元魔王様(55)が大人しくしてくれない

絢野悠

最終話 〈現在〉

エリックの子どもたちは、七天将から「自分たちはすでに死んでいる」という事実を聞かされていた。だから魔蝕魂縛バンドとの契約を切ったという話をしても驚きはしなかった。ただ、落胆だけは隠せなかったようだ。


問題はリオノーラであった。ドルキアスたちが死んでしまったことを上手く説明できなった。どう説明しようかと迷い「遠くに行ってしまった」と言ったら「死んじゃったんだよね」と返ってきた。その時は驚いたが、ドルキアスならばやりかねないという気持ちが先行して、どうしようもなく笑いがこみ上げてきた。


ドルキアスはリオノーラに告げていたのだ。自分たちは偽りの命で生きていて、そのせいでエリックが死んでしまうということ。エリックを生かすには自分たちが本来あるべき姿に戻らなければいけないこと。


だからリオノーラは言った。「わたしがエリックを守るの!」と。エリックは彼女を抱きかかえ「そうか、そりゃ心強いな」と言った。


どこまでも殊勝な男だと、空を見上げて思った。


ドルキアスに関わらず、他の七天将もエリックに嘘を吐かせたくなかったのだ。真実を自分の口から告げ、エリックには嘘が吐けないように仕向けた。


子どもたちは自分の生活に戻っていった。長期休みには帰るという約束をして、あとは特に会話はなかった。


ランドールは帝王裁判にはかけられなかった。その代わり、普通の裁判にて終身刑。帝国内で最も強固だと言われている刑務所へと移送された。


ダレットは数々の汚職がボロボロと出てきて、こちらもまた終身刑。どちらも執行猶予無しとのこと。


実はエリックが根回ししたのは、エリックとマティアスだけの秘密である。


あれから半年。人間と魔族たちによって魔王城は再建された。綺麗になった自室で、エリックは「落ち着かないな」と呟いた。


元々肌色だった肌だが、魔王として振る舞う時に限って灰色に変色させる。角と牙を生やして威厳を強調、一般の前に姿を晒す際には言葉にも気を付ける。


自分は魔王の地位に戻った。けれど、戻らないものが多すぎた。


「えりっくー!」


バタンとドアが開け放たれて、一人の少女が入ってきた。リオノーラだった。


赤いドレスに身を包み、しかしそれをまったく気にしていない。


「リオノーラさま! 何度言えばわかるのですか! お淑やかになさってください!」


後ろから侍女が追いかけてくる。が、エリックの部屋に入るか入るまいか迷っている様子だった。


駆け寄ってきたリオノーラを抱き上げると、彼女が胸に顔を埋めてきた。「うー」と言って顔を擦り付ける。


「ちゃんと言うことをきかなきゃダメだろ?」
「だってーお勉強めんどうくさいんだもんー」
「これも必要なことなんだ。学校に入るためには最低限の作法と学力が必要だからな」
「学校なんて行かなくてもいいもん」
「そしたら俺が悲しい。お前にはいい生活をさせたいんだ。お前が成長した姿が見たいんだ。誰かが悲しむのはイヤだろう?」
「うん、イヤ」
「ならしっかり勉強しなきゃな。よし、俺が教えてやろう」
「うーん、それならやる」
「よし、いい子だ」


リオノーラの頭を撫でて部屋を出た。申し訳なさそうについてくる侍女に「気にするな」とだけ言っておいた。


きっとリオノーラは魔界を背負って行く。それが何年後になるかはわからない。だが、その時に「彼女が生きたいと思える世界」であればその限りではない。彼女が生きたい世界、彼女が命をかけようと思える世界に。そのためには地盤を作らなければならない。それは自分の仕事であり、自分にしかできないと自負している。


しかしそれまでは自分が魔王なのだ。魔王らしく、魔王たれ。死んでいった者に対して敬意を払い、二度とこのようなことが起こらぬように尽力するのだ。


リオノーラはまだ若い。辛く苦しいこともたくさん経験する。できることならば、それを受け止めてやりたいと思っている。だからこそ彼女と一緒に歩くのだ。まだ見ぬ未来を切り拓くために。









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