久遠

メイキングウィザード

第9話 申請を受理しました。抜刀を許可します

「よし行くぜお前らあ!」

 瞬間、吾郎が刀を抜き放ち、鞘を捨てて飛び出した。四ノ宮もそれに続く。
 直江も走り出そうとして、ふと腕に力を感じて止まる。
 見ると祭が彼の服の袖を掴んでいた。

「……頑張ってな……」

 祭はここで待機、もし直江たちに何かあって戻らなければ彼女が本局に連絡する手筈である。もちろんそんなことはないはずだが……。

 直江は彼女の頭を撫でる。

「行ってくるよ。祭ちゃん」
「ちゃんはいらん」

 刀を抜いて彼らの後を追う。
 既に正門を乗り越えた二人は運動場にて玄関から飛び出してきた鬼と交戦中だ。

 毛むくじゃらの体に鋭い爪を生やした怪物達。
 10体はいた鬼達が既に何体か吾郎の猛攻によって切られている。

「この我写髑髏のサビになるといいさ!」

 風を切り裂く音と共に四ノ宮の斬撃によってまた一体鬼が駆除される。
 青い血が飛び散りそれは空気中でボウッと燃える。奴らの血は空気に触れると発火する。だが別のものに燃え移ることはない。異界の怪物たちがもつ特有の性質だ。だけど熱いことに代わりはないので直江たちは両腕に包帯を巻いている。耐熱帯と呼ばれる特殊な繊維でつくられたものだ。これのおかげで腕についた血が発火し、熱さで刀を落としてしまうという愚行を不正でくれるわけだ。

「先に行くよ!」と直江は二人にこの場を任せて校内に足を踏み入れる。

 吾郎が「手柄を独り占めする気だな!ずるいぞ!」とかなんとか叫んでいたが無視。

 敵を逃がすわけにはいかない。運動場で吾郎たちが会敵した時点で直江たちの存在は気づかれている。それでも夜のうちの奇襲は敵にとって予想外だったはず。

 どこだ?教室をしらみつぶしに探していくか……?

 そのとき、直江の鼻が独特の刺激臭を感知した。アンモニアに似たその臭いはバンピールの洞窟で嗅いだことがある。吸血鬼達が使役している鬼や死霊は、吸血鬼自身が骨や肉、魂を自らが一から練り上げ造るものだ。そしてこの臭いはその時に使われる特殊な薬品のもの。

 臭いの元を探る。おそらくそこが吸血鬼の工房であり寝床。
 ある教室の前で臭いはより一層強くなった。

 ここか……。

 扉を開いて視界に飛びこんできたのは倒れた女性の体。
 近隣の住民だろうか。おそらく食料として運ばれたのだろう、口と手足を縄のようなもので縛られ床に倒れている。意識はないが顔色を見る限り死んではいない。吸血鬼に血を吸われて死んだ者はみな顔が青くなる。

「……っ!」

 ブブッと羽虫が耳元で飛んだような音。

 サイコキネシス!?

 気づいた時には既に遅く、直江の体はフワリと浮いて後方に飛ばされた。
 教室の隅に置かれた掃除用具入れに衝突して派手に音を鳴らす。

 ……いってえ……。

 視線の先にはこちらに手を力強く向ける金髪の男。ボロボロの服、放置された無精髭。まるで浮浪者にしか見えないが、その異国を感じさせる髪に、獣のような赤い目が今回のターゲットである吸血鬼だということを示していた。

 直江は急いで立ち上がり、刀を構える。

 相手との距離は数メートル。その間にあった机や椅子がサイコキネシスの影響ではけている。

「おい、あんた……ここが誰のテリトリーかわかってるのか」

 返事はない。あ、こいつイギリス人か

「どうやら日本語がわからないみた……」
「ついている。貴様見習いだな」

 わかるんかい!

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