久遠
第25話 純血の吸血鬼
その数十分後、なぜか直江はシルヴィアとともにラーメン屋を訪れていた。
「はい綺麗なお嬢さんに特盛ラーメン野菜マシマシ油マシマシ一丁!」
カウンターの前からはちまきを巻いた店員がゴトリと重たいラーメンを置いた。
野菜やチャーシューが山のように盛られ、その周りには油やニンニクがこれでもか!というほどにぶちまけられている。
その鼻をつく臭いにうっと顔をしかめた直江だが、シルヴィアは目を輝かせて次の瞬間麺を川の濁流のようにすすり始めた。
どうしてこんな場所に純血の吸血鬼と赴いているのか。
直江は数刻前のバンピールの顔を思い出す。
「いい?シルヴィア様は気分転換に美味しいものが食べたいと言っているから絶対に失礼のないように街を案内するのよ。もしシルヴィア様に何かあったら……あんたの大事なところをひっこ抜く」
男の大事なところがかかっているのだ。
全力で彼女に気をかけていなくてはならない。
衝撃的なものを食べたいという彼女の無茶な要望が出てきたときには焦ったがどうやら今のところ彼女は非常に満足しているようだ。
「こんなヘビーなものを食べたものは始めてよ!あなた最高ね!」
食事の途中ではあるがシルヴィアが抱きついてきたので直江は顔を赤らめながらも内心めちゃくちゃ喜んだ。
他の客がチッと舌打ちして、店主が怒りにまかせて麺の湯きりに全力を注いでいたが直江は気づいていない。
シルヴィアはラーメンを汁まで残さず食べたが、直江はあまりの量に途中でギブアップ。店長に
「お兄さん、完食できないなんて男じゃないね。ちんこついてないよ」と言われてしょげた。
「さて。二軒目に行きましょ」
…………え?
まだ食べるのかと驚いた直江だが、一応街のどこにどんなお店があるのかという情報はハンターの仕事をしている中で頭に入っていた。次はカイザーオムライスというこれまた特大のオムライスを彼女は食べる。
しかしまだまだ彼女の食欲は尽きない。
三軒目、四軒目と次々に踏破し、ついに10軒目で直江のレパートリーも尽きた。
「ま、腹八分目ってところね。最近ちょっと太って来た気がするし、これくらいにしましょうか」
そう言ってシルヴィアは街を闊歩しながらハンバーガーを頬張る。
吸血鬼になれば胃の消化力も化け物級になるのだろうか、と直江は恐れ入った。
ふと彼は背後を振り返る。
二人とは一定の距離を保って黒いローブをまとったハンター、麻上鳴華がついてきている。
長い髪に特徴的な丸い眼鏡。その目は虚ろで感情がこもっていない。
……どうして彼女は吸血鬼の味方に……。
「彼女は自分の意志で動いていないのよ」
直江の顔を見て考えていることが読めたのだろう、シルヴィアはそう答えた。
「私は血を吸った相手を操ることができるの。どんな相手でも関係ない。いくら剣術が強くても、いくら身体能力が高くてもね」
シルヴィアがペロリと口元を舌でぬぐう。
人を意のままに操ることができる能力か。
バンピールも簡単な暗示程度ならかけることができるが、こうやって手駒として永久的に従わせることはできないはずだ。
シルヴィアはハンターの中でも一流といわれるあの麻上を手に入れている。彼女にもう怖いものなどないだろう。
もし自分がそのような能力に目覚めればどう使うだろうか。
どんな願いも人に強要することができるのだ。
ふと祭の寝間着姿を直江は思い浮かべる(見たことないけど)。そこからいやらしい妄想にシフトしたので途中で考えるのをやめた
「ねえ豚さん」
ちゃんと名前を呼んでほしかったが反感を買えばどうなるかわからないので我慢する。
「あなたはどうして吸血鬼になりたいの?」
「僕は特別な存在になりたいんです」
「特別?それは偉くなりたいってことかしら」
「偉い………そうじゃなくて、僕は時間とか運命とか、絶対に変えられないものっていうのが憎いんです。吸血鬼になれば老いからは解放される。たぶんそういう理由です。だからきっと憧れるんです。吸血鬼に」
「年をとるってことはそんなに嫌なことなの?私もう何十年もこの姿のままだからわからないわ」
彼女は自らの肌を見つめていた。
吸血鬼の父と吸血鬼の母から生まれた彼女は物心ついた時から吸血鬼としての特異な力がその体に宿っている。
傷はすぐに治り、肌のツヤが落ちることはない。これからも永遠に。
「でも昔、あなたと同じことを言っていたハンターを知っているわ……特別な存在にならなくちゃいけない……だったかしら」
シルヴィアが思い出したのはもう何年も前の記憶。
その女は一家の宿敵だった。
「はい綺麗なお嬢さんに特盛ラーメン野菜マシマシ油マシマシ一丁!」
カウンターの前からはちまきを巻いた店員がゴトリと重たいラーメンを置いた。
野菜やチャーシューが山のように盛られ、その周りには油やニンニクがこれでもか!というほどにぶちまけられている。
その鼻をつく臭いにうっと顔をしかめた直江だが、シルヴィアは目を輝かせて次の瞬間麺を川の濁流のようにすすり始めた。
どうしてこんな場所に純血の吸血鬼と赴いているのか。
直江は数刻前のバンピールの顔を思い出す。
「いい?シルヴィア様は気分転換に美味しいものが食べたいと言っているから絶対に失礼のないように街を案内するのよ。もしシルヴィア様に何かあったら……あんたの大事なところをひっこ抜く」
男の大事なところがかかっているのだ。
全力で彼女に気をかけていなくてはならない。
衝撃的なものを食べたいという彼女の無茶な要望が出てきたときには焦ったがどうやら今のところ彼女は非常に満足しているようだ。
「こんなヘビーなものを食べたものは始めてよ!あなた最高ね!」
食事の途中ではあるがシルヴィアが抱きついてきたので直江は顔を赤らめながらも内心めちゃくちゃ喜んだ。
他の客がチッと舌打ちして、店主が怒りにまかせて麺の湯きりに全力を注いでいたが直江は気づいていない。
シルヴィアはラーメンを汁まで残さず食べたが、直江はあまりの量に途中でギブアップ。店長に
「お兄さん、完食できないなんて男じゃないね。ちんこついてないよ」と言われてしょげた。
「さて。二軒目に行きましょ」
…………え?
まだ食べるのかと驚いた直江だが、一応街のどこにどんなお店があるのかという情報はハンターの仕事をしている中で頭に入っていた。次はカイザーオムライスというこれまた特大のオムライスを彼女は食べる。
しかしまだまだ彼女の食欲は尽きない。
三軒目、四軒目と次々に踏破し、ついに10軒目で直江のレパートリーも尽きた。
「ま、腹八分目ってところね。最近ちょっと太って来た気がするし、これくらいにしましょうか」
そう言ってシルヴィアは街を闊歩しながらハンバーガーを頬張る。
吸血鬼になれば胃の消化力も化け物級になるのだろうか、と直江は恐れ入った。
ふと彼は背後を振り返る。
二人とは一定の距離を保って黒いローブをまとったハンター、麻上鳴華がついてきている。
長い髪に特徴的な丸い眼鏡。その目は虚ろで感情がこもっていない。
……どうして彼女は吸血鬼の味方に……。
「彼女は自分の意志で動いていないのよ」
直江の顔を見て考えていることが読めたのだろう、シルヴィアはそう答えた。
「私は血を吸った相手を操ることができるの。どんな相手でも関係ない。いくら剣術が強くても、いくら身体能力が高くてもね」
シルヴィアがペロリと口元を舌でぬぐう。
人を意のままに操ることができる能力か。
バンピールも簡単な暗示程度ならかけることができるが、こうやって手駒として永久的に従わせることはできないはずだ。
シルヴィアはハンターの中でも一流といわれるあの麻上を手に入れている。彼女にもう怖いものなどないだろう。
もし自分がそのような能力に目覚めればどう使うだろうか。
どんな願いも人に強要することができるのだ。
ふと祭の寝間着姿を直江は思い浮かべる(見たことないけど)。そこからいやらしい妄想にシフトしたので途中で考えるのをやめた
「ねえ豚さん」
ちゃんと名前を呼んでほしかったが反感を買えばどうなるかわからないので我慢する。
「あなたはどうして吸血鬼になりたいの?」
「僕は特別な存在になりたいんです」
「特別?それは偉くなりたいってことかしら」
「偉い………そうじゃなくて、僕は時間とか運命とか、絶対に変えられないものっていうのが憎いんです。吸血鬼になれば老いからは解放される。たぶんそういう理由です。だからきっと憧れるんです。吸血鬼に」
「年をとるってことはそんなに嫌なことなの?私もう何十年もこの姿のままだからわからないわ」
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傷はすぐに治り、肌のツヤが落ちることはない。これからも永遠に。
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