それでも俺は異世界転生を繰り返す

絢野悠

〈actuality point 1ーHello World〉 四話

 木造の天井を見上げてため息を一つ。俺もアニメとかゲームは好きなので異世界転生というものに憧れがなかったわけじゃない。が、意外と面倒くさいんだなというのが正直な感想だ。

「そりゃそうだよな。別の世界つったって、人として生きるってのはそういうことだ」

 働かざるものなんとやら。学校には行かなくてよくなったし、就職とか進学も考えなくてよくなった。が、その代わりに肉体労働しろってのがまたなんとも言えない。

 ポケットからライセンスを取り出した。

「ハローワールド、か。皮肉なもんだよな」

 こんにちは世界ってか。異世界にようこそ的なニュアンスにも取れるけど、スキルの能力的には何度死んでも大丈夫的な意味にも捉えられる。何度も何度も「ハローワールド!」なんて言えるほど軽い能力だとは思えない。

 本当は、能力の詳細がわかった瞬間に「死」が頭をよぎった。フレイアに迷惑をかけたわけだし、俺は死んでもやり直せるわけだし。

 しかし俺は車に轢かれた時の恐怖を忘れられないでいる。そう、怖いんだ。痛いのも知ってる。フレイアに迷惑をかけたと思いつつ、俺は自分ができる道を自ら閉ざした。保身に走った。

 腕をおろして目を閉じた。自己嫌悪と自己憐憫が同時にやってくる。最善の策を行わないという自分に対しての叱責。こんな状況でも死を選ばなければならないのかという自身に対しての哀れみ。

 いや、それが普通だ。人は人生を死で終える。普通は死ぬことなんて考えない。もっと前向きに、こっちで生きる努力をしなきゃな。

 徐々に眠気がやってきた。まだ食事も摂っていないし、買ってきたシャツやパンツにも着替えたい。疲労がそれをゆるさずに、深い沼へと引きずり込もうとする。

 疲れたし、抗う必要もない。

 俺は「もういいか」とまどろみに身を任せた。

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