それでも俺は異世界転生を繰り返す
〈actuality point 1ーHello World〉 一話
ゴツゴツとした感触があまりにも痛くて目を覚ました。若干の頭痛もあり、頭を抑えて上半身を起こす。日は高く、わずかに汗をかいていた。
窓から差し込む光に目がくらんだ。ほぼ腹ばいの状態で近くにある影の中に入った。しばらくしてようやく目が慣れてきた。慣れてきて、その異常さに初めて気がつく。
そこは、城の中だった。
「は? 城……?」
正直城かどうか、正確なところはわからない。が、アニメやゲームやマンガで見たことがある、中世ヨーロッパ的な内装。きっと間違いない。
辺りをぐるりと見渡してみるが「お城」という他に言いようがない。が、壁や天井はボロボロで、本来は豪華であっただろうシャンデリアでさえもいつ落ちてもおかしくない。
「なんだってんだよ……」
立ち上がってから身体を叩く。埃を落としてから、額に指を当てて考えてみた。
ここに来る前の記憶を思い出す。夜の校舎、自転車、坂道、風の音、車のヘッドライト。
そうだ、夜の学校から帰るところだったんだ。時刻は覚えていないか、結構遅かったと思うけど、なぜあそこにいたのかが思い出せない。
でも、俺はあの時車に轢かれたはずだ。自転車のブレーキがきかなくて、そのまま車の前に飛び出した。身体に痛みはないけれど、衝突した際の強烈な衝撃だけは覚えている。一瞬で意識を失ったのかどれくらい痛いのかまでは覚えてないけど。
なによりもなぜこんなところにいるのかがわからないままだ。
「仕方ない、ちょっと歩くか」
埃っぽい城内を見て回ることにした。ずっとここにいるわけにはいかない。なにがあるかなんてわからないし未知の領域であることは間違いない。夢である可能性も否定できないが。
なんというか、埃っぽいのだけれど埃が舞っているわけではない。砂埃、という言い方が正しいだろう。よくみれば地面にも埃が積もった様子はない。
おかしいぞと、足を止めた。
荒れているし崩落している。それなのにいろんな人間が入った痕跡、その他獣っぽいなにかがいた痕跡が多々ある。糞尿とかそういうものはないが、人の足跡があちらこちらにあるし、獣の噛み跡や爪あとがたくさんある。そして今も、何者かの気配を感じている。気配なんて生易しいものじゃない。明確な殺意や殺気の類だ。
背筋に冷たいものが伝う。少し暑いくらいに感じていたのに、今は寒くて仕方ない。
俺は武道の嗜みなんてない。あるのは中学の三年間バスケをやってたことくらい。そんな一般人でもわかるくらいの殺気。
後ろだ。
ゆっくりと、恐る恐る振り返った。
角からなにかが覗いていた。ゲームなどで見たことがある。黒い甲冑、首を左手で抱え、大きな剣を右手で持つ。デュラハン、首なし騎士と呼ばれるモンスターだ。
一歩、また一歩と近付いてくる。
逃げなきゃと思うのに、身体が固まってうごかない。前にも後ろにも、体も心も動けない。
俺の気持ちとは裏腹に、デュラハンはこちらに近付いてくる。
十メートル、歩調が早くなった。
五メートル、大きな剣を振りかぶった。
そして、気がつけば剣が眼前に迫っていた。
「じっとしてなさい」
耳元で凛とした女性の声がした。
刹那、肩を掴まれる。いや掴まれたんじゃない。俺を台にして誰かが飛んだのだ。
それにしても軽くて速い。
上空を黒い影が通過していった。
今の声の主であるだろうとすぐにわかった。その女性は空中で縦に回転しながら、ディラハンの向こう側に着地した。
いつの間にか、俺に迫っていたデュラハンの身体が半分に割れ、俺を避けるように左右に落ちた。
重なりあった金属が擦れ合う音。彼女がこちらに歩いてくる。光を反射する銀色の長い髪の毛。少しキツめの目元と、ツンと上を向く鼻。美人ではあるが少し怖いというのが印象だ。ガシャンガシャンと金属音をさせていたのはグリーブだろう。上半身はブラウスのように薄く、下半身もスカートのようだ。一応ガントレットも金属製か。
それにしても、なんて綺麗な女の子なんだろう。耳の奥に心臓があるんじゃないかと思うほど、胸の高鳴りを感じている。もしかしたら吊り橋効果的ななにかかとも思ったが、彼女が可愛く美しいことにはなんら変わりない。
「大丈夫だった?」
声を掛けられ、どうしていいものかと思考が止まった。こんな美人にこんな目の前で声をかけられたのだ、それも当然と言える。
「生きてる?」
「え、ああ、生きてるよ。大丈夫、大丈夫……」
「そう、それならいいけど」
彼女は長い槍を背中に回した。あっけらかんというその姿はなぜか凛々しく、とてもカッコよかった。
「あの、ちょっと聞いていいかな」
「ええ、どうぞ? わかることなら教えてあげるわ」
彼女は口元に笑みを浮かべた。
その笑みもそうだが、髪を払う姿も非常に色っぽい。もしや誘っているのでは、と勘違いしてしまう。
「ここ、どこ?」
「どこって、ウィンザー古城だけど」
「ウィンザー古城って、え、外国?」
「外国という言葉は元々住んでいる土地によるとは思うが。でもアンタは冒険者じゃないの?」
「冒険者? 冒険者なんつー職業があるのかないのかは知らないけど、俺はさっきまで学生してたはずなんだけど……」
「でも冒険者じゃなければキャスターライセンスをもらえないんだぞ? パブリックライセンスは全住民に配られるけど、キャスターライセンスがなければダンジョンには潜れない。でもキャスターライセンスを持っているだけじゃウィンザー古城には入らないと思う」
「そりゃどうして」
「このウィンザー古城は上級ダンジョンと呼ばれているから。レベルが高くないと先には進めない。モンスターに食い殺されて終わるのよ」
「なんで俺はそんな場所にいるんだよ……」
ダンジョン? モンスター? 正直、彼女がなにを言っているのかはわからない。ただ思い当たるフシはある。
あの事故だ。あの事故で俺が死んだのだとすれば、今俺が置かれている状況は一つしかないのだから。
「異世界転生ってやつか、もしかして……」
こんなにいきなり放り込まれても、俺にはどうしたらいいかわからない。俺もゲームとかは好きだけど、あんなデカイのに殺されかけた後だと素直に喜べない。
ふと、ズボンのポケットになにかの感触。しかも前後左右、全てのポケットに違和感がある。手を突っ込んで全部取り出して地面に置いた。
窓から差し込む光に目がくらんだ。ほぼ腹ばいの状態で近くにある影の中に入った。しばらくしてようやく目が慣れてきた。慣れてきて、その異常さに初めて気がつく。
そこは、城の中だった。
「は? 城……?」
正直城かどうか、正確なところはわからない。が、アニメやゲームやマンガで見たことがある、中世ヨーロッパ的な内装。きっと間違いない。
辺りをぐるりと見渡してみるが「お城」という他に言いようがない。が、壁や天井はボロボロで、本来は豪華であっただろうシャンデリアでさえもいつ落ちてもおかしくない。
「なんだってんだよ……」
立ち上がってから身体を叩く。埃を落としてから、額に指を当てて考えてみた。
ここに来る前の記憶を思い出す。夜の校舎、自転車、坂道、風の音、車のヘッドライト。
そうだ、夜の学校から帰るところだったんだ。時刻は覚えていないか、結構遅かったと思うけど、なぜあそこにいたのかが思い出せない。
でも、俺はあの時車に轢かれたはずだ。自転車のブレーキがきかなくて、そのまま車の前に飛び出した。身体に痛みはないけれど、衝突した際の強烈な衝撃だけは覚えている。一瞬で意識を失ったのかどれくらい痛いのかまでは覚えてないけど。
なによりもなぜこんなところにいるのかがわからないままだ。
「仕方ない、ちょっと歩くか」
埃っぽい城内を見て回ることにした。ずっとここにいるわけにはいかない。なにがあるかなんてわからないし未知の領域であることは間違いない。夢である可能性も否定できないが。
なんというか、埃っぽいのだけれど埃が舞っているわけではない。砂埃、という言い方が正しいだろう。よくみれば地面にも埃が積もった様子はない。
おかしいぞと、足を止めた。
荒れているし崩落している。それなのにいろんな人間が入った痕跡、その他獣っぽいなにかがいた痕跡が多々ある。糞尿とかそういうものはないが、人の足跡があちらこちらにあるし、獣の噛み跡や爪あとがたくさんある。そして今も、何者かの気配を感じている。気配なんて生易しいものじゃない。明確な殺意や殺気の類だ。
背筋に冷たいものが伝う。少し暑いくらいに感じていたのに、今は寒くて仕方ない。
俺は武道の嗜みなんてない。あるのは中学の三年間バスケをやってたことくらい。そんな一般人でもわかるくらいの殺気。
後ろだ。
ゆっくりと、恐る恐る振り返った。
角からなにかが覗いていた。ゲームなどで見たことがある。黒い甲冑、首を左手で抱え、大きな剣を右手で持つ。デュラハン、首なし騎士と呼ばれるモンスターだ。
一歩、また一歩と近付いてくる。
逃げなきゃと思うのに、身体が固まってうごかない。前にも後ろにも、体も心も動けない。
俺の気持ちとは裏腹に、デュラハンはこちらに近付いてくる。
十メートル、歩調が早くなった。
五メートル、大きな剣を振りかぶった。
そして、気がつけば剣が眼前に迫っていた。
「じっとしてなさい」
耳元で凛とした女性の声がした。
刹那、肩を掴まれる。いや掴まれたんじゃない。俺を台にして誰かが飛んだのだ。
それにしても軽くて速い。
上空を黒い影が通過していった。
今の声の主であるだろうとすぐにわかった。その女性は空中で縦に回転しながら、ディラハンの向こう側に着地した。
いつの間にか、俺に迫っていたデュラハンの身体が半分に割れ、俺を避けるように左右に落ちた。
重なりあった金属が擦れ合う音。彼女がこちらに歩いてくる。光を反射する銀色の長い髪の毛。少しキツめの目元と、ツンと上を向く鼻。美人ではあるが少し怖いというのが印象だ。ガシャンガシャンと金属音をさせていたのはグリーブだろう。上半身はブラウスのように薄く、下半身もスカートのようだ。一応ガントレットも金属製か。
それにしても、なんて綺麗な女の子なんだろう。耳の奥に心臓があるんじゃないかと思うほど、胸の高鳴りを感じている。もしかしたら吊り橋効果的ななにかかとも思ったが、彼女が可愛く美しいことにはなんら変わりない。
「大丈夫だった?」
声を掛けられ、どうしていいものかと思考が止まった。こんな美人にこんな目の前で声をかけられたのだ、それも当然と言える。
「生きてる?」
「え、ああ、生きてるよ。大丈夫、大丈夫……」
「そう、それならいいけど」
彼女は長い槍を背中に回した。あっけらかんというその姿はなぜか凛々しく、とてもカッコよかった。
「あの、ちょっと聞いていいかな」
「ええ、どうぞ? わかることなら教えてあげるわ」
彼女は口元に笑みを浮かべた。
その笑みもそうだが、髪を払う姿も非常に色っぽい。もしや誘っているのでは、と勘違いしてしまう。
「ここ、どこ?」
「どこって、ウィンザー古城だけど」
「ウィンザー古城って、え、外国?」
「外国という言葉は元々住んでいる土地によるとは思うが。でもアンタは冒険者じゃないの?」
「冒険者? 冒険者なんつー職業があるのかないのかは知らないけど、俺はさっきまで学生してたはずなんだけど……」
「でも冒険者じゃなければキャスターライセンスをもらえないんだぞ? パブリックライセンスは全住民に配られるけど、キャスターライセンスがなければダンジョンには潜れない。でもキャスターライセンスを持っているだけじゃウィンザー古城には入らないと思う」
「そりゃどうして」
「このウィンザー古城は上級ダンジョンと呼ばれているから。レベルが高くないと先には進めない。モンスターに食い殺されて終わるのよ」
「なんで俺はそんな場所にいるんだよ……」
ダンジョン? モンスター? 正直、彼女がなにを言っているのかはわからない。ただ思い当たるフシはある。
あの事故だ。あの事故で俺が死んだのだとすれば、今俺が置かれている状況は一つしかないのだから。
「異世界転生ってやつか、もしかして……」
こんなにいきなり放り込まれても、俺にはどうしたらいいかわからない。俺もゲームとかは好きだけど、あんなデカイのに殺されかけた後だと素直に喜べない。
ふと、ズボンのポケットになにかの感触。しかも前後左右、全てのポケットに違和感がある。手を突っ込んで全部取り出して地面に置いた。
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