それでも俺は異世界転生を繰り返す

絢野悠

〈expiry point 2-Disaster Again〉 六話

 最近はずっとフレイアと一緒だった。それは俺の部屋がないのと変わらない。プライベートの時間がないのだ。男が一人、時間ができたときにすることなど一つしかないではないか。ようやくできた時間を有効に活用しなければ、次はいつになるかわからない。

「入るぞー」

 そう思っていた矢先、よく知っている声が聞こえてきた。その後で、玄関のドアが閉まる重い音。入ってきやがった。あの悪魔が、また勝手に入ってきやがった。

 俺の部屋に行かれると厄介だ。仕方なく、その悪魔を出迎えてやることにした。

「お前な、勝手に入って来るなと何度も言ってるだろ」
「別にいいじゃん、私とアンタの仲なんだし」
「良くはないな、どう考えても不法侵入だ」
「じゃあうちにも入ってくれば? それでイーブンでしょ? 私の部屋に入るまでは許す。下着なんかに触ったら殺す」
「お前の下着には興味ないんだが」
「一応Fカップはあるんだけど? それでも興味ない?」
「悪魔の誘惑……! だがしかし俺は決して折れない!」
「頭を抱えて本気で悩むなよ、キモいなぁ」
「ホントムカつくね、お前。で、今日はなんの用だ。ちなみに宿題は俺もやってないぞ」
「いや、兄貴が彼女連れて帰ってきてさ。ちょっと居心地が悪いのよ。だから遊んでやろうかなって。キングオブストリートファイター31がこの前出たからさ」

 ゲームのパッケージを取り出してニヤリと笑った。左脇にアーケードコントローラーも抱えている。やる気に満ち溢れ過ぎて怖い。

 キングオブストリートファイターとは、もう何十年も前からある格闘ゲームだ。俺と優帆は小学校の頃からこのゲームで遊んでいる。その新作がようやく家庭用で出た。発売したばっかりなのでパッケージはまだ真新しく、優帆もまだ数プレイしかしてないはずだ。

「あー、いや、やりたいのはやまやまなんだが、今部屋が散らかってるんだ。ゲーム機持ってくるからジュースでも飲んで待っててくれ」
「ああそうなの。わかった」

 よし、これでフレイアのことはなんとか隠せる。
 そう思って背を向けた。が「ちょっと待った」という声に足を止めた。

「なんだよ」
「あのさ、クッキー、どうだった?」
「あれか。おう、良かったぞ。美味かった。また作ったら食わせてくれ」
「へへっ、そっか。美味かったか」

 目を細め、嬉しそうに笑った。心なしか頬も赤らんでいるような気がする。こういうところは、昔も今も可愛いんだけどな。いかんせん性格がアレすぎて、心から可愛いと思えない。

「ま、今度から有料だけどな」

 やっぱり可愛くなかった。

「金がある時に頼むわ……」

 優帆がキッチンに向かったのを確認してから二階に上がった。

 部屋に入ると、俺のベッドでフレイアが寝転んでいた。菓子を食いながら漫画を読んでいる。ほんの一時間位前はあんなに雄々しく戦っていたのに、一度気を抜けばこんなもんだ。こっちも気を張らなくて済むからいいけど。

「誰か来たみたいね」
「幼馴染みだよ」
「女の子?」
「性別的にはな。女として見られるかと言われると微妙だが」
「ふーん、まあいいけどさ」
「なんか含みのある言い方だな」
「ホント、なんでもないよ。なんか取りにきたんでしょ?」
「そうだった、早くしないとアイツも二階に上がってきそうだ」

 ゲーム機、もといVS5とアーケードコントローラーを持って一階へ。このコントローラーがまたかさばる。

 リビングの机の上にはコップが二つ。ちゃんと俺の分まで用意されている。クッキーもそうだが、こういうところは妙に女子力が高い。

 優帆がVS5を設置、コントローラーを繋いでゲームを起動。当然のように優帆がワンプレイヤー側だ。俺はその間にお菓子を用意してテーブルの上に置いた。

 このゲームはお互いにキャラクターを三人選んで勝ち抜き戦をする。優帆が選んだのはクラリス、亮一、イオ。三人ともスタンダードキャラで、飛び道具と無敵技を持っている。

 優帆は反射神経がいいのか、相手の行動を見てから対処するようなキャラを好む傾向にあった。どんなゲームでもスタンダートキャラを選ぶ。

 俺はロッド、レオーネ、ロブ。ロッドはコマンド投げ、無敵技、飛び道具などいろんな技を持っているけれど攻撃力が低い。レオーネは必殺技が溜め技なので咄嗟には出せない。ロブはスタンダートキャラで、亮一とはライバル関係にある。

「お前、毎回そのキャラ使うね」
「クラリス? だって可愛いじゃない」
「でも今回弱いんじゃなかったか? イオも攻撃力低く設定されたような」
「その分手数で勝負よ。幸いにも無敵技は調整されてないし、ジャンプしたら全部落とすわ」
「ホントに落としてくるから面倒くさい」

 二段ジャンプなどがなく、空中ガードもない。そのため、ジャンプ中は攻撃を出すことしかできなくなる。つまり地上で無敵技で迎撃できてしまうのだ。実際そう簡単ではないんだが、反応がいい人だと大体無敵技を出してくるのでジャンプできなくなってしまう。

 二回負ける、一回勝つ。三回負ける、二回勝つ。一回負ける、三回勝つ。途中からキャラクターを変えたりして、何十戦と戦った。

 こうして双葉が帰って来るまでの間、俺と優帆はゲームに勤しんだ。

「ただいま。ゆうちゃんも来てたんだね」

 そう言いながら、双葉はキッチンへと歩いていった。手には大きめのビニール袋が二つ。一週間分くらいはありそうだ。

「おう、おじゃましてるよーん」
「ゆうちゃんも晩御飯食べてく?」

 エプロンを着る双葉の姿もまたいい。

「食べてく食べてく。双葉のご飯美味しいからなー」

 優帆がスマフォを操作し始めた。たぶん母親に連絡を入れてるんだろう。

「お前、俺と双葉の楽しい食事を邪魔すんのかよ」
「でたでた、困ったシスコン様の登場だよ」
「はん、シスコンで結構。俺は双葉が大好きだし大切なんだ」
「もうっ! そういう恥ずかしいことを言わないでって、何度も言ってるじゃない!」

 怒られてしまった。だがそれがいい。

 結局、食事ができるまでの時間もゲームで遊んでしまった。ちなみに、総合的に見て俺の負け。いつも通りといえばいつも通りだ。

 優帆がうちで食事をとることは珍しくない。というか小学校の頃から変わらない。逆に、俺が優帆の家で食事をもらうこともある。「そういうことがあった」というのが正しい。高校生になってから、俺は優帆の家にあまり行っていない。行くような用事がそもそもないからだ。

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