からっぽの金魚鉢で息をする

mi

一つ、またひとつと灯りが灯って
街が明るくなっていく、夕刻5時。



小学校のチャイムが鳴り、
下校時間ですと、告げる。


勝てない。

時間にも、ルールにも、あの子にも。


もう少し一緒に居たいからと言って
側に居られるならその子が勝ち。

わたしは、貴方を後ろから見ていることが大好きだった。


後ろ髪が無造作にはねるのも
笑い声が反響して返ってきた声も
軽やかに踏むかかとも
知ってる。


その一つひとつの理由は、
何も知らないけれど、後ろから見ることが
できるのは、貴方から視線を向けられない
私の特権だった。


今日も、貴方と女の子の友だち数人の声を聞きながら、後ろから影を踏む。


ふと、友だちの1人が立ち止まり、

やだ、聞こえちゃったんじゃない?

と。

私を指している。


本当は耳を澄ましても何も聞こえない。
聞きたくない。
貴方以外の声など。


咄嗟に首を横に振ると、

秘密の話してたんだよね

いつも、聴こえるあのリズムの良い声が
私の耳に私の隣から聴こえる。


慣れなくて不意に足を止める。


ちょっと話そうよ。

どこまで聞いてたの。

もしかして。

さざ波や葉の擦れ合う音のように
高い声がささやき合う。


座って話そう。

また心地の良い声。



夕刻、6時。

石垣に立てかけられた私の
ランドセルは、いつもよりも
恥ずかしそうに、嬉しそうに、
それでも誰の色よりも強く、
夕陽に照らされた赤だった。




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