からっぽの金魚鉢で息をする

mi


ハレの日は雨の日のためにあって

雨の日はハレの日のためにある。


傘をさして出掛けたのに、
晴れると突然に傘のことなんて
忘れてしまって、
助けてもらったことなんか
あっという間に忘れてしまった。


昔からそうなのだ。


100のことを10で割り切ろうとしてどんなに時間が経っても無理だったのに


今はもうあなたのことを
様々な
境界で見ることができる。



一番に大事よ。
誰にも言えない話があるの。


それを打ち明けられる時は
まるで、流れ星を掴んだかのように
奇跡を感じたし



目も合わせてもらえない日は
あなたの笑顔を思い浮かべていた。



良いことも悪いことも誰かの記憶の中で交錯して、まるで映画の中のように作りあげられていると気づいた時から、
僕は、あなたの目を見なくなった。



現実よりも大事なものがある。


目に見えるものなんて怖くない。


耳を塞いだ。

目を閉じた。



いま、重さを感じている。


大人になることが子どもを超えるわけじゃないことをあなたから教えてもらった。


お酒の缶が空くことで僕の傷が増えても

そんなことよりも、
あなたの重さを支える細いヒール
がすり減って、
それでも履き続けないと歩けないことが
気掛かりだった。


大人は、裸足じゃ歩けない。



必ず、身に纏うことでしか
平然を装えない。



僕の目線がたった80センチのあの垣根を超えなくても、その先の世界がどんなものかは知っていた。



いま、重さを感じている。



遺したものは残された者にとって
何も遺していかない。


余力を使い切れることなど無いから
僕は、この降りしきる雨の中、あなたを
側に置いておくことにした。




忘れていくことを覚えたかのように
あなたの側でずっと僕自身も
彷徨うつもりだった。




ある日、訪れた。

目を伏せず、僕ははっきりと見た。


薄汚れたレースカーテンの市松模様の
向こうから、僕だけに差し込むような光を。

不調和な窓のサッシとガラスとの間から外気が入り乱れ、隙間風が不安を煽る世界に
カーテンが踊り、
輝く光が揺れていた。

情景をあの時ばかりは美しいと思った。


目を伏せる必要などなかった。


選ばれたんだ。


ようやく、僕のハレの日をこの手で
掴む時が来た。



いま、あなたの重さを背中に感じている。


砂利道を踏みしめる。


あなたの肉体の重さだけをしっかりと一歩に感じる。


向かう時は、いつも一緒だ。


生(セイ)が心地良く、
死が畏れられるものだと
決めたのは、生を受けた喜びを忘れられないからか。


僕は、覚えている。


あなたの中で育ったことだけが
全ての生(セイ)であったと。


僕があなたを負う今日も纏うものは
決まって、この、黄色い長靴だけだ。















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