天使が我が家に舞い降りた?!

絢野悠

第19話

朝起きると頭痛がした。これが二日酔いというやつかと、昨日買っておいた薬を飲んだ。自分が下戸であると知っていたから、事前に買っておいたのだ。


二日酔いになるほど飲んだことがない。大体の場合、酔う前に吐いてしまうからだ。今回は少しずつアルコールを入れたせいか、いつもよりも飲めてしまった。


洗濯をしながら掃除をし、洗濯物を干してからまた掃除に戻る。一軒家を一人で掃除するのは骨が折れると、大きなため息をついた。


ふと、仏間に視線を向けた。誰かがいたような気がした。


仏間に入るが誰もいない。当たり前のようで、なぜか当たり前ではないような感覚があった。


どうかしている。特に最近は自分でもおかしいと思うくらい、デジャビュや錯覚に見舞われる。病院にでも行った方がいいだろうかと本気で悩んだ。


昼の十二時をすぎ、インスタントラーメンを作ろうとキッチンに入った。二日酔いもあり、凝った料理を作る気になれなかった。


一つ目の袋を開けて鍋へ。そして二つ目の袋に手をかけた。


「なにやってんだボクは……」


本格的におかしい。誰かに料理を作ることなんてなかった。だから癖や習慣で二人分の食事を作るなんてことはありえない。


「疲れてるのかな」


元々眠りは浅い方だが、無自覚になるほど疲れるということは今までなかった。


イスに座ってラーメンを啜る。そこでも違和感があった。どうしてこちら側に座ったのか。キッチンから離れている場所にわざわざ座る理由はない。しかしここが定位置であるような気がしたのだ


あくまで「そういう気がした」という程度でしかない。それがまた引っかかった。


食事が終わると、財布と鍵とスマフォを持って家を出た。ラーメンに野菜を入れた際、冷蔵庫の中身を補充しなければいけないことに気がついたからだ。


前ほど財布を入れる位置を気にしなくなった。鍵もスマフォも同様に、ポケットに入れるだけでよくなった。


少し前までは財布や鍵にチェーンを何本も付けてみたり、スマフォは腕にくくりつけてみたりとさまざまな方法を試した。


近くのスーパーに向かう際、公園から子どもたちの声が聞こえてきた。


子供と遊ぶのは嫌いではない。無邪気でありながらも感受性が強く、大人以上に純粋に物事を考える。なによりも元気よく振る舞う姿を見ているのが好きだった。


自分に子供ができるという未来を、今まで想像したことがなかった。友人さえもいない自分に、結婚を前提として付き合うような恋人ができるとは思えなかった。でも今ならば、そういう恋人を作ることもできるかもしれない。


自分の子供ができたらどういう名前をつけよう。男の子なら、女の子なら。でもきっと、自分の性格からして相手の押しに負けてしまうだろうな。そんなことを考えながら歩いていた。


公園に差し掛かったとき、公園から一人の少女が飛び出してきた。小学校低学年くらいの女の子だろう。少女は腕で目元を多い、よく前も見ずに大通りに向かって走っていった。


「おいおい、このままじゃ……!」


大通りまではそこまで距離がない。少女の足でもすぐについてしまう。


運動は得意ではなかったが、少女の後ろを必死に追いかけた。


大人と子供の体格差は簡単には覆らない。身長百七十以上ある光輝ならば、小学校低学年くらいの少女ならば追いつくことも難しくない。


が、大通りまで距離がなさすぎた。


少女の腕を掴む頃には、彼女は道路へと飛び出していた。


右から耳をつんざくクラクションの音。こちらを振り向く少女の泣き顔。ブレーキの甲高い音がクラクションの音と交わった。


左手で少女の腕を引っ張った。自分の胸元へと引き寄せて、そのまま右手で少女の身体を後ろへと押した。


突如、身体の左側に衝撃が走った。


視界がブレて、動きがスローモーションになった。


跳躍、落下。地面に叩きつけられて、それでも若干意識が残っていた。いや、横からの衝撃自体はそこまで強くなかったはずだ。問題は、横からの衝撃と、落下の衝撃が合わさってしまったこと。


「バカだな」


不幸によって事件に巻き込まれることがなくなった。仕事のミスも減った。失せ物なんかもしなくなった。なのに、自分から巻き込まれに行くなんてバカがやることだ。


しかし、目端に少女が映り込むと、どうしてか笑みがこぼれてしまった。


歩道にしゃがみ込む少女。泣いてはいるが、無事であるとひと目でわかった。


「よかった……」


そう言いながら目を閉じた。身体は痛いが、妙に身体が温かかった。


こんな姿を見て、あの人はなんて言うだろうか。そんな考えが浮かんできて、直後に「あの人」について思い出し始めた。


両親か、いや違う。兄か、いや違う。友人は、いない。ではあの人とは誰のことか。


鼻歌が聞こえてきた。あの人がよく歌っていたような気がする。


暗闇の中で光の輪郭がその人を形作る。こちらを振り向いた。あの人とは、女性だ。間違いない。


だが、思考を保てたのはそこまでだった。


次の瞬間、光輝の意識は途絶した。

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