からっぽの金魚鉢で息をする

mi


私は、痛いのが嫌い。


真っ直ぐに人に気持ちを伝えることは
できるし、必要とあればはっきり
断れる。



でも、痛いのが、嫌い。



注射は、平気。


ちゃんと、針がいつ刺さるのかを
見ていられればそれでいい。

自分がいつ苦痛を味わうのか
分かっていればそれでいい。


分からないことが、一番痛くて、怖い。



「だいちゃん。
いつからそんな風に言うようになったの?」


「じゃあ、俺は今までどんな風に言ってた?
なんかさあ、、、こう、、。
分かって欲しいんだよね。」


だいちゃんは
煩わしそうに眉間に皺を寄せ、いつもの癖で前髪をぐしゃぐしゃと掻いた。


「わかったよ。わかった。」



それが、だいちゃんと私を繋ぐ
魔法の言葉だ。



高校生。18歳。

あの頃、私とだいちゃんは、
出会った。



私はバスケ部のマネージャーで
だいちゃんは、良くも悪くも
そこそこの技術の
バスケ部部員。



私は友だちを通してだいちゃんと
仲良くなり、夏祭りに一緒に行ったのがきっかけで、いつしか付き合うようになった。




連絡を取り合うのも楽しかったし
会う度に違う一面が見れた。



だいちゃんは、さりげない
優しさを見せてくれた。



ーーーーーーーーーーー


茉里と会うのが久しぶりで、
浮き足立つというよりは
何から話そうかと、
まるで久しぶりに親戚に会うような
心持ちで、頭の中で順序立てて考えていた。




「あれー?髪伸びたね。化粧も変えた?
わかんなかった。」


駅前の時計台の前で背後から
話しかけて来た、綺麗に顔の整った子。

茉里だ。


「久しぶり。」


「彼氏、続いてるんだっけ?」

「あ、うん。だいちゃんね。元気だよ。」

「そっかあ。じゃあ、5年目?いや、もううちらも働いて3年?そしたら、、」

「高3から付き合ってるんだよ?もう7年です。」

「えー!結婚できるじゃん。」

「まあね。」

「しないの?」

「まあ、、お金無いし。」

「でも、そんなに長く続くってすごいよねえ。
 相当、お似合いカップルだ。」

「価値観はバッチリかも。」



こんな会話の端々に私は、くだらない愛想笑いともつかないそれでも
一番私らしい微笑みを茉里に送る。



茉里は、その大きな目で私の顔を食い入るように真っ直ぐ見つめる。


どうしてそんなに、人のことをまっすぐに見られるんだろう。


簡単にお茶をして、17時頃に、茉里と分かれた。


「じゃあね、またこっち帰ってくるとき連絡するから。」

先に改札を抜ける茉里が振り向いて手を振った。

「うん。待ってる。」




時計台に掛かるマリア様を象徴したステンドグラスを見つめた。


携帯画面が光る。
だいちゃんからだ。

ーーーーーーーーーーーーーー
差出人:大山 悠
宛先:本田 美咲
件名:はるちゃん、よろしくお願いします。

東口 Aー287
 58749

ーーーーーーーーーーーーーーー


私は、彼のことを、だいちゃん と呼ぶ。

彼は、私のことを、はるちゃん と呼ぶ。


私たちは、直接、会ったことなど一度もない。


私たちを繋ぐのは、駅前のコインロッカーだけ。


今日も、ロッカーを探し当てる。


「あった。」


扉の向こうには、黒く重たいカバンが一つ。
その横には、厚さ3センチほどの茶封筒。

私は、その茶封筒をトレンチコートのポケットへ忍ばせる。




この黒く重たいカバンを私は、遠い遠い知らない街の誰もいない場所へ葬る。



これだけが、私と大山 悠との繋がり。



マリア様、正しさは誰の上に成り立つのでしょうか。

嘘は、どこからが嘘ですか。

私が作り出した物語は現実に起きなければ全て幻ですか。

私だけじゃない。
誰もがみんな、現実と夢の狭間で戦い苦しみ繕い貶しあって生きているんでしょう?


答えなど、どこにもない。

遠い空も私の見上げる空も、灰色だ。




























「からっぽの金魚鉢で息をする」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「詩」の人気作品

コメント

コメントを書く