それでも俺は異世界転生を繰り返す
〈expiry point 3-Who's Guardian〉 六話
「いやなんでもない」
「内緒の話? 私だけ除け者……」
「今日の夕食の話だよ。コロッケが食べたいなって」
「あ、私も双葉のコロッケ食べたい! 今日もお邪魔していい?」
「それはダメだ」
あっと思った時にはもう遅かった。
双葉はどこか遠くを見つめるような目をして俺を見上げていた。
口が滑ったとはいえ、こういう拒絶の仕方はよくない。そんなの俺だってわかっていたはずだ。
「あー、ちょっと今日は外食にしようかって話もあったからさ、まだわかんないなーっていう――」
「いいよ、気にしてないから」
そう言いながら、優帆が俺の腕を離した。
「明日! 明日ならいいから!」
「うん、じゃあ明日、お邪魔させてもらおうかな」
「おい、お前どこいくんだよ」
腕を離して、そのまま帰り道とは違う方向へと歩いて行こうとする。
「ちょっと買い物したいなって思って。今日は、二人で帰ってね」
その歩調が速くなり、優帆は街の方へと走り去ってしまった。
「お兄ちゃん……なんでお兄ちゃんはそんなにダメなの?」
「ダメって言うな。ダメって言わないで。自分でも、ある程度は理解してるんだ。追い打ちはやめてくれ」
頭を抱える。そんな俺を置いていくように、双葉が一人で歩いていってしまう。
「おー! お前にまで置いて行かれたら俺はどうすればいいんだ!」
「お仕置き」
「お仕置きやめて! 優しくしてよー!」
追いすがる俺に冷たい視線を向けてくる。
「ちゃんと謝りなよ?」
「謝る! 謝るからお前だけは優しくしてくれ!」
「……もう、しょうがないんだから」
眉尻を下げながら、双葉は柔和に微笑んだ。
さすが我が妹。お前は最高の妹だよ。
妹の存在に感謝しながら帰路を歩いた。こういう青春も悪くない。
家に帰り、自室のドアノブに触れた。その時、部屋の中から気配を感じた。同時に俺は思い出す。まだ、フレイアに連絡を入れていなかったことに。
ドアノブにかけたこの手を離したい気持ちが九割。しかしこのまま逃げるとさらにあとが怖すぎる。
ツバを飲み込み、一、ニ、三でドアを開け放った。
ベッドの上にはアグラをかくフレイアがいた。タンクトップと短パンという姿は非常に眼福だが、目があまりにも怖すぎた。
眼と眼が合う。この眼光で、きっと並の人間なら数人は殺せるんじゃないだろうか。
「あ、あの、フレイアさん?」
「なに?」
ああ、やっぱり怒ってらっしゃる。
「言い訳を、させてもらえないだろうか」
「その言い訳によっては三日は立てない身体にするが?」
もう言い訳はダメだ。どんな言い訳をしても三日は立てない身体になる。
俺は大きく深呼吸をした。
そして、僅かにジャンプしてから空中で土下座の体勢を取って床に着地。
「すいませんでしたああああああああああああああああ!」
後頭部に視線が刺さる。フレイアの顔は見えないが威圧感と緊張感がピリピリと痛む。
「イツキにどんな事情があるかはわからない。でもね、ちゃんと連絡してくれないとこっちも困るの」
「はい、次からは必ず……!」
ベッドからフレイアが降りた。つま先が若干見える。
一歩、二歩とこちらに歩き、そしてしゃがみ見込んだ。
「もしかしたらやられちゃったんじゃないかって、心配しちゃったじゃない」
その声に怒気は含まれていなかった。むしろ優しく、本気でこちらを心配しているようだった。先程の殺気は、いつの間にか消えていた。
素早く顔を上げると、そこにはフレイアの笑顔があった。
「よかった。生きていてくれて」
フレイアが近付いてきて、そのまま抱きしめられた。ふわりと香る花の匂い。胸に当たる柔らかな感触。なによりも抱きしめている腕が優しかった。
「本当に、ごめん」
そう言いながら抱き返す。背中に回した手に少しだけ力を込めた。
「大丈夫なら大丈夫って言って欲しいんだよ。じゃないと、心配で集中できないし」
「うん、今度からちゃんとするから」
「よしよし」と、俺の頭を撫でてくれた。
ここで、この状況がいかに恥ずかしいのかを理解してしまった。
急いでフレイアから身体を離す。彼女は「どうしたの?」と言わんばかりの顔をしていた。異性と抱き合っても恥ずかしくないのかこの子は。
「と、とりあえず下に行こうか。俺も風呂に入りたいし、双葉が夕飯作ってくれてるからさ」
「そうだね、フタバにも話を訊かなきゃいけないしね」
抱き合っている時に双葉が来なくてよかった。あんな姿を見られたら、なにを言われるかわかったもんじゃない。
「先に行っててくれ。俺は着替えてから行く」
「うん、わかった」
フレイアを先に行かせてスウェットに着替えた。
「よかった、本当に」
フレイアが生きていたことに関してじゃない。フレイアが俺を許してくれたことに関してだ。
フレイアが負けるのは、きっと俺がいるからだ。俺みたいな弱いやつが近くにいるから、フレイアは力を出せないのだ。
だが、俺はそれをバネにしなきゃいけないんだ。悔やんで立ち止まっていてもなにも得られない。早くアイツの隣に並んで、背中を任せてもらえるようになるんだ。そうすれば、もうフレイアが死ぬことも、俺が死ぬこともなくなるんだから。
そうだ、やはり誰かに許してもらえると安心する。今の俺の中には、もう一つシコリがある。それを解消しないと、これからの生活にも支障が出そうだ。
「明日、ちゃんと優帆にも謝らなきゃな」
と、言いながら部屋を出た。
一度は話をしなくなった仲だが、それでも幼なじみであることに変わりはないのだから。早く謝って、優帆ともまた今まで通りお喋りしたい。
優帆には、今まで通りに側にいてもらいたいから。
一階に降りて、まずは風呂に入った。風呂は若干湿っていて、フレイアが先に入ったんだというのがわかった。
「フレイアが入った後……?」
いや、邪なことを考えてはならん。この気持ちを引きずっていると、どこかで口に出してしまいそうだ。そんなことになってはフレイアにも双葉にも蔑まれてしまう。
全身をガシガシ洗ってから風呂を出た。そう、無駄ではないが不埒なことは考えてはいけない。
「内緒の話? 私だけ除け者……」
「今日の夕食の話だよ。コロッケが食べたいなって」
「あ、私も双葉のコロッケ食べたい! 今日もお邪魔していい?」
「それはダメだ」
あっと思った時にはもう遅かった。
双葉はどこか遠くを見つめるような目をして俺を見上げていた。
口が滑ったとはいえ、こういう拒絶の仕方はよくない。そんなの俺だってわかっていたはずだ。
「あー、ちょっと今日は外食にしようかって話もあったからさ、まだわかんないなーっていう――」
「いいよ、気にしてないから」
そう言いながら、優帆が俺の腕を離した。
「明日! 明日ならいいから!」
「うん、じゃあ明日、お邪魔させてもらおうかな」
「おい、お前どこいくんだよ」
腕を離して、そのまま帰り道とは違う方向へと歩いて行こうとする。
「ちょっと買い物したいなって思って。今日は、二人で帰ってね」
その歩調が速くなり、優帆は街の方へと走り去ってしまった。
「お兄ちゃん……なんでお兄ちゃんはそんなにダメなの?」
「ダメって言うな。ダメって言わないで。自分でも、ある程度は理解してるんだ。追い打ちはやめてくれ」
頭を抱える。そんな俺を置いていくように、双葉が一人で歩いていってしまう。
「おー! お前にまで置いて行かれたら俺はどうすればいいんだ!」
「お仕置き」
「お仕置きやめて! 優しくしてよー!」
追いすがる俺に冷たい視線を向けてくる。
「ちゃんと謝りなよ?」
「謝る! 謝るからお前だけは優しくしてくれ!」
「……もう、しょうがないんだから」
眉尻を下げながら、双葉は柔和に微笑んだ。
さすが我が妹。お前は最高の妹だよ。
妹の存在に感謝しながら帰路を歩いた。こういう青春も悪くない。
家に帰り、自室のドアノブに触れた。その時、部屋の中から気配を感じた。同時に俺は思い出す。まだ、フレイアに連絡を入れていなかったことに。
ドアノブにかけたこの手を離したい気持ちが九割。しかしこのまま逃げるとさらにあとが怖すぎる。
ツバを飲み込み、一、ニ、三でドアを開け放った。
ベッドの上にはアグラをかくフレイアがいた。タンクトップと短パンという姿は非常に眼福だが、目があまりにも怖すぎた。
眼と眼が合う。この眼光で、きっと並の人間なら数人は殺せるんじゃないだろうか。
「あ、あの、フレイアさん?」
「なに?」
ああ、やっぱり怒ってらっしゃる。
「言い訳を、させてもらえないだろうか」
「その言い訳によっては三日は立てない身体にするが?」
もう言い訳はダメだ。どんな言い訳をしても三日は立てない身体になる。
俺は大きく深呼吸をした。
そして、僅かにジャンプしてから空中で土下座の体勢を取って床に着地。
「すいませんでしたああああああああああああああああ!」
後頭部に視線が刺さる。フレイアの顔は見えないが威圧感と緊張感がピリピリと痛む。
「イツキにどんな事情があるかはわからない。でもね、ちゃんと連絡してくれないとこっちも困るの」
「はい、次からは必ず……!」
ベッドからフレイアが降りた。つま先が若干見える。
一歩、二歩とこちらに歩き、そしてしゃがみ見込んだ。
「もしかしたらやられちゃったんじゃないかって、心配しちゃったじゃない」
その声に怒気は含まれていなかった。むしろ優しく、本気でこちらを心配しているようだった。先程の殺気は、いつの間にか消えていた。
素早く顔を上げると、そこにはフレイアの笑顔があった。
「よかった。生きていてくれて」
フレイアが近付いてきて、そのまま抱きしめられた。ふわりと香る花の匂い。胸に当たる柔らかな感触。なによりも抱きしめている腕が優しかった。
「本当に、ごめん」
そう言いながら抱き返す。背中に回した手に少しだけ力を込めた。
「大丈夫なら大丈夫って言って欲しいんだよ。じゃないと、心配で集中できないし」
「うん、今度からちゃんとするから」
「よしよし」と、俺の頭を撫でてくれた。
ここで、この状況がいかに恥ずかしいのかを理解してしまった。
急いでフレイアから身体を離す。彼女は「どうしたの?」と言わんばかりの顔をしていた。異性と抱き合っても恥ずかしくないのかこの子は。
「と、とりあえず下に行こうか。俺も風呂に入りたいし、双葉が夕飯作ってくれてるからさ」
「そうだね、フタバにも話を訊かなきゃいけないしね」
抱き合っている時に双葉が来なくてよかった。あんな姿を見られたら、なにを言われるかわかったもんじゃない。
「先に行っててくれ。俺は着替えてから行く」
「うん、わかった」
フレイアを先に行かせてスウェットに着替えた。
「よかった、本当に」
フレイアが生きていたことに関してじゃない。フレイアが俺を許してくれたことに関してだ。
フレイアが負けるのは、きっと俺がいるからだ。俺みたいな弱いやつが近くにいるから、フレイアは力を出せないのだ。
だが、俺はそれをバネにしなきゃいけないんだ。悔やんで立ち止まっていてもなにも得られない。早くアイツの隣に並んで、背中を任せてもらえるようになるんだ。そうすれば、もうフレイアが死ぬことも、俺が死ぬこともなくなるんだから。
そうだ、やはり誰かに許してもらえると安心する。今の俺の中には、もう一つシコリがある。それを解消しないと、これからの生活にも支障が出そうだ。
「明日、ちゃんと優帆にも謝らなきゃな」
と、言いながら部屋を出た。
一度は話をしなくなった仲だが、それでも幼なじみであることに変わりはないのだから。早く謝って、優帆ともまた今まで通りお喋りしたい。
優帆には、今まで通りに側にいてもらいたいから。
一階に降りて、まずは風呂に入った。風呂は若干湿っていて、フレイアが先に入ったんだというのがわかった。
「フレイアが入った後……?」
いや、邪なことを考えてはならん。この気持ちを引きずっていると、どこかで口に出してしまいそうだ。そんなことになってはフレイアにも双葉にも蔑まれてしまう。
全身をガシガシ洗ってから風呂を出た。そう、無駄ではないが不埒なことは考えてはいけない。
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