それでも俺は異世界転生を繰り返す

絢野悠

〈actuality point 3-Kindness Piece〉 六話

 帰ってからは大変だった。

 俺、双葉は別として、他のメンバーはこれでもかというほどにあるものを飲んでいた。リッケルと呼ばれる水だった。どうやら酒とはまたちょっと違うらしい。どう違うのかはよく知らない。

 呑むと気分がよくなって、飲みすぎると平衡感覚を失ったり、吐いたり、次の日には頭がいたくなったりするらしい。

 俺と双葉は一口でやめておいた。なんというか、単純に口に合わなかった。仕方がないので二人して柑橘系のジュースだ。

 酒場を独占してわちゃわちゃしているが、今まで見たことがない冒険者たちまで混ざってる。なんでもありかよ。

 リッケルを飲んでないせいかちょっとだけ疎外感がある。

「ちょっと付き合わないか」と双葉を誘って外に出た。

 酒場の裏手で二人だけになった。

「どうしたの?」

 そう言いながらも顔は笑っていた。あまり心配はしてないってことだ。双葉はなんだかんだと言っても感情が表に出るからだ。

「ちょっと試したいことがあってな」

 俺の能力についての話でも、これからについての話でもない。これは、ここで俺たちが生きていく上で必要なことだからだ。

「試したいことってなに?」
「俺さ、どうやら魔術に向いてないらしいんだわ。ブラックラバーと戦ってる時もちょいちょい使おうと思ってたんだけど、なんか上手く使えないのよ。使えることは使えるんだが遠くに飛ばせない。で、フレイアに洞窟から帰ってくる時に聞いたんだが、そもそもの素養がないみたい」
「えっと、それは……」
「でもお前はそこそこ上手く使えてた。なんというか、才能とかそういうのらしいんだわ。そこで、どうやったら魔術を上手く使えるか考えてみた」
「結論が出たの?」
「ああ。結論は接近戦で使う、だ」
「え……?」
「そういう「なに言ってるんだろ」みたいな顔しないでもらってもいい? お兄ちゃん傷つくから」
「う、うん……」
「あのさ「コイツヤバイヤツだ」みたいな顔しないでもらってもいいかな?」

 このままだとこのやり取りが一生続きそうだ

「まあ、その、なんだ。例えば電気とか火の玉を飛ばせなかったとしても、それを直接ぶち込めれば戦力になると思ったんだよ。でもそのためには魔術に対しての抵抗力を見につけなきゃいけないんだ。自分の魔術を目の前で使うんだ、耐性がなきゃすぐボロボロだ」
「もしかしてそのために私を?」
「そういうことだ。双葉ならまだ魔力も弱いしうってつけかなと思って。基本的なエンハンスだけじゃなくて、魔術に対しての耐性をどうやってつけるべきかを考えなきゃいけないからな」
「わかった。それならやれることはやってみるね」

 目の前でくるくると杖を回した双葉。様になっているというか、一日でだいぶ順応したな。

「ファイア!」
「いきなりかよ!」

 腕のみをエンハンス。火の球を腕で壊した。

「あっつ! 熱いなおい!」

 火傷にはなってないからエンハンスの効果はあるんだろう。でもこの熱さを遮断できなきゃ意味がない。

「ファイア! ファイア! ファイア!」
「ちょま、ちょまってよ!」

 火の玉に襲われて、熱い熱いと言いながらをそれを叩き落とす。遊びというには危険かもしれないが、こうして二人での時間を過ごすのは久しぶりだった。

 フレイアのことは大切だと思うけれど、それ以上に俺はコイツを守らなきゃいけない。大事な妹なんだ。可愛いんだ。

 またこうやって二人の時間ができることを願った。

 いつか本当のことが話せればいい。その時が来れば、の話だが。

 俺より先に双葉が力尽き、双葉を背負って部屋に運ぶことになった。部屋についた頃には眠ってしまっていた。

 ベッドに寝かせて布団をかけた。

 イスに座って、寝ている双葉の頭を撫でる。もう一度酒場に戻った方がいいと思ったが、双葉を一人にしてよかったことが一度もない。ここにいてやることが、コイツを危機から救うことに繋がるんだから

「よっ、シスコン! シスコンしてるかー!」
「おい、大声出すなよフレイア」

 部屋に入ってきたのはフレイアだった。音もなく入ってくるのはやめて欲しい。それとシスコンしてるかはおかしい。

「おー、双葉ちゃん寝ちゃったか」
「そうだよ、寝たんだ。だから静かにしててくれ」
「ごめんごめん」

 そう言いながらもベッドに腰を下ろしやがった。

「お前はまだ寝ないのか?」
「もうちょっと起きていたいお年頃なのよ」
「結構仕上がってるな、お前」
「そんなことないわよ、逆に結構余裕がある。ああいう場所ではさ、みんなと一緒にハイになるのが楽しいのよ」
「半分演技?」
「八割演技かな」
「絶対ウソでしょ……」

 フレイアの手が双葉の頬を撫でた。双葉は少し身じろぎしたが、目を覚ます様子はなかった。

「すまんな、いろいろ面倒かけさせて」
「別に気にしてない。って言えばすごくいい女に見えるでしょ?」
「そんなこと言わなくてもいい女だよ」
「わーお、大胆発言!」
「そういう点では双葉もいい女ってことになるけどな」
「やっぱりそうなっちゃうのね」
「って言う割には落胆とかしないのね」
「アナタのことはさ、上辺だけでもわかったつもりでいるわ。だからそういうのが照れ隠しで、本当は別のこと考えてる時なんだなっていうのもなんとなーくわかってるつもり」

 こいつは本当によく見てる。毎度毎度怖くなるくらいだ。心の中を見透かされているような気持ちにさせられる。

「双葉のこともお前のこともいい女だとは思ってる。それは事実だ。でもそれ以上に不安なんだ。これからどうすればいいのか。これからどうしたらいいのか。この世界で生き抜くための手段はなんとなく見通しがたったよ。でも、向こうの世界じゃ通用しない。双葉も優帆も守らなきゃいけない。それだけじゃない。俺の周りにいる人たち全員を巻き込む可能性があるんだ」
「今は忘れてもいいんじゃない?」
「俺はバカじゃない。俺たちは見えないなにかに踊らされてる、そうとしか思えない。近いうちに、俺はきっともう一度死ぬんだろう。そして現実世界に帰るんだ。そしたらどうする? アイツとやり合わなきゃいけないんだよ。どうやって戦う、どうやって被害を抑える、どうやって黒幕を見つければいい。人をモンスターに変えるヤツを倒しても、黒幕をなんとかしなきゃまた殺されるんだ」
「だから、今は忘れましょう。これからも辛いことがたくさんある。アナタも私も、たくさんの人の死を見るでしょう。アナタも私もたくさん死ぬでしょう。でもそれは、私たちにだけ与えられた「過去を変える力」なのよ。他の誰にもできない、秘められた可能性なの。私がアナタの力になるから。だから、頑張りましょう」

 フレイアにこう言われると本当にそうなんじゃないかっていう気になってくる。

 言いくるめられてるのはよくわかってる。でも縋るしかないじゃないか。縋って、頼って、求めて、そうするしか道がないんだ。

 俺はコイツを信頼する。だから何度でも手をにぎるんだ。

 今もこうして差し伸べてくれる、この手を、何度でも。

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