元魔王様(55)が大人しくしてくれない

絢野悠

第12話

結局、最後に残ったのはアイザックだけだった。いや、残ったのではない、残したのだ。


「なんなんだよ、お前……」
「さあな。お前が言う正義のヒーローかもな。でもたぶん違う。俺はやりたいことをやって生きてる、その辺にいるただの冒険者だよ」
「ただの冒険者が組織ぐるみの犯罪に首突っ込むかよ」
「突っ込むかもしれないぜ? 俺みたいにな」
「それにクソみたいに強い。ただの冒険者でも、ただの魔族でもない」
「ただの冒険者だし、ただの魔族だよ。ちょっとだけ経験豊富なだけさ。六十も間近なんでな」
「お前はわかってて依頼を受けたのか?」
「そうだって、さっき言っただろ? 最初からおかしいとは思ってた」
「おかしいと思って引き受けたのか。気でもおかしいんじゃねーか?」
「普通とはちょっと思考回路が違うだけだ。それにこんな妙な依頼、俺みたいな妙なヤツしかひきうけねーだろ。俺とは違う思考を持ったヤバいヤツが現れてその依頼を受けるより、俺が受けた方がいいと思った。ただそれだけだ」


アイザックに銃を向けたまま歩いて近づいた。


「檻の中で罪を悔いるといい」


そして、銃を持った腕でアイザックを殴った。アイザックは気を失い、力なく地面に倒れ込んだ。


それと同時に一台のバスが到着した。バスの中からは初老の男性が降りてきた。


「いいタイミングじゃねーか、ヘンリック」


身長は低め、禿げ上がった頭、肥えた腹。ハンカチで汗を拭きながらエリックの元へとやってきた。


「いいタイミングじゃない。従者を使って無茶苦茶言って。なにがしたいんだよキミは」
「来て早々文句か? いい身分じゃねーか」
「ボクがキミの願いを聞いて貸し借りはチャラなんだろ? だったら身分もなにもないだろ。それにキミはもう魔王じゃない」
「でも魔王時代にお前の仕事の口利きをしてやったのは俺だし、冤罪だって晴らしてやっただろうが。商会のパイプを作ってやったのは誰だったかな?」
「そ、それはキミにも利益があったからじゃないか!」
「そうさ、利害が一致してた。しかしこっちはお前じゃなくても良かったんだぜ?」
「く、クソッ……」
「そういう顔すんなよ。魔族だってのは隠して生きてきたんだろ? バレちまうぞ?」
「もういいよそういうの! で、なんでこんなバス用意させたの! それと追加の要求ってなに! バスだって買い付けるの大変だったんだからね! 高いんだから!」
「なーに、簡単なことだ。孤児院を一つ作って欲しい。んで二十三人くらいそこにガキども突っ込みたいんだよ」
「なに言ってるの?! わかってるの?! 施設一つ作るのってお金かかるんだよ?! 運営費だってタダじゃないんだから!」
「お前の商会めちゃくちゃデカイだろうが。だからお前に声掛けたんだよ」
「いくらお金があっても限度があるじゃないか!」
「その限度を見越しても、お前の財力ならなんとかなるって思ったんだよ。なによりお前は俺と同じだ。あの時、アルトマン商会がスケープゴートにされたのだって、お前が重犯罪を見て見ぬふりできなかったからだろうがよ。ヴィンケル商会なんつークソデカイ商会相手にしても、その悪行をなんとかしたかった。んで敵に回しちまった。俺はお前の正義感と責任感に同情して、同調したんだ。だから今回はお前が俺に同情して、同調してくれよ」


ヘンリックは頭に手を当て、大きなため息をついた。


「その子供たちはどこの子なのさ」
「この先の孤児院のガキどもだ」
「その孤児院でいいじゃないか」
「孤児院の殻を被った、人身売買のための収容所だよ」
「なるほど、キミらしいな。この男たちもその関係者ってこと?」
「ようやくそこに話がいったか。そういうことだよ。軍部にも連絡入れておいてくれ。まあ、軍部が来る前に俺は逃げるけどもな」
「あー、今となっては元魔王を追う人は多いからね。わかったよ、キミの要求を受け入れよう。でもこれっきりだからね」
「恩に着るよ」


そう言って、エリックは孤児院へと戻っていった。ヘンリックは軍部を呼んでからの到着になるだろう。


孤児院のドアを開けると子どもたちが集まってきた。


「エリック……!」
「リオか、待たせたな。戻ってきて早速で悪いが、ここの孤児院は今日限りで閉鎖だ。ちょっとした事件があってな。その代わりにもっといい場所を用意した。今から来るバスに全員乗れ。ヘンリックってヤツが全部やってくれるだろうよ」
「あの、エリックさん」
「どうしたエリシャ、心配そうな顔して」
「アナタは、何者なんですか? もしかして私たちをどこかに売ったりするつもりなんですか……?」
「あー、んー、まー、そうだな。そう見えるわな。でも事実は逆だ。ここが人身売買のための場所だったんだよ。だからいろいろ手配した。信じるかどうかはかなり難しいだろうな。そんなこたぁわかってる。最初にいい顔で親切にして、後から裏切るヤツなんぞ山ほどいる。しかしなぁ、今は信じてくれとしか言えないんだわ」
「アナタが言うことはわかります。真摯で、生真面目さが感じられますから。でも私も含めた年長者全員が納得しますでしょうか」
「納得はしねーだろうな。ただよ、俺にも四人の子供がいるんだ。ガキがいる親の気持ちとしちゃ、ガキが悪い大人たちにいいように扱われるのはイヤなんだ。俺は生きたいように生き、やりたいようにやりたいんだ」


エリックがニカッと笑うと、エリシャが諦めたように微笑んだ。


「困った人ですね。そこまで割り切られては、信じてみたいと思ってしまうじゃないですか」
「信じてくれよ。で、他のガキどもにも言っておいてくれ。「あのおじちゃんは味方だ」ってな」
「エリックさんはこれからどうするんですか?」
「訳あってすぐに発たなきゃならん。近いうちに会いにいくさ。さあ、説明してやってくれよ」
「はい、わかりました」


バスが到着し、エリシャやその他の年長者組によって子どもたちがバスに乗り込んでいく。


バスの中からエリシャがこちらを覗き込む。いや、エリシャだけではない。子どもたち全員がエリックを見下ろしていた。


「それじゃあな。ガキども」


親指を突き立て、爽やかに笑った。子どもたちは手を振り、皆笑っていた。


バスがゆっくりと動き出した。


バスを見送ったあとで、軍部の魔動車のサイレンが聞こえてきた。
「さて、そろそろ行くか。ラマンド、ユーフィと連絡を取れ」
「もうバッチリですよ」
「じゃあ行くぜ。全力で走るからしっかり掴まってろよ、リオ」
「うん! がんばる!」


エリックがリオノーラを抱え上げた。そして、教会の右側にある森の中へ入っていった。魔力で身体を強化して、エリックは目的の場所へと急いだ。

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