それでも俺は異世界転生を繰り返す
〈actuality point 3-Kindness Piece〉 三話
魔法の使い方を双葉と一緒にフレイアに教わったのだが、そこで驚愕の事実を聞かされた。
魔法、というかメンタルポイントを消費するアーツは、メンタルポイントにも気を配らなければいけないらしい。最初の方は加減がわからず乱発してしまう。が、メンタルポイントがなくなると精神的に不安定になるらしいのだ。
この辺はかなり体育会系のノリで「使い続けて自分の限界を探せ!」とのこと。洞窟内でなにも考えられなくなったらどうするのかと。まあこのメンバーなら助けてもらえるか。
レベルが低い俺と双葉を真ん中にして、前衛にグランツと双子、後衛にフレイア、メディア、ゲーニッツという編成で洞窟の中に入った。
ヒカリゴケによって淡く光る洞窟の中、グランツを先頭にして歩き始めた。
出現するモンスターを処理しつつ、俺と双葉のレベル上げも忘れない。ちょっと攻撃するだけでも、超低レベルの双葉にとってはかなりいい経験値になる。何回か攻撃しただけでもすぐにレベル20まで上がった。このまま、ホープヴァリーでレベル50くらいになれば簡単な自衛くらいはできるだろう。
ふと、自分の視線がリアを追っていることに気がついた。最後に、彼女とあんな別れ方をしたからだろう。アルのことも当然気にはなっているが、どうしてもリアとのやり取りが頭から離れなかった。
『アルはちゃんと職務を果たしました。警察官として一般人を守るという職務。彼女の中にある正義を行使しただけに過ぎないのです』
『アナタを恨んでいない、といえば嘘になります』
『悲しくないと、本気でそう思っているんですか?』
『もう二度とここには来ないでもらえますか? しばらくは顔も見たくありません』
俺が迂闊だったのは間違いない。けれど、やはりもうちょっとちゃんと謝っておくべきだったと、そう思った。
逆に、リアは「しばらくは」と言った。つまりあの時も、心底俺を嫌っていたわけではないんじゃないか。そうやって考えると、少しだけ気持ちが軽くなっていった。
「ねえ、アンタ」
という声が聞こえてきた。辺りを見渡していると「アンタよ、アンタ」と、スネを蹴られた。
「痛いんだけど……名前で呼んでくれ……」
下を見ると、アルがジト目でこちらを見上げていた。
「なんだっけ?」
「イツキだよ! イツキ=ミヤマ! んで妹のフタバ!」
「わかった、今覚えた」
「ちょっと遅くないですかね……」
「これからブラックラバーなんてのと戦うんだ。人の名前を覚えている場合じゃない」
「そんなに難しい名前じゃないと思うんけどね」
「なに? アンタ私のこと嫌いなの?」
「それは俺のセリフだけどね、どっちかというと。それでなんか用事があったんじゃ?」
「ああ、なんかアンタの視線がいやらしかったから。そういう目でリアを見ないでもらえる? こっちとら警察だっての、わかってる? 最悪は逮捕よ?」
「そんな目で見てないからね? お前俺をそんな目で――」
そうか、コイツは俺が知っているアルじゃない。警察になった経緯を話してくれたアルでもなければ、俺をかばってくれたアルでもないんだ。
「いや、すまなかった。そういうつもりはないんだ。今度から気をつける」
「それでいいのよ。私も逮捕とかしたくないし。面倒なのよね、いろいろと。書類も書かなきゃいけないし、連行しなきゃいけないし。なによりも私の大切な妹だから、私の感情が抑えきれない」
そう言う彼女の目は笑っていなかった。
過去の出来事が起因しているんだろうけど、正直どうやって接していいのかわからなくなる。
「気にしなくていいよ。イツキ」
俺たちの会話に入ってきたのはリアだった。無表情でなにを考えているのかわからない。言葉にも抑揚がないというのもある。
「心配しなくてもいい。アルは同い年くらいの男の子と喋る機会がないから、どう接していいいのかわからないだけだから。高圧的なのはそのせいだし、喋りたいけど話題がないから私を引き合いに出しただけ」
「そうなの? じゃあ嫌われてるわけじゃないんだな」
「そうなの。私も素っ気ないって言われることはあるけど、それはおしゃべりがあんまり得意じゃないから。私もアンも、別にアナタのことが嫌いというわけではない」
「本人からそう言ってもらえると接しやすくなるな。ありがとう」
「どういたしまして」
「ちょっとリア! なんてこと言ってるのよ!」
「本当のことでしょ? アルはもうちょっと自己分析をした方がいいと思うわ」
「リアがフォロー入れてくれるからいいのよ」
「あんまり甘えられても」
今度は二人だけの会話に突入してしまった。これでいいんだと思う反面、少しだけ寂しいとも感じた。
前回、アルはリアのことを「おしゃべりが得意ではない」と言った。でも、リアはそれを自分でちゃんとわかっている。この姉妹は、お互いの長所でお互いの短所を補っているんだ。フォローし合って、今までやってきたんだ。
二人の関係を壊させちゃいけない。絶対に一人になんてさせちゃダメなんだ。
そして、それができるのは、きっと俺だけなんだ。
俺たちはそのまま洞窟を歩き続けた。
志半ばで死んでいった冒険者の死体もたくさん転がっていた。剣や鎧の錆びつき方からすると相当昔のものもあった。
無視はできる。けれど感じることもある。もしもあの時フレイアが現れなかったら、きっと俺もこうなっていたんだろう。そう考えてしまうから、たくさんの死体を他人とも思えなかった。
洞窟の奥深くに向かうにつれて、モンスターのレベルも少しずつ上っていく。そうなると当然、俺たちの出番も少なくなって、逆に得られる経験値も多くなる。
前回訪れた分かれ道にやってきた。その頃には俺のレベルも65。フタバはレベル30だ。まだまだ不安だが、レベル1に比べれば雲泥の差だ。
分かれ道の前でジャンケンをした。ブラックラバーが元凶であるとわかっているので本当はしなくてもいい。けれどこういう場合、どうなるのかを見てみたかった。
双葉にジャンケンの説明をして、全員が輪になった。
結局、右の道はゲーニッツ、グランツ、メディア、双葉。左の道は俺、双子、フレイアというメンバーだ。本当は双葉とフレイアが逆だったのだが、戦力的なものも考慮して交換したというわけだ。
なるほど、な。こういう場合は元々あった事実に引っ張られる。そしてイレギュラーは俺に引っ張られる。だからイレギュラーである双葉は俺に引っ張られる。フレイアがこっちのルートに来たのは双葉が原因だ。つまりこのグループ分けもまた、俺に引っ張られたと言ってもいい。
今までは「過去を変えようとして過去を変えた」けれど、今回はその逆をやってみようと思った。無理矢理事象を捻じ曲げようとしなければ、本来あるべき未来へと向かっていくということだ。
つまるところ、だからこそ俺の立場がかなり重要になってくる。俺がやろうとしなければ、未来はなにも変わらないということになる。
魔法、というかメンタルポイントを消費するアーツは、メンタルポイントにも気を配らなければいけないらしい。最初の方は加減がわからず乱発してしまう。が、メンタルポイントがなくなると精神的に不安定になるらしいのだ。
この辺はかなり体育会系のノリで「使い続けて自分の限界を探せ!」とのこと。洞窟内でなにも考えられなくなったらどうするのかと。まあこのメンバーなら助けてもらえるか。
レベルが低い俺と双葉を真ん中にして、前衛にグランツと双子、後衛にフレイア、メディア、ゲーニッツという編成で洞窟の中に入った。
ヒカリゴケによって淡く光る洞窟の中、グランツを先頭にして歩き始めた。
出現するモンスターを処理しつつ、俺と双葉のレベル上げも忘れない。ちょっと攻撃するだけでも、超低レベルの双葉にとってはかなりいい経験値になる。何回か攻撃しただけでもすぐにレベル20まで上がった。このまま、ホープヴァリーでレベル50くらいになれば簡単な自衛くらいはできるだろう。
ふと、自分の視線がリアを追っていることに気がついた。最後に、彼女とあんな別れ方をしたからだろう。アルのことも当然気にはなっているが、どうしてもリアとのやり取りが頭から離れなかった。
『アルはちゃんと職務を果たしました。警察官として一般人を守るという職務。彼女の中にある正義を行使しただけに過ぎないのです』
『アナタを恨んでいない、といえば嘘になります』
『悲しくないと、本気でそう思っているんですか?』
『もう二度とここには来ないでもらえますか? しばらくは顔も見たくありません』
俺が迂闊だったのは間違いない。けれど、やはりもうちょっとちゃんと謝っておくべきだったと、そう思った。
逆に、リアは「しばらくは」と言った。つまりあの時も、心底俺を嫌っていたわけではないんじゃないか。そうやって考えると、少しだけ気持ちが軽くなっていった。
「ねえ、アンタ」
という声が聞こえてきた。辺りを見渡していると「アンタよ、アンタ」と、スネを蹴られた。
「痛いんだけど……名前で呼んでくれ……」
下を見ると、アルがジト目でこちらを見上げていた。
「なんだっけ?」
「イツキだよ! イツキ=ミヤマ! んで妹のフタバ!」
「わかった、今覚えた」
「ちょっと遅くないですかね……」
「これからブラックラバーなんてのと戦うんだ。人の名前を覚えている場合じゃない」
「そんなに難しい名前じゃないと思うんけどね」
「なに? アンタ私のこと嫌いなの?」
「それは俺のセリフだけどね、どっちかというと。それでなんか用事があったんじゃ?」
「ああ、なんかアンタの視線がいやらしかったから。そういう目でリアを見ないでもらえる? こっちとら警察だっての、わかってる? 最悪は逮捕よ?」
「そんな目で見てないからね? お前俺をそんな目で――」
そうか、コイツは俺が知っているアルじゃない。警察になった経緯を話してくれたアルでもなければ、俺をかばってくれたアルでもないんだ。
「いや、すまなかった。そういうつもりはないんだ。今度から気をつける」
「それでいいのよ。私も逮捕とかしたくないし。面倒なのよね、いろいろと。書類も書かなきゃいけないし、連行しなきゃいけないし。なによりも私の大切な妹だから、私の感情が抑えきれない」
そう言う彼女の目は笑っていなかった。
過去の出来事が起因しているんだろうけど、正直どうやって接していいのかわからなくなる。
「気にしなくていいよ。イツキ」
俺たちの会話に入ってきたのはリアだった。無表情でなにを考えているのかわからない。言葉にも抑揚がないというのもある。
「心配しなくてもいい。アルは同い年くらいの男の子と喋る機会がないから、どう接していいいのかわからないだけだから。高圧的なのはそのせいだし、喋りたいけど話題がないから私を引き合いに出しただけ」
「そうなの? じゃあ嫌われてるわけじゃないんだな」
「そうなの。私も素っ気ないって言われることはあるけど、それはおしゃべりがあんまり得意じゃないから。私もアンも、別にアナタのことが嫌いというわけではない」
「本人からそう言ってもらえると接しやすくなるな。ありがとう」
「どういたしまして」
「ちょっとリア! なんてこと言ってるのよ!」
「本当のことでしょ? アルはもうちょっと自己分析をした方がいいと思うわ」
「リアがフォロー入れてくれるからいいのよ」
「あんまり甘えられても」
今度は二人だけの会話に突入してしまった。これでいいんだと思う反面、少しだけ寂しいとも感じた。
前回、アルはリアのことを「おしゃべりが得意ではない」と言った。でも、リアはそれを自分でちゃんとわかっている。この姉妹は、お互いの長所でお互いの短所を補っているんだ。フォローし合って、今までやってきたんだ。
二人の関係を壊させちゃいけない。絶対に一人になんてさせちゃダメなんだ。
そして、それができるのは、きっと俺だけなんだ。
俺たちはそのまま洞窟を歩き続けた。
志半ばで死んでいった冒険者の死体もたくさん転がっていた。剣や鎧の錆びつき方からすると相当昔のものもあった。
無視はできる。けれど感じることもある。もしもあの時フレイアが現れなかったら、きっと俺もこうなっていたんだろう。そう考えてしまうから、たくさんの死体を他人とも思えなかった。
洞窟の奥深くに向かうにつれて、モンスターのレベルも少しずつ上っていく。そうなると当然、俺たちの出番も少なくなって、逆に得られる経験値も多くなる。
前回訪れた分かれ道にやってきた。その頃には俺のレベルも65。フタバはレベル30だ。まだまだ不安だが、レベル1に比べれば雲泥の差だ。
分かれ道の前でジャンケンをした。ブラックラバーが元凶であるとわかっているので本当はしなくてもいい。けれどこういう場合、どうなるのかを見てみたかった。
双葉にジャンケンの説明をして、全員が輪になった。
結局、右の道はゲーニッツ、グランツ、メディア、双葉。左の道は俺、双子、フレイアというメンバーだ。本当は双葉とフレイアが逆だったのだが、戦力的なものも考慮して交換したというわけだ。
なるほど、な。こういう場合は元々あった事実に引っ張られる。そしてイレギュラーは俺に引っ張られる。だからイレギュラーである双葉は俺に引っ張られる。フレイアがこっちのルートに来たのは双葉が原因だ。つまりこのグループ分けもまた、俺に引っ張られたと言ってもいい。
今までは「過去を変えようとして過去を変えた」けれど、今回はその逆をやってみようと思った。無理矢理事象を捻じ曲げようとしなければ、本来あるべき未来へと向かっていくということだ。
つまるところ、だからこそ俺の立場がかなり重要になってくる。俺がやろうとしなければ、未来はなにも変わらないということになる。
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