようだはぁっ!」
”口は災いの素”…俺はかなり強い力でつねられた二の腕を押さえながら、一つ教訓を学んだ。
「まぁ、でも一部の人からはこういうハッキリ物が言えるところも良いって言われてるらしいし、波志江さん結構人気あるらしいぞ?」
そんな悶絶中の友達を放置し、持ってきた菓子パンを取り出す陽平。
ふっ…結局友情なんてこんなもんさ…。
「へぇ、そうなの?まぁ、好いてくれる分には構わないわ。残念ながら私が好きになることはありえないけど」
「凄まじい程の上から目線だな…」
「しょうがないでしょ?奏太君より魅力的な人なんて見つかりっこないんだから」
「お、おう…」
…不意を突かれ、自分でも顔にどんどん血液が集まってくるのが良くわかった。
あの…なごみさん、急にツンデレのデレの部分披露するのやめてくれません…?実は俺も割と思ってることが顔に出やすいタイプなのはあなたもご存じでしょう?
「あの…惚気てるところ悪いんだけど」
「惚気てねぇから!断じて惚気てませんから!!」
「そんな必死にならなくても…」
そんな俺に苦笑いを残しつつ、続きを話す陽平。
「ただ、やっぱり波志江さんみたいな性格は敵を作ることも多いからな。もう少しオブラートに包んでもいいんじゃないか?」
遠回しに自分も協力するから喧嘩腰の物言いを控えるように、と注意を促す陽平。
このイケメンも今朝のなごみと新町エリカとの一件を見て注意しておかないと、と思ったのだろう。ナイスアドバイスだ!もっと言ってやってくれ!
実際に口には出せないが、心の中で我が親友を応援する俺。しかし…
「俺も奏太も波志江さんの味方するし、今朝みたいな喧嘩腰にならなくても――」
「味方してくれる必要はないわ」
俺の時同様、手助けは一切不要と一刀両断。
「奏太君にも言ったけど、あなたも私が誰かに絡まれても手助けする必要はないわ」
「いや、でも――」
「大丈夫よ。自分の事は自分で解決できるから」
そして、やはりそこには強く頑なな意思があり、その後も俺や陽平がなんとか説得を試みるが効果はなし。
「それに――もう昔の私じゃないんだから」
「は?どういう意味――」
「なんでもないわ。忘れて」
どうやらそれなりの事情があるらしい。
しかし、彼女の口からその事情が語られることはなく、何やら意味ありげなセリフを残してこの話題は再び強制終了となった。
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