それでも俺は異世界転生を繰り返す

絢野悠

〈expiry point 1ーCommon Destiny〉 二話

 っと、こんなことをしてる場合じゃない。

「今日一日はここにいること! いいな!」
「うん、わかった」

 彼女はなにかを諦めたように微笑み、ベッドに思い切り腰を下ろした。

 俺は部屋を出て階段を一気に駆け下りた。リビングに入り、食パンと目玉焼きを口の中に押し込んだ。それを冷めた紅茶で流し込む。廊下を駆け抜けて、そのままの速度で玄関から外へ飛び出した。両親が単身赴任のため、鍵をかけ忘れるとかなりヤバイ。自転車にまたぎ、一気に漕ぎだした。この時間だと優帆も待ってないだろう。いや違うな、アイツと学校に行く時はたまたま登校時間が一緒なだけだ。

 葦原優帆あしはらゆうほ。俺の幼馴染みであり、俺のオタク趣味をチクチクとなじることが生きがいみたいなヤツだ。顔はまあ、可愛いと思う。双葉には及ばないけど。あと胸がデカイ。高校に入ってから髪にパーマをかけたり茶色に染めたり、スカートの丈をめちゃくちゃ短くしたり、出かける時に派手なキャミソールやスカートを着てみたり。まあ、ギャルとオタクは相容れないのだ。だから幼馴染みだけど、高校に入ってから一緒にいる時間は少なくなった。

 少なくはなったのだが、勝手に家にあがりこんで俺の部屋でくつろいでるみたいなことは今でも結構ある。なにが楽しいのかわからないけど、勝手にベッドに寝転がって勝手に漫画読んで勝手にジュースの飲む。害悪かよ。

 学校までは徒歩で十五分、自転車で五分といったところだ。時間は確認していなかったので学校まで足を緩めなかった。

 五分くらいで着くと思っていた。しかし、いつもよりも速く自転車が漕げるのだ。ライセンスのおかげ、ってことなんだろうか。

 約二分で学校に到着、自転車を置いてから教室に向かう最中にスマフォを取り出して時間を見る。ホームルームまではあと十分ある。時間を確認して出てこなかったが、双葉が俺のことをよくわかっているということだ。

 ふと、日付のことが気になった。双葉は七月二日と言っていた。そしてスマフォもその通りに表示されている。

 七月二日。それは俺が死んだ、あの日なんだ。

 このままだと俺は死ぬ。またあの痛みを経験するのはゴメンだ。なんとか阻止しなきゃいけない。なによりもフレイアがこっちにいるんだ。理屈もわからない以上、まだ死ぬわけにはいかないんだ。俺死ぬことでフレイアを置き去りになんてしたらどうなるかわかったもんじゃない。

 教室に入って席についた。どうしたらいいのかをメモ帳に箇条書きしていく。スマフォのメモ帳ソフトだから箇条打ちなのだろうか。

 俺は夜の学校から帰るところだった。でも俺は部活なんてやってないし、なんであの時間に学校にいたのかわからない。その部分が思い出せないんだ。

 学校に行く用事がなければいいんだけど、逆に言えば理由がなきゃ行かないだろう。

 今日なにが起きるんだ。その不安が徐々に胸を締め上げていく。二回死んでもあの恐怖は慣れない。たぶん、何回死んだって慣れやしないんだ。

「お、つっきー今日ははえーじゃん」
「たっつんか、おはよー」

 小学校から一緒の前山翔太が声をかけてきた。身長は俺よりも少しだけ大きく、サッカー部のレギュラーだ。その代わり頭はあまりよくない。顔は俺と一緒で普通だ。お互いにモテない自慢をするのが小学校からの習わしである。十年以上友人をやってこられたのは、きっとコイツの乗りが軽いせいだろう。

「うーす、イツキがはええのは珍しいな」

 今度は榎本重貞、俺たちはサダと呼んでる。ガタイはいいがスポーツや格闘技はやっていない。趣味が筋トレというだけの話だ。顔立ちが整っているため、俺とたっつんで嫌味を言うのが日課だ。ドライな部分があるため、俺たちの嫌味も「はいはいそうですか」くらいで流されてしまうのが面白くない。逆にどうしてこんなドライなヤツが俺らとつるんでいるのかが謎である。

「いやそもそも早いっていうほど早くなくない?」
「いつも遅刻ギリギリじゃん」
「言ってやんなよサダ。可愛い妹に起こされても起きないクソ野郎だからなコイツは」

 確かに双葉には毎日起こしてもらってる。でも俺はなかなか起きない。

「正直言い返せない。しかしムカつく。お前らのことは妹に「変態クソ野郎」って言っておくわ」
「別に言っても問題ねーよ? 双葉ちゃんは将来俺の嫁になる人だからな」
「たっつんにはもったいない。犬のクソに焼き肉をおごるよりも意味がない」
「その例えはさすがに酷すぎでしょ……」
「月とスッポンよりも的を射ているな。言い得て妙だ」
「サダまで……」

 いつも通り肩を落とすたっつん。そうそう、これが俺たちの日常だ。あんなところにいたせいか、涙が出るくらい嬉しい。

「なんだよイツキ、泣いてんのか?」
「んなわけ――」

 言われて気がついた。

 慌てて目元を拭った。

「あくびかみ殺したんだよ。泣くわけねーだろ」
「ま、そういう日もあるわな」

 たっつんに肩を叩かれる。俺が詳しい話をしなくても、コイツらは俺が言い出すまで黙って見ててくれる。そういうヤツだ。

 そんなくだらない会話をしているうちにホームルームが始まって、またいつも通りに授業が進む。気がつけば昼休みになっていた。

 俺たち三人は購買でパンを買ってから屋上へと向かった。ガタイがいいサダはいつもカツサンドをかっさらっていく。本当にムカつくやつだ。

 屋上の端っこ、フェンスを背にして腰を下ろした。

「そういや今日さ、妙なオッサンとぶつかったんだよね」

 そう言ってカレーパンを頬張るたっつん。パンを咀嚼しながら財布を地面に置いた。少し厚めの黒い革張りの財布。革自体は薄いしファスナー付き。ブランド物ではないが手作りの店で買ったやつとか言って自慢してたっけ。

「財布置くの脈絡なさすぎでしょ。意味がわからない」
「ちなみに俺の財布はこれな」

 今度は同じような黒い財布を尻のポケットから出した。

「ほとんど一緒だな。どうしたんだよこれ」

 サダが地面の方の財布を拾い上げた。裏に表にとしげしげと見たあとでファスナーを開けた。

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